サッカー観戦日記

2025年05月29日(木) 高校総体鳥取県大会準決勝 米子北−米子松陰 境−鳥取城北

高校サッカーの予選の県大会については関西以外は選手権で行く方針だった。総体は関西だけだった。なぜなら10年以上のスパンで関西をできるだけ知り尽くしたいという方針で、全国高校総体に出場する関西勢については男女ともすべてチェックを入れていた、つまり関西の段階で生観戦していたのだ。しかし実際にやってみれば関西はあまりに広大で到底無理ということが分かったし、近畿大会男子が春先に移り、県大会で観逃がした高校を近畿大会でチェックするのも不可能になったこともあり、長年掲げていた「関西を俯瞰する」という方針を捨てた。

さて時間が出来て平日観戦が可能になった。関西以外の観戦の中で一度も行ってない県ももちろんある。行くからには準決勝あたりを観たい。そしてきっちり勝負になるゲームを観たい、そういう中からツイッターで山陰地方を勧められた。少し前まで(今もか)鳥取県は米子北1強で島根県も立正大淞南と対抗馬が大社だけ、という世界から少し様相が変わってきたというのだ。それならば観光と抱き合わせで平日開催の鳥取県大会準決勝に足を運ぼうと思った。

鳥取県大会準決勝は米子市の東山公園で開催される。どらドラパーク(どら焼きドラマチック)というネーミングライツがついている。米子駅の隣の駅の東山公園駅すぐだが、なにせ田舎なので電車(この辺りは電化されている)かディーゼルカーの本数は少ない。大阪から米子に行くには新幹線プラス伯備線(伯耆と備前を結ぶ)特急やくもということになる。米子空港は羽田便か国際線しかない。で3月にやくもは新型車両になっているので乗りたかった。伯備線は山間部の陰陽連絡船でカーブが多い。しかもそれでいて表定速度約80キロの速い特急だ。カーブの多い区間を高速で走るには振り子車両というものを使う。カーブに沿って車体を傾ける。で、いままでのやくもはいわばパッシブサスペンション、つまりカーブに合わせて車体を傾けるだけだった。が、新型やくもはアクティブサスペンション、つまり予めカーブの様相をインプットしていて、最適の傾きを実現する。今までは新幹線のグリーン車にしか採用されていない方式だ。30年前にF1のウイリアムズがアクティブサスペンションで圧倒的に早い時期があった(当時の名称はリアクティブサスペンション。ロータスが先行してアクティブサスペンションを開発して権利を持っていた)が、それくらいカーブでの高速走行性能に大きく影響する。
新幹線で岡山駅に着き、4両繋いだやくもに乗車する。倉敷で伯備線に入り、備中高梁まで複線で進む。岡山県3大河川の一つ、高梁川は左手にあるが、右側に座っている。ネット検索では高梁川は左右両方に見えるという話だったが、大体進行方向左手に見える。備中高梁からは右手にも見える。新型やくもの振り子性能もフルに発揮。酔いやすいという話もあるが、私は幸い乗り物酔いしない性質だ。新見では高梁川は右手にあり、そして県境を越える。石見という地名だが、国としては伯耆だ。日本海側の川になり、やがて大山が見え、車内でも案内がある。そして伯耆大山駅で山陰本線と合流して、特急やくもは軽やかに東山公園駅を通過して(停まってくれ……)米子駅に停車する。そこからタクシーで公園に着いた。

準決勝は二つのピッチで同時開催。失礼ながら前半で決まる可能性は米子北対米子松陰のほうが高いと踏んだので、前半はそちらを選んだ。陸上競技場のほうである。

高校総体鳥取県大会準決勝
米子北高校−米子松陰高校
5月29日 11時 東山公園陸上競技場 曇 天然芝 ピッチ良

米子北
十五十八
十番六番十四十一
二二二番三番四番
一番

米子松陰
七番十八
十番四番八番二二
六番三番五番二番
一番

米子北(プリンスリーグ中国のプログラムによる) 総監督 城市徳之 監督 中村真吾
GK  1 酒井律輝  3年 182.80 尼崎FC
DF  4 浜梶優大  3年 174.67 玉湯FC
    3 熊野俊典  2年 180.69 高槻FC
    2 藤原大空  3年 172.63 ガイナーレ鳥取
   22 竹内晴太  3年 172.67 ボアソルテ美都
MF 11 石飛五光  3年 177.63 RIP ACE
   14 細川斗暉   2年 173.65 Jフィールド岡山
    6 湯月哲大  3年 172.69 Jフィールド岡山
   10 山下一圭  3年 170.65 宇治FC
FW 18 妹川将基  3年 173.64 柏レイソルA.A.TOR’82
   15 畑中大河  3年 168.61 SAGAWA SHIGA


キックオフ早々米子北が気迫のファウルで警告。開始から相手を飲みにかかる。あっという間に押し込む。米子北は敵陣に蹴り込んで強度で奪い返すチーム。あとセンターフォワードに当てる。ただこのレベルなら繋ぐこともできる。前線では15番がポスト役。18番がストライカー。10番がチーム随一の技巧派。細かいタッチのドリブルを見せる。11番は切れがある切り返しからタテに抜く。14番は上がり目のボランチ。6番は奪還力が高い。相手ボールをすぐに奪い返し、ロングカウンター狙いの米子松陰に何もさせない。中心選手。右サイドバック4番は頭がよく切り替えが早い。インナーラップできる技術と判断力がある。右センターバック3番も寄せがよく、すぐに奪う。攻勢の米子北だが、チームの中心は後方の6番、4番、3番だと思った。つまり守備のチームだろう。

