【読書記録】「Re-born はじまりの一歩」

宮下奈都/福田栄一/平山瑞穂/豊島ミホ/瀬尾まいこ/伊坂幸太郎
タイトルテーマの短編。一番好きだったのは、福田さんの『あの日の二十メートル』なので、そのストーリーをご紹介。
ストーリー:いろいろなことをあきらめて、三流大学に仕方なく入学した主人公だったが、あまりの様相にその大学にも通わなくなり、代わりに水泳に行くことが習慣と化していた。そんなある日、運動に来ていたご老人の一人が話しかけてくる。「私に、泳ぎ方を教えていただけませんか」と――。

作中で、遅すぎることはないという言葉についての解釈がありましたが、私は彼の老人と同様に感じています。なので、老人を応援する気持ちと、その気迫に押されながらもがんばる主人公の様子がとても好ましく映りました。あきらめていたわけじゃない、逃げていたのだという一文がとても心に残ります。

豊島さんの作品も、以前は彼女らしい…けどアンソロジーとして全体的に見ると変に突出しちゃってるなぁと思うところがあったのですが、今作はそのようなこともなく、むしろ関係や状況からするとちょっと特異だけどそれがいいほうに出たように思いました。
瀬尾さんの作品は、他の著書(『戸村飯店青春100連発』)の原型ということで、やはり世界観ができている分だけ違う雰囲気を放っていたと思います。だからこそ、じゃあその本ではどうお話は展開して人間関係ができているのかなと興味を引かれるものがあります。
最後に宮下さん。…このひとつ前の本で、この方の本を読んでみたいと記していたので、早速お目にかかれてうれしく思います。でも、実は『コイノカオリ』にも寄稿してらしたのですね…。その宮下さんのお話は、志していた音楽に見捨てられて絶望した主人公のお話。受かると思っていた音大付属の高校、公明なヴァイオリニストの母。そして母ほどの才能をもっていないと実感してしまった今、日々はなんとなく過ぎるものだった――というお話。最後の、ホームランのようなからっとした締めくくりが、とても潔くて好きでした。NO.60■p269/実業之日本社/08/03
2008年10月28日(火)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン