柊小説

2006年02月18日(土) アカイヌクモリ  ―――Ⅳ-2―――

 四人が部屋を出たのは、連ドラが始まる二一時ちょっと前だった。空腹を抱えてリビングを通ると、母親とカオリがテレビを見ていた。
「あれ、みんな帰ったの?」
母親にそう訊かれ、今帰った、と言った途端、カオリに叱りつけられた。
「シド、ご飯くらい一緒に食べるようにしなきゃだめだよ!お母さんの片づけが一回じゃ済まないでしょ」
「テメーで食ったもんはテメーで片づければいい話だろ?あんまりうるせーこと言ってると、シンジに嫌われるぞ」
カオリは顔を赤らめた。すかさず母親に、あら、と突っ込まれていた。シンジはカオリのお気に入りだった。顔と筋肉質の体、それと謙虚なところが気に入っていたらしい。
「今日は……来てたの?シンジくん」
顔を赤らめ俯いたままカオリが訊いてきた。
「大体毎日来てるけど、話したいか?」
「別に、いいよ!恥ずかしいからやめて」
あっそ、と言い僕はドアノブを握った。
「ご飯、テーブルの上に置いてあるからチンして食べて」
「ああ」
僕はドアノブを半回転させてリビングを出た。これが家族と交わした最後の言葉だった。

 夕食を食べ終えて、部屋で音楽を聞いたりテレビを見ていると、いつの間にか時間は日づけを変えていて、午前一時三十分を回っていた。風呂に入らなくては、と思いパジャマを持って再びリビングを通ると、静まり返った室内に電話の呼び出し音が鳴り響いた。母親もカオリも既に寝ていて、親父は仕事からまだ帰っていない。僕はパジャマをソファーに投げて受話器をとった。
「もしもし」
「シド?」
「サジか、こんな時間に何だ?」
「今、何やってる?」
「これから風呂入ろうとしてた。何で?」
「今ヒロトんちにいるんだけど、これから峠までドライブ行かねえか?」
「ドライブ?足は、バイク?徒歩ならお断りだ」
「んなわけねえだろバカ。車だ」
「車って誰の?」
「ヒロトだ、あいつの親父の。知ってたか?あのチビ車乗れるんだぜ。俺もさっき知ったんだけど。あー、でも俺も今練習して問題ないって言われたから、運転は俺」
「あいつ車まで乗れんのか?つーか遠慮しとく。お前の運転だろ?まだ死にたくない」
「うるせえヤローだな。で、どうすんだよ、行くよな?」
「ああ、行くよ。あとは、誰がいるんだ?」
「シンジ。リョーキは連絡がつかなかった」
「シンジもいるのか!?オッケー。──サジ、愛してるぜ」
「何だお前、そっちに目覚めたか?まあ、俺も愛してるけど。とりあえず今から出るから……そうだな、十分弱でつくと思う。外出て待っててくれ。あっ、そういえば──」
「何だよ?」
「もうヒトミとはトラックの箱でパコパコしたのか?」
「……関係ねえだろ、ぶん殴るぞテメー。どうでもいいから、気をつけて来いよ」
「ああ」
 ヒロトが車を運転できることにも驚いていたけど、そのことよりもシンジが一緒にいるということに僕は胸を躍らせていた。サジに、愛してる、と言ったのもシンジがいたからだ。けどそれは、決してシンジに恋心を抱いていたからではない。僕はシンジに、大事な話をしなければならなかった。誰にも聞かれないように──。
 ヒトミがリョウコから聞かされていたのは、恋の悩みだった。リョウコはシンジに片思いをしていた。外見からは想像もできないほど、リョウコは恋に限ってはネガティブだった。一年が始まった直後からシンジに思いを寄せていながら、自分の心の中だけにその気持ちをとどまらせていた。そして、誰にも打ち明けられない辛さが限界に達して親友であるヒトミに相談を持ちかけた。ヒトミは、そんなに長い時間好きでいたんならすぐに告白しなきゃ、とリョウコを後押しした。リョウコも告白することに気持ちを固めたけど、その前にどうしてもシンジが自分をどう思っているのかが少しでも知りたい、ということでヒトミから、できるだけ二人の時に訊いておいて、と頼まれていたのだ。それでもシンジと二人になることは難しくチャンスがなかった。
