日記でもなく、手紙でもなく
DiaryINDEXpastwill


2000年09月29日(金) エスプレッソ・カフェ

 先週末の夜、渋谷に寄りました折り、西武や丸井に面した道路沿い(ハーゲンダッツより渋谷駅寄りですが)『カフェ・ディ・エスプレッソ』なる店ができているのを発見。
 都内と近郊に、「ドトール」が駅前や繁華街のどこででも見られるようになってからは、エスプレッソも当たり前になってしまいましたけれど、店名にエスプレッソをつけた店が登場してきたのを見て、嗜好の変わり目=時代の変わり目みたいなところも感じました。

 その昔ですと、今では生息数が極めて限定される純喫茶といわれた店が、どこにでも、それこそ山ほどありましたし、新宿とか渋谷、御茶ノ水などには、200~300の座席数はざらで、お城のような建物の喫茶店がありました。名前も、王城とか。
これ、考えようによっては、日本の時代象徴的建造物(!)でした。お茶の水駅前に、この残骸、というかファサードがそのまま残っているビルもあります(なかの店こそ替わっていますが)。
 都内のあちこちにまだ残っている<ルノワール>とか、店名に談話室というような名前が見られるものは、この時代から続いている喫茶店です。ルノワールも最盛期と比べるとその数はかなり減ったようですし、そのような店であっても、メニューが変わっていたり、珈琲専門店的になったり、かつてはルノワールと名のついたほとんどの店舗で共通していた、ゆったりした雰囲気とは異なる空間設計のところもあれば、もともとはルノワールなのだが、店名やロゴマークなどを大きく変えたところもいくつか見かけたりもします。
 
 ちょっと話はそれますが、当時ジャズ喫茶とかクラシック喫茶なんかも結構ありました。ジャズ喫茶は、一部残っているようですが、クラシック喫茶などと店名の肩に掲げている店は、ターミナル駅周辺の繁華街では、70年代末~80年代初めに、ほぼ全滅。(中野のクラシックはまだ残っている、という話を聞いたこともありますが... 奇しくもほぼ同じ頃に、一部エリアに残存していた同伴喫茶という形態もほとんど見かけることはなくなりました。これらは、主目的が別にあって、喫茶はオマケだったタイプ。)
 当時の純喫茶では(「純」がついても)、出てくるコーヒーというのは、鍋で大量につくっておいて、客が来たら、熱くして出していたところが大半でした。今から思うにひどい味でしたが、当時はそれがコーヒーだと思ってましたから、あまり不満はなかった....
 家では、ネッスル(今はネスレ)のインスタントコーヒーをコーヒーと思って飲んでましたから。

 70年代後半、徐々にコーヒー専門店とか、マクドナルドのようなファーストフード店の勢力に押され、徐々に入れ替わりました。

 いれたてのコーヒーを出してくれる店が増えましたし、家でもレギュラーコーヒーを飲むことも増えましたが、選べることと言えば、せいぜい豆の種類を産地ブランドで選ぶくらいでしたね。あと、ローストで炭火焼かどうか(少し高い)、とか、ドリップかサイホンか、という入れ方の違いくらい。
 コーヒー専門店と言っても、エスプレッソを出す店は、80年代前半くらいまでは、かなり限られていたような記憶があります。

 更にその後はドトールが雨後の筍のようにあちこちにできましたし、(ちなみに、ドトール1号店は80年。100店突破が87年となっていて、あちこちで目にするようになったのは、やはり80年代後半、)このチェーン店の増殖に刺激されて類似した店も増えていきました。

 初期はコーヒーなど飲み物を中心にしていたけれど、現在、夜は食べ物とアルコールも出す形にシフトしたプロント、ドトールより安いコーヒーのヴェローチェ、一時期、少しあちこちにあったけど、最近みかけなくなったジラフ...
 この手の店では、ほとんどエスプレッソ・マシンを入れて、どこででも飲めるエスプレッソになりました。もちろん、苦いだけのエスプレッソは嫌いという人もいますが、カフェ・ラ・テ、カプチーノなどのベースのコーヒーはこのエスプレッソ抽出方式(に合わせたロースト豆使用)ですから、深目の苦みがたった味がベースです。(なお、名古屋では、普通の喫茶店のコーヒー一杯が、ピーナツ付きで250円、しかもゆっくり座って--。立ち飲み150円は、安くないというのが、実感だったようで、ドトールも苦戦、という記事を目にした記憶あり。)

