てくてくミーハー道場
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2008年01月15日(火) |
新感線プロデュース『いのうえ歌舞伎☆號IZO』(青山劇場) |
正直言って、期待していたのとはちょっと違う味わいの内容だった。
いのうえ歌舞伎なので、もっと活劇的な、外にエネルギーの向いたものを予想して行ったのだが、あまりにも内容が暗かった。
まぁ、“人斬り以蔵”だからね・・・、明るくしろって方がムリだが。
あの時代(幕末)って誰をとりあげてもドラマがあるから、制作者にとっては非常にやりやすい一方、どうしても細かく明らかにされている「史実」に縛られやすいという難点もあるし。
ことに岡田以蔵なんて、数いる「幕末の群雄」(以蔵は“雄”か? って疑問は残るが)の中でも、特に「暗黒」部分を担った人物だし。
でもね・・・なんてのかな、話が暗い、とか、血なまぐさい、とかいうことに関しては、それほどがっかりしたわけではない。最初から覚悟してたので。
冒頭部分が(以下、微妙にネタバレ)当時の土佐藩を描く時に必ず出てくるエピソードから入ったんだけど、それがどうもありきたりに思えて(ぼく基準?)、しばらく芝居に入り込めなかった。
やっぱりぼくは中島(かずき)信者なのかな? 青木氏の脚本は、ぼくが期待していたようなスリリングなものではなく、「教えるのが上手な日本史の先生の講義」のような感じ。
史実を忠実になぞりすぎていて、決して退屈ではないのに「ドラマ」を観ている気持ちになれなかった。
そして、脚本と演出がどうも合ってないように思えた。
うん。断言してしまう。生真面目な青木氏の脚本と、やたら擬音が入る劇画的ないのうえ演出は合ってなかった。
役者陣は、ごぉと田辺誠一くん以外誰が出るのかを予習せずに行ったのですが、観てるそばからいい役者が続々登場して、軽く嬉しいショック(^^ゞ
特に木場勝己さん、完璧(T_T)まさに「ザ・役者」
山内圭哉、千葉哲也、文句なし。
西岡德馬、今までぼくが観てきた役の中で最高。
イケテツ(池田鉄洋)、役の良さ(坂本龍馬)ももちろんあったが、彼が登場するだけで雰囲気が陽性にがらっと変わるってのがすごかった。
粟根くんは、勝海舟という、得と損が同居した役。「磊落」という、良くも悪くも海舟の固定イメージそのまま以上の描き方をしてもらえてなかったし、本人も、そのまんま演じていた感有り(逆に言えば、悪目立ちしていなくて良かったのだが)
右近くんも、いわゆる「いつもの右近健一」
戸田恵梨香。『雪之丞変化』での「・・・」な感じはどこへやら。
いのうえひでのりさんという人は、女優をカッコ良く仕上げる天才だと思う。つくづく。
そして、今回の西岡德馬に代表されるように「有名だけど、わしらの世代よりずっと上だし、そんなに興味はない」大御所俳優を「なんてカッコいいんだ!」と再認識させる天才でもある。
田辺くんも、テレビではやや優男のイメージなんだけど、舞台では上背があるのもありめっちゃ「男」って感じがあるし(ただ、武市半平太には、やや狡猾なイメージがあったし今回もそんな感じに描かれていた)
ごぉに関して。
ちっちゃ!ヾ(−−;)ちょ、ちょっと・・・
共演者の男性陣がみな背が高めなので、小犬がじゃれついているような、必死に縋り付いているような感じが、芝居の主題に完璧マッチしてて相乗効果。
ごぉの役づくりというか、自然にやっているのかも知れないが、基本的には『喰いタン』の涼介に代表される(ジャニーズにもかかわらず)“見た目はまぁまぁなんだけど、今イチカッコいいキャラになりきれない(大きな理由は身長)、頭の良くないお兄ちゃん”という路線を踏襲しているにもかかわらず、どこかしら「狂気」も感じさせるところがある。
近年では、『ランチの女王』の修史が、そんなごぉの持ち味を一番巧く活用していたが、今回の以蔵では、その「狂気」が、単なる乱暴者ということではなく、誰かの指図の下でしか生きられない寂しさに繋がっていて、哀れさを感じさせた。
そしてやはり基本的に色っぽいのがごぉの強みだと思う。
さらに、ごぉは今(今年の誕生日が来るまで)28歳。
岡田以蔵は28歳で死んでいる。
その、偶然なのか作為なのか分からないシンクロが、ことさらそそられるのであった。
かようなわけで、役者陣はどの方も満足もしくは満足以上のものを提示していたのだが、今回ばかりは、ぼくにとっては脚本の弱さへの不満、演出の脚本とのミスマッチ、過剰さの不満(特に、これは昔からいのうえさんのクセではあるのだが、とにかく映像使いすぎ。観客の想像力をそぐほどに使いすぎるのが難点だと前から思っている)が残った。
今年の新感線公演は、次はRXなので、ぼくが欲している新感線の世界が観られると今から期待しております。
でも、期待しすぎるとマズいので、ちょっとブレーキをかけて(おいこら)期待しておきます。
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