ATFの戦争映画観戦記



【File088】〝カチンの〟森の〝エニ〟熊さん・・・【ネタバレ警報/前編】

2003年05月24日(土)

台湾人のお医者さんによる新型肺炎(SARS)渡来騒ぎも終息したと思ったら、今度は中国から帰って来た偉い政治家の先生方が俺たちゃ特別・・・と言わんばかりに、帰国後2日間だけ様子見ただけでマスクして国会に出勤(?)し顰蹙を買ってましたが〝院内感染〟とは良く言ったものです。そんな中、先週の事ですが公開始まったばかりの作品を初日に観てきました。まあ都内でも数館でしか上映されていないと言う、ほぼ単館上映に近い作品ですが、つくづく東京近郊在住のありがたさを噛み締めております。そんな訳で今回の観戦記のお題は『enigma』であります。第二次大戦中に独軍が使用した暗号・・・それが「エニグマ」なのですが、古来二次戦を舞台とした諜報戦を描いた映画や小説に多々登場し、軍オタの皆さんも良くご存知なはず・・・『U-571』なんか記憶に新しいですな・・・。ところで映画館で観戦し終わった時、ATFの脳裏に古い記憶が甦って来ました。この『enigma』の中で、謎解きの大きな〝キーワード〟となっているのですが、軍オタの方でも意外と知らない、その出来事・・・一般の方々は尚更ご存知ない事でしょう。そんな訳で、今回の観戦記は私ATFの古き記憶を辿った薀蓄から始めたいと思います。それでは【開演ブザー】いつものように携帯電話の電源は・・・いや、まだ切らなくても宜しいですよ・・・【いつもの如く、この書き込みには史料的価値はありません】

【話は今から○十年前に遡ります・・・】
当時はレンタル・ビデオ勃興期で、私ATFも次々にオープンするレンタル・ビデオ店の会員に片っ端から入会していました(この辺の事情は観戦期【File030】を参照下さい)・・・次々にオープンするレンタル・ビデオ店は将に宝の箱・・・好奇心を擽るビデオを毎日の如く借りて帰って○ビングし捲っておりました。そんな時にレンタルした一本のビデオ・・・戦争映画やアクション映画ではありません。どちらかと言えばパッケージに記載された解説紹介文・・・Hな好奇心を掻き立てる・・・に騙されてレンタルした、と言った方が正解かもしれませんな。そのタイトルは「スウィート・ムービー1974」一部のカルト映画ファンの方々にとっては、とってもメジャーな作品であると知ったのは、随分後年になってからの事ですが・・・。さて、この「スウィート・ムービー」ですが、旧ユーゴスラヴィア映画界を代表するドゥシャン・マカベイエフ(「WR・オルガニズムの神秘1971」や「コカコーラ・キッド1985」で著名な映画監督)の初期作品・・・プロデューサーはルイ・マル(「死刑台のエレベーター1957」「地下鉄のザジ1960」「ルシアンの青春1973」「さよなら子供たち1987」で有名な監督)では無く、その弟のヴァンサン・マルで、映画界においては〝全くの道楽〟で作ったと語り継がれる〝迷作〟であります。映画検索サイト【allcinema Online】で検索してヒットした作品の解説によれば「全ての人がこの作品を観て楽しめるかどうかは解らないが、観た人と観てない人では、その後の映画人生に大きな開きが出るかもしれない・・・」だそうです・・・と言う訳で私ATFは見事に〝観てしまった人〟になってしまった訳ですが・・・もし観ていなかったら、現在はこんなHP作って御託を並べていたりしてなかったかもしれません・・・大爆。確かにレンタルした理由は、前述の如く甚だ不謹慎な動機によるものだったと記憶にあるのですが、その余りにサイケでカルトで、ブラックユーモア満載な内容に、観戦・・・いや鑑賞しながら暫し呆然とした記憶が微かに残っております。さて問題なのは、その作品の後半部分に挿入された白黒の実写シーンなのですが・・・最初は何を映されているのか理解出来ませんでした。しかし次第に映し出される場面に目は釘付けになりました・・・それは1943年の4月に独軍占領下の都市スモレンスク近郊の〝カチン=KATYN〟と呼ばれる場所の森の中で独軍宣伝中隊によって撮影された記録フィルムだったのです・・・。