 で、更にこの2年ほどで、スターバックスが都内では目につく場所に増殖中です。関西でもいくつか目にしましたが、ドトールより値段の高いこのゾーンでは、柳の下のどじょうを狙ったタリーズ(TULLY'S)とかシアトルズベストコーヒーも出てきました。
 この手の店では、アイスでエスプレッソが飲めたり、(但し、いっしょに水も混ぜるのはご承知の通り)、かき氷状のエスプレッソ(?)とか、そのバリエーションも更に増えました。
 確かにおいしいという人もいるし、値段の割にはちょっとね、という人もいるし。タバコを吸わない人で、ちょっとおいしいコーヒーを飲みたい人からは、スターバックスは評価されているところもあるようです。

 新宿駅東口中央改札を出て、左へ少し歩いたところに立ち食いそば屋と並んで、ベルグ BERG という古くからやっている店がありますが、この店のアイス・エスプレッソは250円でこの位の価格で飲めるアイスコーヒーとしては、私は東京で一番おいしいかもしれないと思っています。

 新しいコーヒーショップが出てくるのはわからないでもないのですが、オペレーションを考えると、ドトールくらいの規模で展開するか、あるいは場所を的確に選ばないと、なかなかペイしにくいと思います。(ドトールの店舗開発部隊は、なかなかすごいことやってます。)
 その意味で、単価が上がれば楽にはなりますが、コーヒーだけ、飲み物だけで単価を上げるのは、限界がありそうです。

 銀座の喫茶店、コーヒーショップも、今残っているところは、ルドンとか、カフェ・ラ・ミル系のコーヒー1杯の値段がかなり高い店か、コージーコーナーのように本業は別にある店の喫茶部的位置づけの店、そうでなければ、セルフサービスの店、というように三極化しています。(恐らく、都内なら、これはどこでも似たり寄ったりだろうと思います。)
 昔のようなタイプの店は少なくなりましたが、わずかに、銀座(&日本)最古参のパウリスタとか、コーヒーかく飲むべしと客に説教を垂れることもあったランブルとか(これが残っている理由は、私には今一つ不明--)、70年代に開店した和蘭豆(ランズ)など、なんとか踏ん張っているところもあるにはありますが、いつまで持つのか、などと思ったりすることもあります。
 自分の趣味で喫茶店をやっているのなら別として、週に何回も来てくれる固定客の数を保った上で、オペレーションコストを少しずつ切り詰めながらやっていくか、あるいは新しいメニューを用意したり、別の商品の販売をして客単価をあげていくか....、たぶんそのどちらかが成立し、うまく回転していく仕組みを用意できないと、なかなか難しい感じはするのです。
  
 このように、飲み物だけでは売上面で限界が出てくるということになると、そこで考えられる比較的一般的な方策としては、食べ物の種類を広げていくことでしょう。確かに、プロントのような行き方はこの方向なのでしょうけれど。
 ただ、そこに「質」をどの程度入れられるか....

 先に書きましたベルグはビールも飲めることから、おつまみ類もそこそこ、ホットドッグ含み、食べ物にも適度なこだわりがあるためかいつ見ても客がそこそこ入っていて、ガラガラの状況というのはついぞ見たことありません。(プロントはまだまだ--)

 一時期話題をさらったけど、実質は?マークだったイタリアン・トマトが「イタリアントマトJr.」としてカフェテリア方式のチェーン店を展開中で、これがどこまで伸びるか、少し注目していたりします。
 マニュアル類もきちんと用意し、レシピや前処理済み食材も十分考えているとは思いますが、注文後スパゲティをつくり、ピザを焼いたりするため、ハンバーガー屋よりも、微妙な手のかかりぐあいや慣れによって、店によりやはり味に少し差が出てしまう(ピザなどは別物のような違いが出てしまう)のも、難点といえば難点でしょうか。

 領域は異なりますが、天ぷらの「てんや」の強さは、企業秘密の、例のてんぷらをあげる機械ですね。こんなものをよく作ったと、私はつくづく思います。回転ずし店で時々使用されている、すめしを握る機械よりいろいろノウハウが込められていそうです。
 ドトールだって、毎日大量に使用される、鮮度の高い豆を、どうやっておいしくローストできるか、そのために独自に機械を作ったと、店内に置かれたPR用チラシに書かれていた、と思いました。