僕自身もこのことには、電話ではなく直接話をしたかった。だから、今日は絶対にシンジに伝えなければ!と意気込んで外へ出た。

 外は、虫の微かな鳴き声と風の流れる音がして僕の気持ちを静粛にさせた。風は涼しいというよりかは少し肌寒く、僕は内腿に両手を挟んだ。空を見上げると星は数えきれないほど姿を現して、明日も晴れるから、と僕に呼びかけているような気がした。
 家の前でしゃがんでしばらくシンジにどう話そうかと考えていると、車のエンジン音と共に激しくパッシングを喰らった。サジ御一行だ。僕の前でクレスタが停まり、後部座席のドアを開けるとシンジが、よっ!と煙草の持っている手を軽く上げた。僕も、よっ!と言いながらシンジの隣りに座った。運転席を覗くとサジが楽しそうに、
「おう!パッシング、十五秒前に覚えたばっか!」
と何度もそれを繰り返していた。
「いいから早く出せよ」
助手席のヒロトが何故か冷えているビールを僕とシンジに渡しながら言った。前の二人は既に手に持っていてタブも上げられていた。
 車が走り出してすぐヒロトに、いつの間に車なんて覚えたんだ?と僕は訊いた。ヒロトは、二、三週前、と振り返らずにボソっと言った。相変らず無愛想なガキだ!
サジの運転は、急ブレーキ、急発進、急ハンドルが多くてぎこちなかったけど、二時間足らずで覚えたとは思えなかった。
 車中は意外にも静かだった。疲れと眠気からか、夜中の二時を回ろうとしている中、誰も口を開こうとはしなかった。ただ、レッド・ホット・チリペッパーズの曲が車の流れと共に響いているだけだった。僕も眠かった。目を閉じれば朝まで目覚めることはないというくらい──。けど、それを打ち消したのはサジのある一言だった。
「お前らに質問。もし、世界中の奴らが口々にしている〝世界平和〟が実際に起こったら……その時世界はどうなると思う?身分、人種、男女差別、貧富の差、戦争、不況、そういうものが一切ない世の中になったとしたら……。当然俺は自分なりに考えはまとめてある。お前らの考えが聞きたい」
しばらく沈黙が続いた。僕も眠気を覚ましながら懸命に考えた。それでも世界を相手にして物事を考えたことのない僕にとってサジの質問は素晴らしく難問だった。そんな出題者のサジは僕らを急かすことなく黙って峠へ向けて車を走らせていた。
「わかんねー。つーか知るかよ、そんなの」
よい子の寝る時間を疾うに過ぎてしまったからだろう。頭が回らなくなったヒロトは投げやりにギブアップした。それからしばらくして、
「俺もわかんねえ。見当がつかない。ただ、そうなるといいなって思うだけ……」
シンジが運転席のシートに頭をつけて言った。シンジがギブアップしたのは意外だった。こういう場合、僕とヒロトが潰れた後にシンジがもっともなことを言ってくれるのがパターンだったからだ。
「シドは?」
サジに答えを急かされた時、まるで一〇〇〇ピースのパズルが一瞬にして完成してしまうかのように、その答えがひらめいた。
「──多分、だめになると思う。世界には今、核兵器を造ってる国もあれば、内戦をしてる国、餓死する奴が絶えない国もある。でも、そういう国があるからこそ世界はバランスをとっていられるんだと思う。助け合うっていうのか。それとは逆に僻(ひが)み合うって言い方もできるな。世界平和がもしきたとしたら、それは世界大戦の始まり。人間は誰でも独占意識をどこかに持っている。世界に差別とか貧富の差がなくなれば必ず独占したいって考える奴が出てくると思う。今までよりも残酷で卑劣な独裁者が。それも同時にいっぱい。ヒトラー、レーニン、ポルポトなんかより身勝手で心を持たない連中が……。そうなったら世界はそいつらを殺すために攻撃する。イコールそれは戦争だ。結局、世界平和がきたとこで世界はまた戦争っていうくだらねえ過ちを繰り返すことになる。人間なんてそんなもんだ。だから、内戦とか飢餓で苦しんでる国はかわいそうだけど、そういう国があるからこそ世界は動いていけるんだ。幸福、不幸の両方があるからこそ世界はバランスがとれる。不幸が全くなくなった時は、その後にもっと残酷で無残なことがあるような気がするけど……」