【分割され続けた国土・・・ポーランド略史】
ところで、第二次大戦の発端となったのは、皆さんご存知の通り独軍による〝ポーランド侵攻(1939年9月)〟ですが、このポーランドという国家は、その立地が故に、絶えず列強諸国に蹂躙されつづけた歴史を持っています。ちょっとおさらいしてみましょう・・・最初にポーランドの土地に王国を建国したのはスラブ人で10世紀末の事です。11世紀始めに神聖ローマ皇帝からポーランド王位が承認されます。14世紀後半にヤゲロ朝が成立、宗教騎士団のひとつドイツ騎士団との抗争を繰り広げ、15世紀半ばにプロセインの地を領土に加えました。16世紀後半にヤゲロ朝の血が絶えた為、国内有力諸侯の互選による選挙王制となったが、諸侯間での争いが絶えず戦乱の時代が続く。その間隙を縫って周辺列強諸国により度々国土分割統治が行われる・・・①1772年第一次分割(プロセイン王国/フリードリヒ2世、オーストリア帝国/マリア・テレジア女帝、ロシア帝国/エカテリーナ2世によって分割・・・国土の4分の1を失う)・・・②1793年第二次分割(フランス革命後のフランス革命政府対オーストリア帝国との紛争に乗じたプロセイン王国とロシア帝国の二国間で分割統治が行われ、更に国土が縮小)・・・③1795年第三次分割(プロセイン王国、オーストリア帝国、ロシア帝国によって分割統治、ポーランド人民による激しい抵抗が行われたが、遂に国家としてのポーランドは消滅した)1807年、プロセイン=ロシア連合軍との戦いに勝利したフランス皇帝ナポレオン1世がティルジット和平条約によってプロセインより割譲した領土を基盤にウェストファリア王国と共にワルシャワ大公国を建国、一族に統治させた。その後大公位はザクセン王が兼ねたが、1814年ナポレオン没落後の西欧の再編成を協議したウィーン会議によってロシア帝国支配下でポーランド王位が復興された。1830年反ロシアの抵抗運動が激化し王位は廃止、1863年ロシア帝国に併合された。第一次大戦後の1918年、革命によるロシア帝国が滅亡し、その後ヴェルサイユ条約により共和国として独立を認められる。④1939年第四次分割(ナチスドイツによるポーランド侵攻に乗じ、ソ連軍もポーランドに侵入し、両国により分割統治された)・・・1945年独敗戦に伴いソ連影響下に共産主義体制国家が成立しました・・・。

【独軍ポーランド電撃戦・・・までの長く短い道のり】
第一次大戦後に成立したポーランド共和国は、旧ドイツ帝国領と旧ロシア帝国領(ウクライナ地方)を領国内に取り込む事となり、特にダンチヒ(現グタニスク)を含む地域は、ドイツ本国と東プロセイン(現カリーニングラード)地域を分断し〝ダンチヒ回廊〟と呼ばれる戦略上の要衝となりました。1934年ドイツとポーランドは不可侵条約を締結、1938年10月独外相リッベントロップは、ポーランド外相ユーゼフ・ベックにダンチヒ返還を要求しましたが、ポーランドは英仏の後ろ盾を得て、独の要求を拒否しました。1939年4月ヒトラーはポーランドとの不可侵条約を破棄。同年5月19日フランスはポーランドとの間に軍事協定を締結。英仏はソ連もポーランドの防衛協定に引き込もうと画策するも失敗。実はソ連は、ヒトラーが政権を獲得する以前の1922年4月に既にドイツと国交を回復し、第一次大戦の賠償権を放棄、互いに軍事面交流を行っていました。ヴェルサイユ条約によって軍備を制限されていた独軍が、ソ連領内で戦車や航空機の訓練を行っていたのは皆さんもご存知の通り・・・反面ソ連は独の進んだ軍事技術を学んでいたのです。ナチスドイツが政権を奪取し、独国内の共産党勢力を弾圧するに至って、両国間での軍事面交流は中止されました。ポーランド侵攻を目前にして、ヒトラーはチェコ併合時と同じくポーランドに侵攻しても英仏の介入は無い・・・と考えていました。しかしソ連の指導者スターリンの腹の内が読めない・・・過去を顧みてもポーランドに手を出した場合、ソ連が黙っているはずは無い。でも今ソ連とも事を構えるだけの余力は独軍には無い・・・。そこでヒトラーは、外相リッペントロップに親書を持たせモスクワに派遣しました。実はこの時、ソ連軍は1930年代後半から行われた軍幹部の大粛清によって指揮系統がボロボロで、独軍と事を構える力など全然無かったのですが、流石は元祖〝鉄のカーテン〟のお国柄・・・その事実は、ヒトラーの耳には届いていませんでした。またスターリンは英仏を全く信用していなかったので、ヒトラーからの親書は、将に〝渡りに舟〟だった訳です。1939年8月24日モスクワにおいて独ソ不可侵条約が調印されました・・・以後10年間両国は戦争しません、というもの。この条約調印は世界各国に大きな衝撃を与えました。と言うのもスターリンとヒトラーは互いに〝犬猿の仲〟と思われていたからなんですが、実はこの不可侵条約には裏の顔(後に暴露される秘密追加議定書)があって、両国の欧州での勢力圏(ポーランドのブレスト・リトフスク以東、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国及びフィンランドをソ連の勢力下に置く)を勝手に取り決めていたのでした。これによって独軍によるポーランド侵攻後の国土分割のシナリオは出来上がっていた訳・・・。1939年9月1日未明、独軍は遂にポーランドに侵攻しました・・・前日の8月31日ドイツ領内ウライウィツクのラジオ放送局が、国境侵犯したポーランド軍兵士に襲撃された事に対する報復措置という名目で・・・しかし今では、この事件は完全にドイツ側の自作自演の謀略と判明しています。その後、独軍はハインツ・グーデリアン将軍によって新たに考案された戦略思想を具体化した戦法・・・機甲兵力と航空兵力の共同作戦〝電撃戦〟によって破竹の進撃を続け、未だ騎兵戦力が主力だったポーランド軍を各地で撃破。9月17日独ソ間の秘密議定書に基づきソ連軍がポーランドとの国境を越え侵攻(終戦直前の満州とソックリだ)・・・事情を知らない独ソの第一線部隊間で一時戦闘が発生する事態も発生しました。結局英仏は独に宣戦布告するも実際に戦闘は起こらず(ポーランドを見殺しにした)9月27日ワルシャワ陥落。29日にはワルシャワ郊外の最後の抵抗拠点が降伏し、ポーランド軍の組織的抵抗は終わりました。戦闘終了後、独ソ間でポーランド分割占領が実行され、ポーランドという国家は消滅します。生き残ったポーランド軍人や政府要人の多くは英国に亡命・・・しかし、ソ連軍占領地域内でソ連軍に捕虜となったはずのポーランド軍将校や政府要人の多くが、その後ぷっつりと消息を絶った・・・のでした。