 このような、比較的話題になってきた飲食チェーン店というのは、女性が一人で気軽に入れて、その内容やサービスの質の割に、(実際に安いかどうかは別として、その人にとって)値段は安く感じられる、というような共通要素がありそうで、そのニーズにあわせるメニューとか仕組みとか店舗を的確に用意していくための、ノウハウや知恵あるいは技術の優位性がないとダメ、ということで、てきとーにまとめておくことにします。

 ........なんてことを、あれこれ考えたカフェ・ディ・エスプレッソです。
 この店は、かつてやはりチェーン展開をしていた珈琲館系の店。嬉しいことに、アイス・エスプレッソも置かれていて、その場合クリームかミルクか、どちらをつけるか必ず尋ねられます。
 クリームというと、小さいグラスにクラッシュド・アイスとともに、たっぷり生クリームが乗せられたアイス・エスプレッソが登場してきたではありませんか。なかなか強烈な量のクリーム。ただ、エスプレッソそのものが、若干酸味のたったロースト豆を使っているようで、その部分が少しだけ私の好みには合いません。
 良いロケーションで客も多いし、嗜好の捉え方と価格のバランスについてもさほど間違っていないようですので、この店は生き永らえるかもしれないとも思っています。


2000年09月18日(月) レンブラント、フェルメールとその時代展


 東京のほうも少し涼しい日が出てきたか?、と少し思っていたところ、またまた暑い日に戻ったりして、これが結構こたえているところです。お元気でしょうか?

 また暑さがぶり返した先々週の土曜日のことですが、ちょっと時間がありそうなので、少し気になっていたエルンスト(の彫刻)を、当初は見にいこうか、などと思っていましたが、見損ねると本当に後悔しそうなフェルメールもまだ見ていないし、しかも今月24日が最終日ということもあって、<レンブラント、フェルメールとその時代展(アムステルダム国立美術館コレクション展)>へ、急遽行くことにしました。
 これだけ暑いので、少しは見物客が少ないのではないかという、淡い期待感を抱き、上野西洋美術館へ向かいました。

 大阪で見た、<フェルメールとその時代展>は、マウリッツハウスのコレクションがベースでした。
 その時に見た内容と、今回の展覧会との違いは、(東京の展覧会のほうが)

 ①(6月に見た)大阪の展覧会よりオランダ美術を広い視野で捉えている
(のはいいことかもしれないが、その分--)

 ②黄金期のオランダ美術と言われた時代のものは少ない
 ③展示数が多い割に、油彩だけではなく、素描も多い
 ④油彩の中でも、静物画の点数と風景画の点数がかなり多い

(上記の結果--、)
 ⑤私がオランダ絵画の中で、もっとも見たいと思っていたような市井の人々の日常生活が感じ取れるような絵が少なくて、大阪の展覧会のほうが(私にとっては)ずっと見ごたえがあった!

――というところでしょうか。

 やはり雨の中、かなり濡れながらも、並んでまで見た甲斐は大いにあったようです。

 ⑥しかし、それでも、今回やってきた、フェルメールの絵(1点)だけでも、お金を出して見る価値がある--とも思えたこと。

 よく掲出されているボスターや、額面広告の印刷などでは、少しくすんで見えますが、実物はもう少し複雑に色合いが重なり、それがよくわかる分、くすんだ感じなどは受けません。
 やはり、この人は実物に限る、とまたまた思ってしまいました。

 エルンストのほうは、その翌週、ちょうど銀座で人に会う予定があって、その前の時間がうまく使えそうだったので、東京ステーションギャラリーへ寄ることにしました。

 このエルンスト展は彫刻がメインなので、シュールレアリストとしてのエルンストを捉える、という感じではありませんが、それでもなかなか面白い展覧会ではありました。

 その彫刻のほうですが、(この人の彫刻を初めて見たのですが)岡本太郎のようなユーモアと、独特の自由な雰囲気があって、こんな形をした文鎮とか、オブジェが、小さいものでもあると、気分が良さそうな感じがしましたね。

 実際のサイズのものであれば、極めて無機質な、会社の受付のある空間とか、会議室が並んだフロア(あるいはさほど飾りのない会議室内の空間)などに、さりげなくおかれていると、その空間の空気が一気に緩んでくるような、とてつもない力をもっているように思ったりもしました。

 ところで、11月いっぱい、上野の科学技術館では、ダイヤの装飾工芸品の展覧会をやりはじめていて、こちらも、結構人気があるようです。
 普通、なかなか拝めないような、大きいのとかあるようですし。
 ただ、女性には目の毒と言う人も、中にはいるようですけれど。

 では、また。


riviera70fm |MAIL