ぶらんこ
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2020年03月15日(日) |
むがりどころ、ニコニコ |
ピクニックに行くよ、と言った母の話を前に書いた。
その時のことを覚えているかと母に訊いたことがある。 今思えば、母はすでに認知症が発症していたように思う。それでも、認知障害とは思わず、年齢によるものだろうと思っていた時期だ。
覚えているよ。 と、母は言った。 その日(週?)は、教会で「巡礼」と呼ばれる旅行があったのだそうだ。 母はそれに参加することが出来なかった。父は既におらず、もちろん旅行に行くような蓄えはなく、しかもくゎんきゃがぼろぼろといる中で、どうして行くことが出来ようか。
前に母はこうも言っていた。 「教会の巡礼だけが楽しみっくゎ」
女手ひとりで子育てをしながらも、巡礼旅行のために細々と積み立て貯金をした。 それが母ちゃんの唯一の息抜きだったのだろう。
あの日、母は巡礼に参加することは叶わなかった。
「ちゅや ごっと 巡礼ち、 母ちゃんや うがしゅん余裕ぬぬん はぐはぐ 情けぬぬん なだがり うとぅる だんば やんきゃや でけぶちくゎんきゃ なてぃや ニコニコしゅん顔 みし わきゃ だか 行こ ち うむてぃよ」
母ちゃんは、気持ちを奮い立たして、そうやって出かけたのだ、あのピクニックへ。
「母ちゃん、すごいね」
わたしがそう言うと、母は笑いながら言った。
すごいち あんにゃ 母ちゃんは 情けなくてや くゎんきゃだか きもさげさ ち うむたんば ありがてなんやー やなんかくゎんきゃは ごっとでけぶちなてぃだろや むがりどころ、 ニコニコ! はげはげ、ありがてなんやー神さま、 ちどが うむたっと
いやいや、母ちゃん、すごいのはやっぱり母ちゃんじゃ。
こんな話 きょでとしたかったやー 母ちゃんの三回忌に。
素晴らしい人生の大先輩に恵まれたことは幸せなこと その人から教わったこと、その人に報いるよう、恥じらんように生きること そういう道順をあんたに示してくださったことに感謝して生きなさい。
もう認知症がだいぶん進んでいた母ちゃんが、この日はしっかりとしていた。 動画に撮れば良かった、とも書いてある。
今となってはもう後戻りできないけれど、この言葉はきちんと残しておこうと思う。 2017年8月2日のこと。
2019年06月09日(日) |
オボクレルハハ、ナンセンス |
3/27/2017
湖からNYへ行くツアーに参加することになった。 わたし、母、姉1、姉2、姉3に兄1と4も一緒だったと思う。 参加者のうちの誰か(アメ人)が、「こんなダサいツアーでNY入りするなんて恥ずかしい!」と冗談っぽく言っていた。 ここはペンシルバニア州の湖らしい。昔からある典型的なツアーなのだそう。
ボートに乗り込むと、それは案外小さな船で、え?こんなんで行っちゃうの?と、拍子抜け。昔、兄2が連れて行ってくれた加計呂麻島への渡し舟程度の大きさ。 そこへ乗客がずらずらと乗り込んだ。
ガイドの案内とともに船が出航した。 わたしは母と姉1と一緒に座った。 水面が近い。深緑色。
と、そのとき。ボートがいきなり弧を描くようにカーブした、と思ったら、母がその動きに体を取られ、なんとそのまま上半身が湖に落ちてしまった。 慌てて母を引き上げる。 母はどっぷりと湖水の中に入り(母の顔がはっきりと見えた)、ぶくぶくと引き上げられた。 姉もわたしも必死だった。
姉が母を介抱している間、わたしはガイドのところへ行って、自分たちだけ降ろしてほしい、と頼んだ。 「母が溺れたんです!」 でもガイドは、ツアー中にボートを止めることはできない、目的地まで行ってもらう、と言う。「死にかけたんですよ!」わたしは激昂してしまった。
そうこうしているうちにNYへ着いたらしい。
・・・
6/3/2018
母が帰ってきた。 数人の男性陣によって丁寧に運ばれた母は仰向けにあまりにもまっすぐと横たわっていて、その姿勢は明らかにいつもの母とは違うのだが、それでも安らかな表情をしていたのでホッとした。
姉たちは台所で何やら準備をしていた。 わたしは母のそばにいた。 皆がそれぞれ色々な話をしていたが、わたしはぼんやりと母の顔を見ていた。
ふと、母の腕がかすかに動いた。ような気がした。 と、間もなく、母の閉じられた瞼がほんの少しだけ、開いた。 そして、ゆっくりと、その目が開かれた。
母ちゃん!!
わたしは思わず声をあげた。 母ちゃん、わかる?家よ、家に帰って来たんだよ!
姉たちもみんなやって来た。 母はしばらくはぼぉーっとしていたが、だんだん目に輝きが戻って来た。
母の頭の下には四角くて硬そうな枕が3つ重ねられていた。わたしはそのうちの一つを外し、「これでどぉ?少し楽?」と、母に聞いた。 母は頷き、周りをゆっくりと見渡した。 皆で母の布団を整え、上半身だけを少し起こした。 母は皆が集まってユラウのを眺めるのが大好きなのだ。
宴の準備が始まった。 わたしは、そうだ、記念撮影をしなくては!と、思う。 姉たちに頼んで、母とわたしのために飯椀を持って来てもらった。 黄色い柄の入った飯椀だ。写真だけだから、中身はなくても良いよね、そんなことを言っていた。 お箸も持った方が良いかな?わざとらし過ぎる?
姉が大きめの四角いお盆を持って来た。 こっちの方が母ちゃんは楽でしょう、と言う。確かにそうだ。 それから姉は、小さくカットされたレタスとコーン粒が混じったものをお盆の上に乗せた。 黄色いコーンと薄緑のレタス。それらを飯椀に入れるのはちょっと変かな、と思い、そのままにしておく。 でも、これって写真に写るのかしら?
母は、早くしろよ、という顔でわたしたちを見る。 そうだ、早くしないと、母が疲れてしまうよ。写真、写真、早く、早く! 母はこんなの馬鹿げているね、と言って笑っていた。 わたしも、ホントだよね、と言って笑う。ナンセンスな記念撮影。 でも、母はからからと笑っていた。 わたしたちは母の笑顔が嬉しくて、わはははははーと、笑いあった。
・・・
ユメモ2話。 じつねぇ大活躍。 むじらっさんばぁさんじゃ。
それは、自分の想いとか考えであって、誰かにそれを強要することは出来ない。
例えばそれを 丁寧にかみ砕いて、なおかつ正直に説明したとて、
彼は、 彼女は、
たとえそれを理解したとて、「分かち合う」 ことは 望めない。
ー僕は、人間の考えは理解出来る。 が、共感することはない。
と、魔法使いは言った。
彼は正しい。
そして、 それは
人間同士であっても
同じなのだろう。
ならば
何を嘆く必要があるのだ
怒っている
怒りたいから
しかしなぜ
怒りたいのだ?
何かが引っかかるのは
あなたのせいではなく
わたしの中に
あるのでしょう
でもいいやね
今は怒っていよう
そのうち
また何かがちがって
見えるのでしょう
さっき試してみたら
まだみたいだったけど
いったいぜんたい
何に怒ってるんだ
自分
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