【そこで何が起こったのか・・・】
1943年4月ソ連領内に侵攻した独軍は、モスクワとミンスクの中間に近い主要都市スモレンスクを占領しました。その郊外にある〝カチン〟という農村近くの森で野営していた独軍の一部隊が〝とんでもないもの〟を発見します・・・それは地中に埋められた大量の腐乱した死体・・・多くは軍服のような服を着用しており、後ろ手に縛られ後頭部を銃で撃たれていました。遺品の中から発見された多くの手帳や身分証明などから、これらがポーランド軍の将校や政治家の遺体であることが判明(因みにマスコミ用語では身元が不明な場合を〝死体〟身元が明らかな場合を〝遺体〟という・・・一般に男性は〝死体〟女性は〝遺体〟というのは大きな誤り・・・何じゃそりゃ)独宣伝相ゲッペルスは、これらの遺体が1939年9月以降ポーランドのソ連軍占領地域で行方不明となったポーランド軍将校や政治家であり、これらの虐殺を行ったのはスターリンの指示によるソ連秘密警察であると世界中に発表・・・国際社会においてソ連を盛大に非難しました。ロンドンにあった亡命ポーランド政府もこの事件を知り、直ちに国際赤十字に対し調査を依頼・・・独軍の協力の下にカチンの森で遺体発掘が行われました・・・発掘された遺体総数4,143名(この数にも複数の説があり3,000名説、4,000名説、4,500名説から5,000名説と分かれている。またソ連占領下のポーランドで行方不明になったポーランド軍将校・政治家の総数も15,000名説、25,700名説など複数ある)・・・国際赤十字の調査で、発掘された遺体がポーランド軍の将校や政治家である事は証明されたが、その殺害実行犯が誰であるか、という明確な証拠は発見出来ませんでした(遺品の調査により、殺害が行われたのが1940年初頭である事は明確となった。遺体が殺害直後にカチンの森の中に埋められたと仮定すれば、その時点ではスモレンスク付近は未だソ連の勢力圏内であった事はハッキリしている)二次戦中はナチスドイツとソ連共産党双方が、互いに相手を犯人として主張し続けたが、戦後行われたニュルンベルク軍事裁判では〝ユダヤ人虐殺=ホロコースト〟に次ぐ大量虐殺として審理され、結局は戦勝国側であるソ連政府の報告のまま、ナチスドイツの犯行とされた。しかしこの判決には、当初から疑問の声が多く、1949年に米国下院内に「カチン虐殺調査委員会」が設置され、1951~52年に行われた調査の結果、虐殺の実行犯はソ連政府であると断定されましたが、朝鮮戦争に続く冷戦状況下においては、それ以上の真相は闇の奥に埋もれたままでした。ところが・・・事態は急転します。事件から50年後の1990年4月13日ソ連共産党書記長ゴルバチョフが、全世界に対し「1940年初頭に発生したポーランド人将校の大量殺害事件=カチンの森の虐殺は、ポーランドの共産化を進める為、当時のソ連共産党書記長スターリンが反動的ポーランド軍将校の処刑を命じ、内務人民委員(秘密警察長官)ベリヤの1940年3月5日付の極秘命令によって実行された」と発表、正式にポーランド政府・国民に対して謝罪しました。その後発表された「ベリヤ~スターリンに仕えた死刑執行人・・・ある出世主義者の末路」(ウラジーミル・F・ネクラーソフ編)と言う本の中でも、明確にベリアと秘密警察の虐殺への関与が明記されています。遥か以前、全くの偶然(なんかコレばっか・・・だな)・・・甚だ不謹慎な好奇心からレンタルしたビデオ『スウィート・ムービー』に収録されていた白黒の記録フィルムは、この『カチンの森の遺体発掘映像』だった訳です。こうしてまた〝20世紀の歴史の謎〟のひとつが、白日の下に明らかになったはず・・・した?

【そして再び謎は深まる・・・のか?】
20世紀末に共産圏を席捲した自由化の波は、遂には〝鉄のカーテン〟を突き破り、ソビエト連邦の崩壊へと繋がりました。これによって旧体制化に極秘とされた多くの史料が歴史の日の目を見る事となります。そんな中1992年7月始め、モスクワのロシア国立公文書館において、ひとつの発見がありました。それは直筆の日記・・・誰あろうナチスドイツの宣伝相ヨゼフ・ゲッペルスの日記だったのです。そしてその1943年9月29日の日記が、世界中に波紋を巻き起こします。そこに書かれていた文章とは・・・「遺憾ながら我々は、カチンの森の一件から手を引かねばならない。ボリシェビキは遅かれ早かれ、我々が12,000名のポーランド将校を射殺した事実を嗅ぎ付けるだろう。この一件は行く行く我々に大変な問題を引き起こすに違いない」・・・。はたして真相は・・・。この記事については、私ATFは記事の出所を確認していません。なんでも1992年10月に発行された雑誌『中央公論』の中で作家の逢坂剛氏が関連した記事を執筆しているらしいのですが、その記事は未確認です・・・。ここ書いた記事のネタ元は、ネット上で「カチンの森の虐殺」を検索していて偶然見つけたサイトの中に記載されていたものです。別のサイトでも「カチンの森の虐殺については、つい最近のゲッペルスの日記の発見により検証されております。この中でゲッペルスは事の重大性を考え、極秘裏にしかも赤軍がやったような工作をしなければならない、との決意を述べています」という記載を見つけました。果たして真相は・・・。しかし以前ヒトラーの日記なるものがマスコミを騒がせた事がありますが、この日記も真贋が怪しいものでした。ゲッペルスが明らかに事件を実行したのがドイツ側である・・・と言及している史料が、何故共産党が未だ権力を握っている時点で公表されなかったのか・・・?まあ言わずと真実はハッキリしていると思われます。ココまで読んでいただければ、聡明なる観戦武官諸氏には真贋は明確にお分かりでしょう・・・。ところで2002年7月12日付のポーランドの新聞(ジェチポスポリタ紙)にこんな記事が載りました・・・映画「灰とダイヤモンド」などで知られ、同国を代表する巨匠アンジェイ・ワイダ監督(76)が「カチンの森」事件を題材とした新作映画の制作に乗り出すと伝えた。ワイダ監督は2000年に、卓越した業績を残した世界の映画人に贈られるアカデミー名誉賞を受賞。ポーランドの著名文化人らとともに今年、日本文化を総合的に紹介する「日本に魅せられて」を出版するなど、親日家としても知られる。第二次世界大戦中の1943年4月ソ連西部(現ロシア)スモレンスク郊外のカチンの森で、ソ連に抑留されていたポーランド人将校ら約4,000人の虐殺体が見つかった同事件は、長くナチス・ドイツの犯行とされてきたが、90年、当時のソ連のゴルバチョフ政権がソ連秘密警察の犯行だったことを認めた。脚本はポーランドの作家ウォジミエシュ・オドイエフスキ氏の書き下ろし。終戦直後の45年、兄弟をカチンで殺されたポーランド共産政権の将校が、ナチスの犯行との先入観を持って事件を調べるうちに、真相を突き止めるとのストーリーになるという。今年秋に撮影を開始するとしているが、公開予定時期は明らかにされていない・・・その後、この記事についての続報を聞いた事がありません(ATFが知らないだけなのか・・・?詳細をご存知の方、是非掲示板に御一報下さい)・・・そして公開されたのが、この『enigma』だった訳です・・・。

