*黎明ノォト*

2001年07月21日(土) 対蝙蝠奮戦記

 今日は大変なことが起こった。
 私はパニックに落ち入り、妹は私以上に現実逃避へと走った。

 私の家には愛猫がいる。愛犬もいる。
 どちらも雑種だ。
 どちらもそれ相応に可愛いが、私は猫可愛がりするタイプではないので、私の都合のいい時にだけ相手にすることに決めている。
 そう、私の家では愛猫を飼っている。愛猫の方は素性すら知れない。
 一昨年の夏、生後数ヶ月という姿で、可愛らしい首環をして現れた。
 どこにも行こうとしないから、飼い主を探してみたけれど見つからなくて、うちで飼うことになった。
 愛猫はとろい。のんき者だ。
 抱いていて、その腕の高さから落としてやると、さして太ってもいないのにお腹から着地するように見える。
 とろいのだ。

 今日は両親が出かけていた。テスト前である私と妹は俗に言う「お留守番」というやつをしていた。
 夕食も済み、私たちはそれぞれ学校で出された課題をしていた。
 私はその時、丁度自分の盛大な計算ミスを発見し、PCのディスプレイの前で放心していた。
 愛猫がどこかで鳴いた。
 てっきり、ベランダから「入れてよう」と鳴いているのかと思い、私は呆けたままベランダの窓を開けようとしたが、愛猫はそこにいなくて、廊下で鳴いていたのだった。
 うちの愛猫は良く鳴くが、意味もなく一匹のときに鳴いたりしない。
「なんで鳴いてんのかなあ?」
 と妹に言うと、愛猫も愛犬も猫かわいがりしている妹は課題を置いて、立ちあがった。相手をしてやるつもりらしかった。
「隣りの部屋に入ったで」
 と言って、私はPCの前に戻った。この修正をどうするか考え始めていた。
 と。
「うーわあああ!」
 と言う声が隣りの部屋から聞こえた。「?」とか思っていると、「お姉ちゃんのとこ行っといで!」と明らかに愛猫にけしかけている。
 猫かわいがりの妹が愛猫に「ほかの人の処へ行け」なんて言うのは珍しいので、更に「?」だった。
 すると。愛猫は大人しく私の方へ来た。
「?どうしたん?」と、私は愛猫に近付き……。
「うわああぁぁ!?」
 急いで後退すると、椅子の上に登った。
 何故なら、愛猫は黒い物体を口に咥えていたのだ。
 ごきぶりだ、と思った。

 ゴキブリは大嫌いだ。いや、昆虫が好きではない。
 いくら実験で蝿を生きたまま掴み取りした事があって、その蝿の足や羽をはさみで切ったことがあったり、頭を裂いて、脳をスケッチしたり、内臓をスケッチしたりしたことがあるといっても、やっぱりそれでもそれは実験だから出来たことであって、実際そんなことが普通の生活で活かせるはずもない。

 とにかく、愛猫が咥えているゴキブリが逃げ出しても平気なように椅子に登った。愛猫がその黒い物体を話したけれど、それはぴくりとも動かなかった。
 妹は現実逃避して、愛犬と遊びはじめた。役立たずめ。
 仕方がないので、蝿叩きを持ってきて、その黒い物体を叩いてみた。
 そのとき。
 目に入った物体のカタチが見なれぬもので。
 私は、眼鏡をかけたまま、ほんのすこし、近寄って見た。


「きゃあああああああああっ!!!!!!」


 違った。違った。ゴキブリじゃなかった!!
 なんと、その黒い物体は、蝙蝠だったのだ。
 イエコウモリ。はねをたためば、丁度でかいゴキブリくらいの大きさになる。
 蝙蝠を叩いてしまった。
 一瞬、叩いたことで内臓が破裂してたらやだなあ、絨毯がべったり、だったりして。なんて考えていた自分がいたりして、人間パニクると何を考えるか判らない。
 愛猫はかなり蝙蝠くんを気にいってるらしく、わずかに彼が動く度につついて遊んでいた。
「やめて〜〜っ、やめて、いじらないでっ!!」と言っても愛猫には通じない。
 愛犬と現実逃避している妹を連れ戻し、私は新聞紙を持って蝙蝠と対峙。
 妹にはちょっかいを出す愛猫(邪魔なので)を連れ去ってもらい、孤独な戦い。
 新聞でなんとか、直視せずに捕獲しようという作戦だったが、なかなか巧くいかずになかば自棄。やたらめったら「うわああ、」だの「ごめんね、ごめんね」だのと独り言を呟きつつ、なんとか捕獲。

 ……で。誰が一番むごいって、多分、そのまま捕獲した蝙蝠を新聞紙でぐるぐる巻きにしてごみ箱に放り込んだわたしなのだろう、と思う……。

 因みに、蝙蝠くんを捕獲後、愛猫を解放したのだけれど、奴は一目散に先ほど蝙蝠くんのいた所へ走っていった。面白そうなのでついて行ったら、くんくん辺りのにおいをかいで蝙蝠くんを探している。
 ものすごく淋しそうににゃあにゃあ鳴くので、笑えるくらいだった。
 そのうち、諦めたのか私の方へ擦り寄って、撫でて、と首を伸ばしてきたのだけれど、ちょうど口を差し出すような仕草だったので、「ひええええっ」と言って飛び上がってしまった。
 さっきの蝙蝠くんを思い出して。だって、蝙蝠を咥えてた口なんだよ?
 愛猫にごめん、とあやまりつつ。
 そのうち愛猫は、次の獲物を求めて、外へ出て行ったのだった……。

 脱力。


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