これ以上言うと逆にボロが出る恐れがあったために僕は言葉をきった。シンジは、なるほどね、有り得るかも、と頷いてくれた。ヒロトはサイドガラスに頭を当てたまま動かなかった。
「シド、これから二人してラブホにでも忍び込むか?俺も全く同じだよ。世界平和なんて一生有り得ねえ。あっちゃいけねえんだ。バカがわんさか出てくる兆候だからな」
「それより、サジは何でそんなこと考えたんだ?」
今度はシンジがサジに訊いた。
「それはな、バカなりに考えられる頭を持たなくちゃいけねえと思ったからだ……よ」
サジは恥ずかしそうに後ろに傾けていた首を前に戻した。
「……ホテル行くのか?どうでもいいけど、この車はホモ乗車禁止だ。テメーら二人、今すぐ降りろ」
寝ていると思っていたヒロトだったけど、しっかり話を聞いていた。
「バカ!ホモは俺じゃねえ、シンジだ。今日だってリョーキのケツを……なあ?」
「俺に振るんじゃねえよ!」
「じゃあシンジ、降りろ」
「テメー……ヒロト!信じんのか!?じゃあ、お前は何だよ?」
「バイセクシュアル」
「チビ、たまにはおもしれえこと言うじゃねえか」
笑いながら左手で肩を叩くサジにヒロトは、バカに褒められた、と小声で言った。聞き逃さなかったサジは、ナメた口利くんじゃねえ、と運転そっちのけでヒロトに絡んだ。
「危ねえバカ!前見ろ前!」
シンジが体を乗り出してハンドルを握った。あと少しで縁石に乗り上げるところだった。ヒロトは落ちついた様子で窓から顔を出し、縁石に接触していないか確認していた。サジは動揺したのか、体を直角にしてハンドルを握っていた。車中はシンジの笑い声が響いていた。僕はそんなシンジを見ながらサジと同じように三人に質問した。
「じゃあ次は俺から質問。この前ヒトミから、周りから野蛮人って思われてるのってどんな気分?って訊かれたんだけど、お前らがそう思われるきっかけみたいなものって何だ?」
僕がそう言った途端、三人は首を傾げながら考えてる様子だった。そして、しばらく経ってからサジが答えた。
「俺は小五だな。初めての調理実習の時だったと思う。何を作ったとか、そういうのは全然覚えてねえけど、クラスに絶対一人はいるだろ、その手の授業になると必ず調子づく奴。まあ、そういう奴がいてよ、確か匙加減の匙と俺の名前をかけやがったんだ。初めは笑って流してたんだけどあまりのしつこさに限界がきて、そいつの喉元に傍にあった包丁突き出して、殺すぞテメーって言ったんだ。もちろん本気だった。本気で突き刺すつもりだった。刃の先は喉についてたしな。でもその時さ、家庭科担当のおばちゃんが止めに入ろうとしたんだけど、衝撃がデカすぎたらしくて失神しちゃったんだなこれが。おまけに包丁突きつけられてる奴は失禁。まあ、その後ボコボコにしてくれたけど──。俺はそれがきっかけだな」
サジは頷きながら言葉を止めた。そして、シンジも続いた。
「俺は──俺はっていうかリョーキも一緒だと思うけど、やっぱり空手かな。人をテメーの力で倒すっていう快感をガキの頃から身につけちゃったからな。それが純粋に格闘家としての方向にいけばよかったんだけど……そうはいかなかった。で、ヒロトは?」
「言う必要あるのか?」
僕ら三人はヒロトの顔を凝視して頷いた。どんな言葉が返ってくるのか?他の奴よりも気になった。サジもシンジも同じだったに違いない。
「──天性だ」
その瞬間、車中には溜息交じりの、意味わかんねー、の声が響いた。
「そういうお前はどうなんだよ?」
