TOP
★短編小説19 - 2006年07月01日(土)
[ いいわけ ]
殴り合いにまで発展した喧嘩のせいで、顔の痣は相当酷いものになった。 もう一週間も経ってるのに、治る気配すらない。 殴られた勢いで、口の中も切れた。 最近はその傷が悪化して、口内炎にまで発展してる。 これがまた厄介なことに治りにくくて、いつまで経っても消えてくれそうにない。
喧嘩の最中、勢い余って二人の関係は終わりを迎えた。 次の朝になればお互い冷静になれるかと思ったけど、別れてちょっと安心している自分がいた。 だから、無理に二人の関係を修復をしようとは思わなかった。 これできっと終わりなんだろうと思うと、あの時お互い勢い任せだったくせに、妙に納得出来たりもしていた。 喧嘩をしてから3日経っても、二人の関係がまた元に戻ることはなかったし、元に戻らないことに対して違和感を覚えるようなこともなかった。
それから、あっという間に一週間が過ぎて。 あの時勢い任せで別れて、このままでいいのかと思い直してみても、関係をまた元に戻す勇気が俺にはなかった。 流川があの日以来、なにも言ってこなかったせいで、俺は終わりを迎えたんだとしか考えられなくなった。 向こうが落ち込んでいたり、やり直したいという兆しが少しでもあれば、少しは救いようがあったものの、流川は相変わらずの無表情。 いつもと変わらない顔をして、バスケと睡眠を繰り返しているように見えた。 だから俺も、あぁもう終わったんだなと、他人事のように事態を把握して。 勢い任せではあるけれど、さよならを言われた瞬間に納得出来てたくせに。
本当は全然納得がいってなかった。 今更になってやっと、別れを同意したことに、後悔し始めた。 もう遅いと分かっているから、「やり直そう」とは言えない。 なのに、上手く行ってたあの頃のことを思い出してみたり、やり直せたときのことを想像している自分がいる。 なにしてんだろ。あほらし。 そう思ってみても、やっぱり心に引っ掛かって仕方なかった。
夕飯の片付けをしているときに、ふと目に入った。 食器棚にある、いつも流川が使っていたグラスが、いつの間にやら奥の方に追いやられている。 それを手に取ると、居間に持って行って意味もなくテーブルに置いた。 ガラスで出来たブルーのグラスは、前から家にあった物だった。 蛍光灯の光を反射して、光るそれをじっと眺めて、やっぱり捨てようと思った。 アイツが使わなくなったのなら、もう用はない。 捨てるんだったら、跡形も無いほうが良かった。 無性に割りたくなって、ビニール袋の中にグラスを入れる。 口を閉めて、あとは割るだけになったけど、やっぱり手が言う事を聞いてくれなかった。 決別しようとしていても、いつまで経っても出来ないでいる。 「さよなら」に「さよなら」と返したくせに、無責任なまでに感情が矛盾していた。 硬く締めた袋の口を開けて、またグラスを手に取ってみる。
あぁ、そういえば、ここ一週間、アイツを忘れたことなんてなかったっけ。 気が付けば、お別れしてから、アイツへの想いが募って仕方ない。 自分がバカで情けなくて、でもどこかでアイツを求めている自分がいて。 帰って来てくれないかと、妙な期待を心に孕んでる。 「あの時は勢い任せだった」なんて、言い訳をして。 1%も無さそうなその可能性に縋ってる自分が嫌いで嫌いで仕方なかった。
帰って来てくれたら、もうあんな下らない事で怒ったりしねーよ。
そう思った瞬間、涙が出て止まりそうもなかった。
...
←過去
未来→
TOP
 |