【前置きはこの辺で終わりにして・・・】
そうですよ・・・今回の観戦記のお題は『enigma』だったのですよ・・・大汗。まぁ軍オタを自称される方々でも、意外と知らない方が多かったんじゃないでしょうか・・・この〝カチンの森の虐殺〟事件・・・映画中や公式サイトでも説明はされていましたが、それだけでは映画の背景がイマイチ理解できないと思いまして、過去の記憶を発起点として、長々とまた薀蓄を書き込んでしまいました。そんな訳で前置きは以上です。次回はいよいよ本題に突入(オイオイ)・・・独軍暗号〝エニグマ〟に翻弄された人々のお話。そうそう、この『enigma』って映画、世界的ロックシンガーである〝ミック・ジャガー〟のプロデュースで、ご本人もヒッチコック宜しく作品内に登場しているとの事でしたが、私ATFは迂闊にも、その事は全く忘れて観戦してしまいました・・・あぁミック・ジャガーよ何処?【続く】
そうそう、こちらのサイトで《カチンの森の遺体発掘映像》が観ることができるそうです。歴史教育用の映像ですが、内容が内容ですので、心臓の弱い方はご注意下さい


【File087】〝おんな〟は乗せ・・・てるじゃん!潜水艦【後編Vol.2】

2003年05月11日(日)

GWもアッという間に終わり、もうすぐまた鬱っとおしい梅雨になるなぁ~などと思っている今日この頃ですが・・・世の中は相変らず騒がしいですなぁ・・・何なんでしょうねぇ、あの白装束の方々は?恰好なワイドショーネタではあります・・・。最初聞いたとき〝ああ、お風呂研究してる団体かぁ?〟などと想像してしまいました・・・アレは〝サン○ェーブ〟か・・・自爆。日本は信教や集会の自由が認められているのだから、一概に大多数に理解できない事を危険視して迫害するのは良くない・・・などと言う意見も散見されますが、やっぱ理解出来ないものは理解できないっすよぉ~。でも〝戦争映画が好き〟って趣味も、一般大衆からして見れば〝同じやん〟って言われれば、反論出来ないのも悲しいなぁ・・・いや、そんな〝戦争映画ファン〟の地位向上の為に頑張って更新して行かねば・・・と夕日に誓う観戦武官長であった・・・ええ話や~ッ!!さて今回の戦争映画観戦記は、前回に引き続き「〝おんな〟は乗せ・・・てるじゃん!潜水艦」【後編Vol.2】をお贈りします。前回は、女性をお客様的に乗艦させた潜水艦の作品を紹介しましたが、今回は乗艦した女性が活躍する作品をご紹介しましょう・・・それでは開演《開演ブザー》です。いつもの如く携帯電話の電源はお切り下さい。【いつもの如くこの書き込みに資料的価値はありません】