運転席から首を少し傾けてサジが訊いてきた。僕は思うがままに言った。
「俺はお前らと会ってから。それと、家族のことを聞かされてからかな。まあ、昔からちょっとしたイタズラはしてたけど、お前らに会って拍車をかけられたって感じだな」
隣りのシンジをちらっと見ると、流し目をするようにビールを口元に傾けながら僕を見ていた。
「あっそう……。じゃあ番外編な。こいつらはどうだか知らねえけど、俺がお前とつるもうと思ったわけ」
サジは照れ臭いのか、今度は首を傾けることなく正面を向いたままだった。
「とりあえず匂いがした。自分と同じ匂いが──。それでなんとなくつるんでるうちにピストルズのこととか、俺がそれまで全然知らなかったこととかを話してくれたから、こいつはちょっとって思った。俺はお前の顔は好きじゃねえけど口から出る言葉は好きだ。もちろん話もな」
俺もそれは思う、とシンジも乗ってきた。
「別に大した話じゃなくても、シドが話すと何か面白く聞こえる」
「俺は何とも思わねえ。ただお前が近づいてきたから仕方なくいるだけ」
ヒロトは乗らなかった。それでも仲間から自分はそんな風に思われていたんだ、と考えると後頭部を掻きたい気持ちになった。また、ふとした拍子で恋愛やこの時と同様、深い話になると仲間からはこう言われた。
〝シドは環境に恵まれている。できのいいお友達と、バカを尊重してくれる風変わりな親。だからどんなに悩んだりしても、普通の中坊じゃしょうがなく忘れるしかないことでも、どうにかってより軽々打開できるんじゃないかと思うんだ〟
僕は周りの人間からすごく大人で、ある程度は自立できていると思われている、というか言われている。けど、僕自身はそんなこと微塵も思ったことがない。僕はシノブとマユミというちょっと一般的ではない両親。それに頼りなくて弱々しいけど、姉カオリがいなければ何ひとつできないし、自分の考えというものを持つことができなかっただろう。それは仲間という存在も大きく後押ししてくれたと思っている。

 「ヒトミは?」
「あっ?」
「あいつは何て言ってんだ?お前のこと」
サジは真夜中だというのに、田舎のタクシー運転手のように喋り続けた。
「言ってもいいのかな?まあ、いいか。僻むなよ。──他の奴には持つことのできない何かを持ってるって、そう言われた……」
「──ユリナさんと一緒じゃねえかよ。なかなかびっくり発言だな。でも、お前には女を惹きつける何かがあるのかもしれねえな」
僕は得意気な顔をして隣りに座るシンジを見たけど、シンジは窓の外に目を向けていた。
 家を出て三十分が過ぎた頃、車は峠を登っていた。前にも後ろにも車は見えず、当然対向車も来なかった。また、アスファルトが崩れていたり、真っ暗で細い峠は何に出くわすかわからないということで、ライトを遠目にして進んだ。
 しばらく登ると、この辺だ、とヒロトが端に車を停めさせた。一人で勝手に車から降りていくヒロトに僕らも続いた。峠の道は高い岩壁とガードレールに挟まれていて、車がすれ違うのは難しいと思える狭さだった。時々、山中から動物とも虫とも思えない鳴き声が聞こえてきて、僕らはその度に耳を澄ました。
「う~さむっ!やっぱまだ学蘭だけじゃだめだな。こんなに冷え込んでるとは思ってなかった。──で、ここは何だよ?」
サジが腕を交差させて小刻みに震える体をさすりながらヒロトに訊いた。
「ここはな、市街地が一番よく見える場所なんだ。昔親父によく連れて来られた」
ガードレールから身を乗り出してヒロトは言った。僕らも同じように身を乗り出して市街地を探した。そして、市街地の場所は目で追うまでもなく一目でわかるほど、光が溢れていた。そこはまさに昼と夜が逆転した世界だった。風俗街をメインとする市街地は多数の顔を持っているようだった。それでも、そこから見る景色は絶好でとてもじゃないけどその光溢れる華やかな場で、男たちが快楽に溺れているとは想像もできなかった。
