2005年07月25日(月) |
冷たい口調 Cool Tone |
「僕が思うに」 彼は操子に対して語る。 「人は家族や友人には本音を語り、他人にはそれを語らないものだと思うんだ」 操子は不信の目を彼に向けた。 「もちろんさ、大まかに分けるとっていうことだよ。100%そうだとは言い切れないけどね」 「そんなの当たり前じゃない」 操子はそう反論した。 「違うって」 「どう違うの」 彼は話を立て直そうとした。 「いやね、それが言いたかったことじゃないんだ。言いたいのは、人は愛する異性に対しては、本音半分嘘半分を語るんじゃないかな、ということで」 「嘘、そんなに?」 操子はさほど驚く様子を見せず、そう返した。 「もちろん厳密にはフィフティフィフティではないだろうけどね」 「そんなことは」 「でもさ、嘘ってそんなに悪いものかな」 「悪いに決まって」 「そうかな」 「え?」 操子の片方の眉だけが若干上がった。 もちろん彼女の表情以外にも、誰かの心拍数は上がったろうし、どこかの国のどこかの気温が少しは上がっているだろう。もちろん日本のどこかでも。 たとえ今が冬だとしても、室内の暖房の温度設定を上げれば、そこの温度は上がることになる。 「いや、特に正当化しようとは思っていないけどね」 操子の片眉は若干上がったままだ。 「でもさ、少なくとも、嘘をほとんどつかないとしても」 「ほとんど?」 「それでも本音をすべて語ればいいってもんでもないでしょ、いくら親しい異性だからといって」 「親しい異性って私のこと?」 「ああ」 「親しいってのは友達に対して使うんじゃないの?私が親しい女友達程度なのあなたにとっては」 「そんな喧嘩を売るような」 「売ってないわよ。あなたが」 「わかったよ。謝るよ」 「当たり前よ」 「そんな」 「あとさ、さっきからあなた、何が言いたいの?そんなこと私に聞かせたいの?今までは適当に流してたけどさ、もうガマンするのいや。なんでそんなつまんないこと聞かされないといけないの?不愉快だわ。そんなこと言えるなんて、私を好きじゃない証拠じゃない。そうでしょ?そんなに冷たく淡々とつまんないことを言えるなんて」 彼は一通り彼女のそんな言い分を聞き終え、目立たないように一度深呼吸をした。 そして操子にこう言った。 「僕がこんなに喋るって言うのは、気分がいい証拠だよ。しかも淡々としているってことは、無理をしていない証拠だし。自分で言うのもなんだけどさ」 「まあ・・・」 「それにこんなこと喋られる人間は限られているよ。もちろん同性の友達にも」 「同姓の?」 「え?」 「あなたに同姓の友人がいたかしら」 「異性よりは同性の方がいるでしょう、普通。いくらなんでも同性の友達くらいいるよ」 「ああ、同性ってことか」 「は?」 「いいのいいの。それでなんだっけ?」 「ああ、だから、えーと・・・そうだ、さっきみたいにさ、何かについて考え付いたことを喋る相手っていうのは、限られているんだよ。同性の友達や、稀に家族なんかにも喋るけどね」 「それで?」 「それで、まあさ、結局君と一緒にいると気分がいいってことだよ」 「つまり、友達や血縁関係のある皆さんと、私が同等って事ね」 「同等・・・うーん、不満?」 「当たり前でしょ」 「おーそりゃ嬉しいね」 「何よ、そんな軽々しく」 「でもさ」 「え?」 「友達のようにお互いに都合のいいときだけ会うのでもなく、血縁関係にあるのでもない君と常に一緒にいるなんて、奇跡に近いよね。それなのにこんなに今、君と一緒にいて気分がよくって、それでいて安心感が得られているなんて、最高だな」 「なーんて言って、さっき喧嘩したばかりじゃない」 「だから飽きないんだよ、君といても」
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