【イン・ザ・ネイビー/潜望鏡を上げろ!(DOWN PERISCOPE/1996)】
母港に入港するロサンゼルス級原潜の甲板から、対岸のゴルフコースのグリーン上のカップに渾身のニアピンを決めた副長トーマス・ドッジ少佐(ケルシー・グラマー)は、サブマリナー(潜水艦乗員)としては非常に優秀な海軍士官で、度々艦長候補者として昇進会議に名を連ねるのですが、若りし頃の演習中にロシア原潜とニアミスをした事故の責任(・・・と、その時自棄酒をして酔っ払った勢いで○○○に入れ墨を入れてしまった)が今だに尾を引いて、なかなか昇進できないでいます。最後のチャンスの昇進会議にも名前は挙がるのですが一部の反対意見の為、スンナリとは承認されません。そこでドッジの技量を確かめる為、超オンボロな旧式ディーゼル潜水艦USSスティングレイ(そんな名前のSF人形劇があったなぁ・・・実際にサンフランシスコの海洋博物館で保存されている潜水艦USSパンパニートを使用)を指揮させチャールストンとノーフォークの大西洋岸二大軍港を、模擬戦によって奇襲攻撃せよ、との命令が下される。実はこれ、ロシアの中古ディーゼル潜水艦が第三国に売却された事によって、これら旧式潜水艦によるテロ奇襲攻撃が予想され、それ対する米海軍の防御計画の効果確認の名目を持っていた・・・。最新の防御システムを突破し、二大軍港に見事侵入出来たら、新鋭原潜の艦長にしてやる・・・との提督の約束に張り切るドッジ少佐・・・だが与えられた潜水艦は戦時中に建造されたサビだらけの超老朽ボロ潜水艦。また乗員も曲者揃い(ドッジ少佐を嫌う反対派が裏で手を回したデタラメ人事によるものなのだが、如何にも「何かやらかしてくれそう・・・」とワクワクさせてくれる人選だぁ)・・・副長のパスカル大尉は、潜水艦乗員には向かない短気で神経質の規則バカ(敵方に内通した為、昔の海賊方式で処刑(笑)・・・されちゃいます)米海軍史上初の女性サブマリナーとして着任した潜航指揮官エミリー・レイク大尉(ローレン・ホリー)は、訓練の成績は優秀だが実際の乗艦経験は全く無し・・・さらに超グラマーで美人な彼女は、将に飢えたオオカミの群の中の赤ずきん・・・(ただしお色気シーンは少なく・・・制服をわざと隠されて、サイズの小さいピチピチの制服・・・胸がハチ切れそう!・・・を着て整列するシーンくらいか。女性乗員用の個室が無い為、前部魚雷発射管室にハンモックを吊って一人で寝起きしているらしい・・・未公開シーン)。その他、命令無視暴行罪のマッチョ水兵(実は潜水艦隊司令長官の息子)や異常なくらいの聴覚の持ち主(もちろんソナーマン)感電が快感になってる通信オペレーター、賭博好き、元アメフト選手、ディーゼル潜水艦の生き字引のような機関兵曹長など海軍のあぶれ者の寄せ集め集団(しかし皆一芸に秀でているのが味噌・・・)。しかし役者はドッジ少佐の方が一枚上手だった・・・持てる知識と技能を駆使してオンボロ旧式潜水艦で、最新鋭原潜の哨戒網を掻い潜る(くじらの鳴き声で原潜の聴音探査を切り抜けたり、嵐の中で漁船に化けてレーダー探査を逃れたり、果ては大型タンカーの船腹下に小判鮫の如くくっ付いて包囲網を突破したり・・・潜航士官レイク大尉がビビる男たちに〝喝〟を入れるカッコエエ場面だ・・・)。海軍版「ハートブレイクリッジ」な潜水艦映画の傑作・・・コメディなストーリーの中でリアルな潜水艦の内部(機関室の中で機関兵曹長がピンと張った洗濯紐が、潜航深度が増す毎に〝ダラリ〟と垂れて、生意気な水兵をビビらせたり・・・)や、海底での探査戦の中に、ハートウォーミングなドラマが展開されます。ありがちなストーリーな為、結末の予想が簡単についてしまうという欠点はありますが、デビッド・S・ワード監督(「メジャーリーグ1・2」「ラルフ一世はアメリカン」)の丁寧な、それでいてラストまで一気に観せてくれる演出(色んな潜水艦映画のパロディ場面満載)が映えています。ただ外観シーンは実物の潜水艦を使用しているので満足できますが、潜水艦内部・・・特に発令所のセットは、如何にも・・・な作りで、なんでソナー員が発令所にいるのよ?・・・なのが残念!日本では劇場公開されなかったが、在日米軍基地内で上映され駐留米兵の間では人気を博したそうです。以前観戦記中でも紹介しましたが再度登場・・・潜水艦ファンの間でも人気の高い作品で、ネットで検索しても悪い評価は余りありませんでしたよ!最後のクレジット部分で、日本でも大ヒットしたヴィレッジ・ピープルの「イン・ザ・ネイビー」がエンディングテーマとして流れるのですが、その時未公開シーンやNGシーンが映っているのもお楽しみ・・・原題はジェームズ・ガーナーが海軍のフロッグマンに扮し、日本軍の暗号を盗み出す潜水艦作品の佳作「潜望鏡を上げろ/UP PERISCOPE 1959」のパロディ・・・さあ海軍に入ろう♪海は君のものだ♪カッコいいぜ♪君を待っている♪さぁ志願しろ・・・♪
『イン・ザ・ネービー/潜望鏡を上げろ1996』はこちらもご参照下さい

