☆言えない罠んにも☆
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NAAAO |MAIL


2008年01月10日(木) うぇざーめーる 3

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ごくたまにだが、彼女のほうからメールがくることもあった。

Date:Oct,15
Title:None
From:Catherine

”ひまひまー あそんでー”



Date:Oct,15
Title:None
To:Catherine

”よし、なにしよう?”


Date:Oct,15
Title:None
From:Catherine

”えっとねえ、しりとり”


Date:Oct,15
Title:None
To:Catherine

”しりとりかあ”

Date:Oct,15
Title:None
From:Catherine

”雨ー”

Date:Oct,15
Title:None
To:Catherine

”め?メイド服”


Date:Oct,15
Title:None
From:Catherine
”曇り空”


Date:Oct,15
Title:None
To:Catherine
”ら、ラジオトープ”

Date:Oct,15
Title:None
From:Catherine

”プリン”

”プリンじゃ終わっちゃうよ?”

”プリン食べたい”

”こんど食べようね”

”いま”

”もう12時だよ?太っちゃうよ?”

”いま、朝だもん”

”もう寝ようか”

”プリンたべたい”

”こんどいっぱいもって行くよ”

”ばーか。だいきらい”

”寝ておちつこう~”

そこで、返信はこなくなる。
彼女からメールが来るときはだいたい、こんなかんじだ。
ぼくは、彼女からのメールがまたくるように祈る。

そして、ネットでプリンの通信販売のサイトを探し、
彼女宛に10個入りの箱を5ケース、注文する。

彼女がプリンを食べたいわけじゃないってことは、ぼくでもわかるよ。
でも、ほかに、方法が、わからないんだ。
難しいんだよ。
愛情を示す方法ってさ。



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貧乏な画家が、バレエダンサーに恋をした。
舞台を遠くから一瞬見ただけで、彼女以外のなにも考えられなくなってしまった。
画家は、自分の絵と家財道具をすべて売り払って、
知り合いすべてに借金をして、ダンサーの誕生日に百万本の薔薇を贈った。

ダンサーは、その薔薇を金持ちの道楽だと思った。
見る前に捨ててしまった。

画家は困窮して死んでしまった。



フランスのシャンソンの歌詞だ。
画家がかわいそう?そうかな。単なるナルシストだよ。
せめて毎日1本ずつ贈ればよかったのに。
親愛さは接触回数と正比例する。

ただし、一定量まではね。

冬が始まったからかもしれない。
うす曇の日が増えた。
町はクリスマスソングばかり。
ばかでかい飾り付けが始まる。
ネットワーク障害が増える。(12月と2月に増えるのはきっと、ごちゃごちゃした飾り付けに関係あると思う)
ランチのデリバリーが遅くなる。
実家から、正月には帰ってくるのかと手紙がくる。

クレジットカードが嫌いなのは、ダイレクトメールが来るせいだ。
この時期は、毎日毎日集中攻撃ともいうべき枚数だ。
現金決済が拒まれない日本が懐かしい。

オモチャ広告の多色使いもやる気を萎えさせる。
Saveとかいう字は呪われてしかるべきだ。

町だけじゃなく、オフィスまで汚染は進んでいる。
同僚は朝からネットで妻宛のプレゼントを選んでいるし、
郵便係の女の子はサンタ服でクリスマスパーティのチラシを配っていた。
ぼくのデスクの脇にあった観葉植物は、ごてごてしたベルやリボンを巻きつけられた。

街の喧騒に我慢ができなくなったころ、ぼくは頭痛を患って2日休んだ。
ちょうど、クライエントがクリスマス休暇に入る日だった。

クリスマスのクの字も入ってないようなヘビィなミュージックをヘッドフォンで聴いた。

道は目の前にある。
道はいつだってある。
手をのばすだけでいいんだ。
いつだって手に入るさ。

部屋は落ち着く。
少なくとも、赤や緑はない。
グレイのカーテン、ガラスのデスク、黒のマシン、ピアノ、ベージュのリネン。

本棚がすこし色にあふれて来た。スキャンして捨てよう。

つやが消えたシルバーのケータイ。
浮かぶブルーの文字。

同僚から。
ネットワークの仕事はやっておくから、ゆっくり休めだって。
彼女に振られたんだな.

母親から。
ネットで注文したシャンパンのセットがとどいたらしい。
過分なプレゼントに驚いていますって、値段調べたのか。

そして。

”げんきー?”

元気じゃないときほど、この、ありふれた挨拶というのは心に突き刺さる。
「元気じゃないんだ。鬱か、ホームシックか、ありふれた罠にひっかかっちゃったんだ。
 元気じゃないんだ。」

涙が出た。
これはもう、ほんとうに、明日にでも、カウンセラのとこに行かないといけないな。

返信画面になったら、何を書くかふっとんだらしい。

”帰るんだ。明日帰るよ。”

3時間くらい、床で寝ていたらしい。
ケータイは左手の近くに落ちていて、頬では涙が伝った後がカピカピになっていた。

のっそり起き上がって、マシンの電源を入れる。
ヒゥィーン。静かに立ち上がるマシン。冷たく輝くディスプレイ。

やっぱり、クリスマスは嫌いだ。
ディスカウントなら3回往復できる金額でエコノミィを予約して、コートを着た。
冬服、いらないっていったの、誰だ?

TAXIに乗らなくていいのにほっとした。地下鉄は比較的通常の姿を留めていた。

空港は、幼稚園みたいだった。サンタにトナカイに
巨大なクリスマスツリー。
困惑しているビジネスマンは皆専用ロビーにいた。
静けさに20ドル払うのはけして高くない。
もっと賢いのはこの時期空港を使わないことだろう。

ただ、ぼくはもう、それほど苛立ってはいなかった。
スターバクスのコーヒーのおかげか、成田行きのチケットのおかげか。
飛行機が吸い込まれる雲の先を見つめていた。
テラスに出た。
息は白くなってすぐに消えた。

”10年に一度の大寒波らしー。”

行くときすれ違ったピザガールはノースリーブにマフラーをしていた。

ヘッドフォンのボリュームを上げた。
心地よい眠りがきた。





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