「サジはあの中でアヤさんに会ったのか……」
シンジが呟いた。サジは光を見ながら数回頷いた。
「そういえば、お前に女ができたとか、ヤッたとかって話しか聞いてなかったけど、風俗街って実際どんな感じなんだ?」
僕は遠くに光るそれを見ながら訊いた。
「そうだなー、とりあえず狭い通りにソープ、ヘルス、イメクラ、キャバクラ──風俗って呼ばれるもの全てがギュウギュウに詰まってるって感じだった。歩いてる奴はほとんど男で若いのから中年までいろいろだ。まあ、女も多少はいたけど、そこで商売してるような奴ばっかりだった。時々スーツ着た異様な雰囲気のおいちゃんとすれ違ったりしたけど、あれは多分ヤクザだったと思う。でも、ヤクザなんかよりビビッたのは細い路地で、死んじまうってくらいボコられてる奴がいたり、ヤッてる奴らがいたり、死んでるか寝てるのかわからない奴がいたことだ。ひとつの路地で必ずそういうのを見たよ。お前絶対パスポート持ってねえだろ?って外人も結構いたし、コジキもいたな。とにかくあそこはすげえよ、別世界だ。普通の中坊じゃ見られねえもんが見られる。快感はなしにしても、行ってみる価値はある。いつ厳ついのに声かけられるかわかんねえけど」
サジはそう言うと突然、ガードレールを跨いでその上に座ろうとした。
「危ねえ──!」
叫び声と同時にガードレールにしがみつくサジの体は、下から引っ張られるように伸びきっていた。ガードレールの向こうは傾斜ではなく、絶壁だった。
サジはしがみついてることにホッとした表情を見せ、早く上げてくれー、と言った。逆に僕らの方が動揺して汗だくになりながらサジを引き上げたという状況だった。
「危なかったな。新聞の一面飾るとこだったぜ。〝友人三人の前で突然の投身自殺。少年に一体何が?〟ってな」
「崖になってるのか?」
シンジは転がっていた重さのありそうな石を下に落とした。──耳を澄ましても、音は返ってこなかった。
「落ちたら確実に死んでたな。惜しかったじゃねえか」
ヒロトが薄ら笑いを浮かべた。
「チビ、実はここが崖になってること知ってただろ?白状しやがれ!」
サジとヒロトがじゃれ合っていると、シンジが黄昏るように語りかけてきた。
「綺麗だな、ここ。今度ヒトミ連れて来てやれよ」
「バカ、ここまで何使って来るんだよ?足がねえよ」
チャンス!と思った時、サジが話しに入ってきてしまった。
「ここにヒトミを連れて来るのか?ここよりまずは風俗街に連れて行けよ。崖から落ちそうにならねえ限り向こうの方がスリルあるぜ。それより……もうヒトミを紹介したのか?マユミさんに」
「したよ。つき合ってすぐに。それがよ、あいつを紹介した時のお前の大好きなマユミさんは第一声に何て言ったと思う?もうヤッたの?だぜ。それもヒトミのいる前で──」
「ハハァ!マユミさんらしいな。で、ヒトミの反応は?」
「顔真っ赤にしてたけど、笑ってた。でも何か、紹介するって言った時、あいつすげえ緊張してた。俺は別にそうでもなかったけど……」
「違うな。普通は緊張するんだ、中坊なんていったら特に。でもお前は中一の分際でヤッてるのが親にばれたからその緊張感がねえんだ。いいじゃねえか、気楽で」
ヒロトが弱性の毒を吐いた。そして、急に真顔になって話題を変えた。
「──実は今日、話さなくちゃいけないことがある。お前らにだけには話しておきたいことが。できればリョーキもいてほしかったけど……。だから今日は珍しく俺から誘った」
相変らず無愛想で無表情だったけど、薄暗く見えるヒロトの目はいつにも増して鋭かった。
「──去年の九月、学校で炎上事件があったの覚えてるよな?」
「宗教団体のだろ?」
サジが新しい煙草に火をつけながら言った。
「そう、実はあれ……俺がやったんだ」


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