BERSERK−スケリグ島まで何マイル?-
真面目な文から馬鹿げたモノまでごっちゃになって置いてあります。すみません(--;) 。

2006年01月30日(月) 「青い狐の夢」8



 荒野へひっそりと座っていたセルピコに
表面からはわからぬ微かな緊張が走る。
この丘を登ってくる、人の息づかいを感じた。
かなり苦労をしている様で若い学生ではない事がわかる。
殺気は無い。何者なのか?
恰幅のいい男の、荒い息づかいが近づいてくる。

「ラテン語も完璧だな。
 ふう、若い者は足が速くて困る」

 聞き覚えのある声だった。
振り向くとその人物は、先日セルピコをかばった神学校の教授であった。
かれは慌てて立ち上がる。

「ああ、そのままでいい。私も座りたいくらいだ、はあ。
 酒場にもいない、博打もやっていない。
 学生に聞けば、にやにや笑ってこの丘を指差すだけだ。
 まったく、なんの酔狂で若い男がこんな所で陰気に座っているのだ?」

 教授は一気にまくしたてて、セルピコの横にどっかりと座り込んだ。

「いえ、僕は盛り場が苦手で…、それにこちらには来たばかりで
 飲み友達もいませんし……」

「それで、ここか。
 あそこに君の高貴なる美の女神がいるという訳だ」

 息があがってしまった壮年の教授は
天をあおいで尼僧院へと手をかざした。

「……あそこに居るのが美の女神だったら
 僕でも詩人になれたかもしれません。
 でもあそこに居る方は、愛されも憎まれもせず
 その理由を教えられもせずに、世界に怒りを募らせている子供……
 いや、ある意味無垢な生き物がいるだけです」

「ふん、君の話もじゅうぶん詩的だよ。
 ”愛して”もやらなかったのか?君がだ
 それともそんな気にならない程……」

「教授……」

 汗をふきふき、ヤーノシュだと熊の様な体格の師は名乗った。

「ヤーノシュ教授、ご存知の通り僕は平民出であるところを
 ある偶然でヴァンディミオン家に拾われ、お嬢様のお側付きに
 引き立てられました。
 今は外面の体裁も取り繕いましたが、”従者”である僕が
 いくら女性としてお美しくても、お守りするべき令嬢を
 どうして愛する事も憎む事も出来ましょう?」

 まるで男ではない様な言様だ。ヤーノシュはぼそりと感想を述べた。
しかし

「君には、随分混みいった事情がある様だ。
 君がただの男であったなら、くだんの令嬢も救われたろうよ」
 
 ”混みいった事情”か……。
 この教授は油断ならないと思いつつ、その通りを言い当てられた。
ただの男としてファルネーゼの前に存在出来たなら
どんなに楽であった事だろう。
皆で彼女を居ないが如く扱って、美の女神になれた筈の高貴な令嬢を
荒れ狂うケダモノの様な存在に仕立て上げてしまったのだ。
そういえば処女神は荒々しい戦いの女神でもあったな
セルピコは、そんな埒もあかない事を考えた。




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