【サブ・ダウン(SUB DOWN CRUSH DEPTH 1977)】
地球温暖化の影響を調査する為、海洋生物学者ローラ(ガブリエル・アンウォー/鯨研究の専門家・・・美人!で存在効果は極めて大)海洋研究家ラインハルト(「戦場のメリークリスマス」の名優トム・コンティ/氷山の研究家)潜水挺の設計技師兼操縦士リック(ちょっとヘンなヤツ・・・でも中々博学で物知り・・・MTV好きの臆病者/スティーブン・ボールドウィン/お下劣アニメ「サウス・パーク」の中でも散々扱き下ろされてるボールドウィン3兄弟の一人)が米海軍原子力潜水艦ポートランドに乗り込み北極海を目指すところから物語が始まります。ベーリング海峡から北極海に向かう途中、国籍不明の・・・って言っても旧ソ連しかないじゃん!・・・原子力潜水艦と衝突・・・浸水し火災が発生、艦内に有毒ガスが充満し多数の犠牲者を出す。原子力潜水艦から分離して海底の調査を行っていた海洋調査潜水艇は、制御を失った原子力潜水艦と共に海底へ引き摺られて行く。艦内では、生存者たちが被害の少ない艦尾へ移動し、何とか助かっている。ローラたちは海洋調査潜水艇を潜水艦にドッキングさせ、艦内の発令所へ移乗、艦内換気を試みる・・・これは安直に成功!しかし通路は閉ざされ後部の生存者たちと連絡が取れない・・・しかしなんとかライトによるモールス信号を使用し・・・これまた安直に成功だ・・・調子良いぞ、この調子でガンガレ~ッ・・・生存の為、再浮上を試みるのだが・・・。艦内の酸素残量が時間にして4時間・・・艦内の酸欠状態の演出も、まぁ迫力があって、潜水艦事故の恐怖がジワジワと伝わって来ます。さらに原子炉で放射能漏れが発生し・・・次々に襲い来るアクシデント・・・この辺はパニック映画の定石通りでスリリングな展開かつ見せ場たっぷりだ・・・それと忘れちゃいけないのが〝クジラの声〟・・・地球と自然を象徴しているのか・・・が優しさと安心感を与えてくれます。ラストシーンはちょっと出来過ぎ・・・って感もある。前述の「イン・ザ・ネービー」と同じく〝鯨〟が大活躍(クジラの声を頼りに氷の薄い場所を見つけ浮上に成功・・・って、これも安直過ぎだよ!)以前に本を読んだ知識だけで潜水艦が簡単に操縦できたり、北極海の冷海水中をダイビング・スーツも無しで泳いだり、放射能の蔓延する原子炉の中で冷却水バルブをつなぎかえる作業を素手でやっちゃう艦長(アッと言う間に死んじゃうけど)だとか・・・オイオイ放射能防御服なんてものはないのか・・・など90分少々のお話の中でツッコミどころも満載・・・「クリムゾン・タイド」や「レッド・オクトーバーを追え」には全く及ばないにしても「K-19」よりは面白いかも知れません!・・・米国防省と第七艦隊全面協力だとかで、まぁ適度に迫力ある作品です。ビデオのパッケージが「U-571」のデザインに似てるんじゃない!なのも・・・所謂ところの出来の良いB級版「原子力潜水艦浮上せず」ってとこですかねぇ・・・!
ところで、この作品の監督は〝アラン・スミシー〟という名前なんです・・・が、映画通の方なら良くご存知ではないでしょうか?この〝アラン・スミシー〟という名前の監督は実在しません。出来上がりに不満で「この作品は俺が監督したなんて言いたかない」とか、制作途中でプロデューサーと編集を巡ってトラブったり、事情があって本来の名前を出せない場合に〝全米監督協会〟ってところに訴え出て審査を受け「それはもっともである」と言うお墨付きさへ貰えれば、晴れてこの〝アラン・スミシー〟という名前がクレジット出来る・・・と言う大変有り難い名前なのだそうです・・・南無~ッ。実際は〝グレッグ・チャンピオン(「天国に行けないパパ1990」「カウボーイ・ウェイ1994」等コメディ出身)〟て名前の監督だそうですが、一体何がそこまで彼を追い詰めたのでしょうか・・・。

【太平洋機動作戦(OPERATION PACIFIC 1951)】
なんとも厳めしいタイトル・・・将に戦争映画って雰囲気の作品です。実はこの作品、現時点(2003年5月時点)では、未だ国内版ソフトが発売されておりません。amazon.co.jpの輸入ビデオの販売リストには登録されているようなので、字幕無しでもよければ購入はできそうですが・・・。ところが嬉しい事に、来る7月始めに国内版DVDが発売されるのであります。しかも2500円と言うとってもリーズナブル・プライス・・・で!!さてこの作品、朝鮮戦争の真っ最中に製作された〝デューク〟ことミスターアメリカ、ジョン・ウェイン主演の潜水艦モノであります。物語は太平洋戦争の真っ只中の中部太平洋・・・デューク・ギフォード少佐(ジョン・ウェイン)が指揮する合衆国海軍潜水艦USSサンダーフィッシュ号は、日本軍の攻撃が迫る孤島に取り残された5人の孤児と2人の修道女を救出します。その後、日本軍の激しい爆雷攻撃を潜り抜け、晴れてパール・ハーバーに帰還・・・。ギフォード少佐は航海中、生後間も無い赤ん坊の名付け親(映画では、よく船内で生まれた赤ん坊の名付け親に船長がなりますなぁ・・・)になっており、その子の見舞いに行った海軍病院で予想外の出会いが起こります・・・。実は彼は過去離婚しているのですが、その別れた妻マリー・スチュワート中尉(パトリシア・ニール)が、今は海軍の看護婦として海軍病院に勤務していたのでした。そしてギフォード少佐の人生は、より一層激しくなる戦争と同様に大きく動き始めるのでした・・・。って、これはソフトの売り文句を借用しております・・・汗。戦争映画ファンの皆さん、このパトリシア・ニールという女優の名前に聞き覚えがありませんか・・・そう太平洋戦争緒戦~中期までを舞台に壮大なドラマが展開されるジョン・ウェイン主演の戦争大作『危険な道1965』・・・その中でジョン・ウェイン演じるロック・W・トリー准将と〝大人の恋〟を見せてくれる海軍の看護婦マギー・ヘインズ大尉を演じていたのが、このパトリシア・ニールであります。この『危険な道1965』って作品、ジョン・ウェイン主演の戦争映画の割りには結構泥々とした人間関係を観せてくれる作品なのですが、共演者のカーク・ダグラスが、よくまぁあんな役を引き受けたよなぁ・・・なんて遂々思ってしまう作品でもあります。さてパトリシア・ニールですが、彼女1926年の生まれなので『危険な道1965』に出演していた頃は円熟の四十路(失礼!一歩前ですネ)・・・しかしこの『太平洋機動作戦1951』に出演の頃は、まだ華の二十代・・・ハリウッドを代表する若手美人女優でした。その辺の事情を頭に入れて、この『太平洋機動作戦1951』を観ると、より一層楽しめるのではないでしょうか・・・最も未だ発売前の為、詳細は分かりませんが戦闘シーンも結構ありそうです。是非ご覧あれ・・・。『危険な道1965』はこちらもご参照下さい

