37.2℃の微熱
北端あおい



 切手の中の少女

大槻ケンジ『リンウッド・テラスの心霊フィルム』(手に取ったのは角川文庫版、思潮社版が初!?)がいいと聞いて目を通してみた。
文が若いことよなぁと思わせられてしまうものの、きっとこの詩人やあの作家もお好きなのであらせられることよ、と予測させられてしまうものの、
妙に心に残るのでした。
だって、昨今、切ない物語は濫れているものの、狂気と切なさをふたつ並べて書けてしまうなんて! なかなかいらっしゃらないのではないでしょうか?
理性的で醒めている視線が崩れないのに脱帽。
でも、狂った人間を徹底的に醒めた目で傍観しているところが、よけいに切なくて臆がちくちく。
あれあれ、大好きな映画『ベティ・ブルー』のように切ない狂気や狂おしさではないのに!?
でも好き。どちらかというと詩より散文が北端の好みでした。
だから、あえて大槻ケンジ作品へ手をのばすのを躊躇っていたり(これって、貶むべき社会性!?)。
ああ、でもこんなこと書いていたら明日は『ステーシー』を買いにいってしまうにちがいありません(嘆息。いままでは本屋で立読のみ)。

処で某様、「何処へでも行ける切手」の歌から綾波レイ=眼帯包帯少女のイメージが造られたという話は本当です!


神様に
おまけの一日をもらった少女は
真っ白な包帯を顔中にまいて
結局 部屋から出ることが無かった
神様は憐れに思い
少女を切手にして
彼女がどこへでも行けるようにしてあげた
切手は新興宗教団体のダイレクトメールに貼られ
すぐに捨てられ
その行方は 誰にももうわからない

(大槻ケンジ「何処へでも行ける切手」『リンウッド・テラスの心霊フィルム』角川文庫、1992より)

2005年09月09日(金)
初日 最新 目次 MAIL HOME


My追加