2002年03月06日(水) |
クリフォード・ストール(訳=倉骨彰)「コンピュータが子供たちをダメにする」(草思社)をちょっと。 |
クリフォード・ストール(訳=倉骨彰)「コンピュータが子供たちをダメにする」(草思社)をちょっと。 書いてある内容は題名の通り。ただし「子供」の部分を「大人」と替えても良い。現代社会におけるコンピュータと人間の関わりを真剣かつ地道に論じている。また、筆者はコンピュータを知り尽くした上でその功罪の「罪」を丁寧に解説しているので説得力がある。しかし、今の日本もIT革命やIT産業などが世の中を席巻しつつあるので、読む人によっては目新しいことは何も書かれていない平凡な本ということになる。 それでも、コンピュータの「功」の部分を十分踏まえた上で人の生活により大きな影響を及ぼしている「罪」の部分を真っ正面から見据えて論じ一冊にまとめた点にこの本の第一の意義がある。技術的にコンピュータを話題にすることがあっても、生きている人間の生活やその生活の中で日々波立っているこころとの関わりでしっかり論じたり考えさせてくれるまとまったものは意外に見当たらないものである。 現在、日本の学校の中で「情報教育」が導入されつつある点からいってもこの本を読む意味はあると思う。 「カッコウはコンピュータに卵を産む」は抜群に面白い読み物だったことを思い出した。この本は「抜群」ではない。静かにこころして読むのがいいようだ。
2002年03月05日(火) |
芦原すなお「ミミズクとオリーブ」(創元推理文庫)を少し。 |
芦原すなお「ミミズクとオリーブ」(創元推理文庫)を少し。 こういうのを「癒し」というのか「弱し」というのか、ちょっと不思議な魅力を持つ妻に頭が上がらない夫の話を聞いて妙に心地よいものを覚えるところがある。なぜか軟弱が気持ちいい。 あまり売れていそうにない小説家が語り手でその「ぼく」と妻とが主人公である。ワトソンとホームズの物語を日本の普通の家庭に持ち込んだら、例えばこんな小説になったという和風家庭ミステリ小説といえるかもしれない。 全七篇の連作短編集で最初の表題作「ミミズクとオリーブ」を読んだ。「ぼく」の友人が突然最愛の奥さんに去られて相談に来る。友人の説明では家出をした理由が「ぼく」にはわからないが、妙に「勘」のよい「妻」にはわかったらしい、というような話が軽妙で素直そうな文章で語られるのである。 気分転換に最適とでも呼べそうなのんびりた感じの文章と「ぼく」の「妻」の魅力が相まってたいした話でもないのに一読忘れがたい印象を残した。 作者は「青春デンデケデケデケ」の作者である。
さて、半村良氏が亡くなった。六十八才は惜しい。SFマガジンの時代からよく読んでいたので(ので、と繋ぐのも変だが)死ぬとは全く思っていなかった。不死の人と思い込んでいた。山田風太郎に呼ばれて半村良もあちらへ出かけてしまった。「軍靴の響き」だけが残された。やはりまず「月の裏側」に寄ったのだろうか。 なんともはや冥福を祈ります。
2002年03月04日(月) |
栗田昌裕「本がいままでの10倍速く読める法」(三笠書房知的生き方文庫2002.3.10)を一気に読了。 |
栗田昌裕「本がいままでの10倍速く読める法」(三笠書房知的生き方文庫2002.3.10)を一気に読了。 買いたい本は山ほどあるのに題名に惹かれてまた買ってしまった、読んでしまった。「20ページが1分間でしっかり理解できる!」とか「この読書法があなたの人生効率を大幅にアップさせる!」普段なら冗談としか思えない言葉が魅力的に光っている、そんなことが稀にある。 仮に1時間で300ページの本が読了できるようになって「積ん読」がなくなったとしても、頭の方が大量の情報を処理しきれずにパンクするだろう。著者の栗田さんが言うような鮮明な頭脳状態を維持するのは困難だろう。 冷静になればあれこれ反論が思い浮かぶがその時にはすばらしいことのように思えた。ときたま起きる衝動買いである。560円程度の買いやすい値段だったことも左右した。これが1000円近くだったら立ち読みで済ましたかもしれない。 単なる速読法ではなく体の調子や心の落ち着き、脳の活性化などの事柄を含めて総合的に速読の問題を捉えているので、難しいけれどももしも上達したらすばらしい経験をすることになるのでは、と思わせてくれる。 最後に読書スピードを再度計ってみたら読み始めの約2倍になっていた。もっとも一度読んだ文章をもう一度読んだわけだから手放しに二倍になった、凄いとは喜ぶことはできないのだが。 巻末の経験談のせいではないが「もしかしたら」といまだに思わせている、そう「微妙な」本なのである。
2002年03月03日(日) |
松岡圭佑「千里眼 運命の暗示」(小学館文庫2001.12.1)読了。 |
松岡圭佑「千里眼 運命の暗示」(小学館文庫2001.12.1)読了。 結局、ヒロインがある種の呪縛から目覚めて活躍しなければ先に進まなかった。 突然、場面が中国の僻村に移る。もう万事休すかと思われた時、岬美由紀の自由が回復する。そのあとは蒲生と嵯峨のささやかな助力を受けながら彼女の超人的活躍が続き万事めでたしの大団円を迎える。 それにしても何千人もの人々を気によって吹き飛ばす場面は意表を突いている。まさかそんな一発逆転の打開策があるとは思いもしなかった。ここに作者の本質があるのかもしれない。相当なはったりである。 面白くないことはないがちょっと疑問符がついた。
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