米子松陰については徐々に飲まれて引いて守るしかなくなった。

20分、米子北、左から繋いで右の11番に渡ったころには4番がインナーラップして追い抜き、4番にわたり持ち上がり、右角度のないところからたたき込む。1−0。22分、またも4番が右を上がり深いところからマイナスのパス、ニアスルーして正面から18番叩き込む。2−0。前半は2−0で終わった。





ハーフタイムに球技場に移動する。が、案外東山公園は広くて動き方を間違えたのもあり、かなり手間取ってしまう。さらに米子北の試合は立ち上がりのファウルでゲームが止まって前半終了時にはキックオフから45分以上経っていた(35分ハーフ)。球技場の時計は動いていないし、おそらく終盤だと思って観ていた。実際にはこちらもキックオフが遅れていて、まだまだ時間があったのだが。前半は境1−2鳥取城北。

境高校は境港市の高校で米子北が台頭するまでは鳥取県トップだった。当時の監督の池田先生はのちに鳥取県協会長になっている。埼玉スタジアムで観戦したこともある。鳥取県は昔から米子を中心とした西部が強かった。境港市も西部だ。対する鳥取城北は新興勢力。昨年は経験者とはいえ、中学では本格的にサッカーをしていなかった選手がレギュラーにいる、という報道もあったが、とにかく、東部の選手を集めている。

高校総体鳥取県大会準決勝
境高校−鳥取城北高校
5月29日 11時 東山公園球技場 曇 天然芝 ピッチ良





十一十番
誰々五番八番九番
誰々七番二番三番
二五

鳥取城北
十番十一
九番八番五番七番
三番四番十九二番
一番


ぱっと見、城北は大阪府ベスト32クラスかな?と思った。大阪府ベスト16はプリンスリーグ関西かそれに準じるレベルにある。城北はプリンスリーグ中国に昇格する可能性はあっても、そこで戦える、残留できる可能性はかなり小さいだろう。止めて蹴るはある程度できるし、守備意識は高い。リードしている終盤だから戻りが早いのか?と思ったが、結構な時間アラートであり続けた。この守備意識は打倒米子北を前提にしているのだろう。対する境は攻め手があまりない。保護者は大勢駆けつけていたが、

一応城北の特徴を。4番は守備のかなめ。フィードがある。踏み込んでの守備など身体が強い。3番は中を上がれる。2番は速い。7番はタテに仕掛ける。9番はキレがあり、強烈な切り返し。10番はチーム1上手い。11番はキャプテンでポスト役。

米子北相手には4番の相方のセンターバックの力量などバックライン全体の守備力や、中盤の潰しの弱さは気になった。全体的に守備意識は高いのだが。

結局1−2で鳥取城北が逃げ切った。




試合終了後、素早く撤退して東山公園駅へ。古い電車が来たがクロスシート車。米子駅で稲庭うどんというのを昼食に食べて、境線に乗る。ねずみ男をあしらった車両。2両編成の前側はネコ娘。ねずみ男というのは役立たずで子供が観ても良さの分からないキャラだが、大人になると、何となく生きて幸せな水木しげるの妖怪の世界そのもので、これはこれで魅力的なキャラクターである。米子からの客が少しずつ降りて、米子空港駅で車内はがら空きに。境線には副駅名があり、妖怪の名前が付けられている。鳥取県はマンガの表現規制に厳しいくせにマンガの利用はちゃっかりするところである。終点境港駅に着くと、駅前に水木しげるの作画像が鬼太郎などに囲まれている。そして駅前から水木しげるワールド。道なりに妖怪の像が数多く置かれている。たしか絵に忠実だったはず。ネコ娘はアニメでは年々萌えキャラにされているが、オリジナルの化け猫っぽい像がある。かっこいい龍の像もあり、水木しげるといえば極端にマンガっぽい絵のイメージがあるが、妖怪画集などで分かるのだが、絵そのものも上手い。道を進むと水木しげる記念館がある。

入館すると水木しげるの歴史が詳しく解説している。そして戦争体験にスペースを割く。戦争の悲惨さ、愚劣さを伝える展示を作家の立場から伝える重要性がよくわかる。日本は、というか世界的に右傾化して、太平洋戦争の悲惨さを隠蔽しようというのが近年の政府自民党を中心とした流れだから。「はだしのゲン」しかり、戦争に関する創作物は隠蔽されつつある。戦争が終わったと知ると笑いが込み上げたという水木しげるの健全な精神は当時は珍しかったのではないか?展示の最後の水木しげるの名言集は人生への本質的な洞察の深さが感じられる。

帰路、境港駅でお菓子を買い、やくもと新幹線ですっ飛んで帰った。そして二日後、米子北が5−0で鳥取城北を圧倒したという報道が入った。本記事執筆時点で最大の無風地帯だった青森県で青森山田が野辺地西にPK負けして歴史が動いたことを知る。そしてこれをもって最大の無風地帯が鳥取県に移った。


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T.K. [MAIL]