暗い空気に
煌々と光る
小さな
紅い火。
外の生の空気に
触れられるのは
一日の内、
煙草を燻らせる
ほんの15分。
ベランダの縁に座って
違和感を感じる
暗い風景を眺める。
初めて煙草を吸ったのは
あのクラス会の時で、
煙草はアルコールと共に
止まることはなかった。
何故か、
白い煙が
上気する心臓を
抑えるかのように思えた。
今は
冷めすぎる心が
それでも息づいていることを
吐き出す白い煙で
確認させるための煙草。
そのせいで
箱の半分を過ぎた頃には
既に湿気た味。
いいかげん慣れた街だけれど、
どこか噛み合わないような。
別に
地元が恋しいわけじゃない。
バイクで帰れる距離で
何も困ってる事はない。
単調すぎる仕事は
余計な事ばかり考えさせる。
あの時何故
彼と一緒に行かなかったんだろう。
幹事なんて事に
拘る必要はなかったかもしれない。
あの時
一緒にいたら
今も
一緒にいられたかもしれない。
幾つも
ifを並べて
紡ぐ
叶わない未来。
何?
コイツの彼女?
あ。いい女だ。
17か18くらいか?
16?
あーそんくらいだろうな。
舞?
桜木舞?
君、足ちっちゃいなぁ(笑)
んなゴチャゴチャしたことは
解んねえよ。
俺はただ
君が好きだから
俺の彼女になって欲しいって
言ってんだよ!
なあ、
キスしていい?
急に停まった車。
視線を運転席に移す。
…
どうしたの?
…君はいい女だからさ。
あの時の
私を真剣に見つめる
彼の顔を
忘れる事は
生涯ないだろう。
止まらない思考。
鮮やかすぎる思い出。
それなりに時間を
重ねたはずなのに
一番強い想い出は
出逢った日のこと。
初めて私の視界に入った彼も、
初めて交わした言葉も、
初めて触れた手も、
初めて触れた唇も、
初めて抱きしめた彼の身体も、
初めて感じた彼の臭いも、
ただの雑音にすぎなかった
虫の声さえも、
5感が全て覚えている。
胸を痛めつけるほどに。
微かな夏の匂いが漂う。
この街が
合わないんじゃない。
地元に居たって
きっと何も今と
変わらないんだろう。
彼が
いなきゃ
私はどこに居たって
足りない。
胸の隙間を
埋める術が
見つからない...
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