朝一番に、課長がおれに一言 「部長室行って来て。異動のことだと思う」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
この時期に、異動のことでわざわざ部長室に呼び出されるとしたら、用件は一つしかない。 おれの4月からの東京行きが決まったのだ。
でも、思ったほどの心の動揺はなかった。 決まってしまったことは、まあ仕方ないと受け止める他ないから、それ以上考える必要がないからだ。 選択肢がないことは楽でいい。
部長室に入ると、部長からも一言 「先日のあの話だけど、君に決まった」
部長はいかにも「選抜された」かのようにフォローしようとするが、目が微妙に泳いでいる。 それもそのはず。
東京行きの話は、選抜されたからではなく、他に行く奴がいないからおれに来たということは、誰だってわかることだからだ。
だから誰からも「よかったねー」とは言われない。
おれだって、行きたいわけじゃない。
それでも、これでよかったのかもしれない、とも思う。
小さな子どもだった頃想像していたよりもはるかに、はかなく、それでいてそれほどおもしろいものでもないおれの人生に、少し刺激が生まれるかもしれない。
東京に行くことが、おれの人生にとって、結果として凶だったとしても、どうせ人生はなるようにしかならないのだから、仕方がない。
それにしても、今までやったことがない引越しをしなければならなくなったのは、頭が痛い問題だ。
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