と言う訳で乗艦した女性が活躍する作品は、如何だったでしょうか・・・2作品だけですが、両作品とも潜水艦映画の醍醐味満載の楽しめる作品ですので、未見の方は是非一度観戦あれ・・・みんなネイビー♪潜水艦は男だけ~ッ♪みんなネイビー♪でも女性も乗ってるぜ~ッ♪みんなネイビー♪しかも美人だぜ~ッ♪みんなネイビー♪みんなネイビー♪イェ~ッ♪【続く】


【File086】〝おんな〟は乗せ・・・てるじゃん!潜水艦【後編Vol.1】

2003年05月04日(日)

そんな訳で・・・GWも残り僅か・・・皆さんエンジョイしてますかぁ~ッ(A.猪○風)さて、ご存知の様に、私ATFは今日も仕事でした・・・詳細は〝日々散財日記〟をご覧下さい・・・こうなったらヤケクソだぁ・・・てんで、一気に観戦記を書き上げた・・・んですが、またもや文字制限の壁がぁぁぁぁぁ・・・自爆。もはや文字を添削する元気はありません・・・そんな訳で今回の観戦記は二部構成であります・・・いつもながらに、手を抜いてる訳ではありませんよ・・・汗。さてイラクでの戦火がやっと収まったと思ったら、ヨルダンの空港での爆発騒ぎ・・・なんでも拾った物体は〝クラスター爆弾〟の子爆弾だったそうで・・・よく拾って直ぐに爆発しなかったもんです。でも件の記者氏は軍事法廷で裁かれるとか・・・下手すりゃ最悪の判決って事になりかねませんか・・・。でも日本との国家関係を考慮して、特に恩赦で罪一等を減ぜられるかも・・・。子供の頃、親に〝なんでも拾っちゃいけません〟って良く怒られましたが、やっぱその通りですね。でもなんか記念品に・・・って思った気持ちも解らないではありませんが・・・。そう言えば、先日レンタルした「ラスト・キャッスル」の中で、レッドフォード演じるアーウィン元中将が、古の武器や戦場の遺物のコレクターである軍刑務所長ウィンター大佐を指して〝本当の戦場を知らないヤツほど、そんなモノを集めたがる〟なんて意味の台詞を言っておりましたなぁ・・・。さて前回の観戦記は「女は乗せない潜水艦」をテーマに書き始めたのですが、事の発端は島根原発沖の日本海で目撃されたという〝謎の潜水艦〟の一件でありました。そして今回続編を書いている最中に流れたニュースは、中国の通常型潜水艦の〝事故〟・・・艦内で発生した火災による有毒ガスか何かで、全乗員が殉職(ほとんどが配置に就いたままだったとか。佐久間艇長や伊33潜の事を思い浮かべてしまいました)・・・「K-19」でも描かれた様に、冷戦時代には数多くの潜水艦の事故が起こっており、未だ事故内容が明らかにされていないケースも多いとか・・・最近では2000年のロシアの原潜クルスクの事故の記憶が新しいですが・・・例え仕える国家は違えど、殉職された乗員のご冥福をお祈りいたします・・・黙祷・・・では気分を入れ替えて観戦記、今回のお題です・・・〝女は乗せない潜水艦〟が建前ですが、実は女性を乗せた潜水艦を舞台にした作品が幾つか存在します。果たして潜水艦にとって本当に〝女性は厄病神〟なのか・・・それでは開演《開演ブザー》です。恒例ですが携帯電話の電源はお切り下さい。【いつもの如くこの書き込みに資料的価値はありません】

潜艦 海の牙(LES MAUDITS/THE DAMNED 1946)
名匠ルネ・クレマン(「禁じられた遊び」「居酒屋」「太陽がいっぱい」等)が極限状態のUボート艦内を描いた、戦後潜水艦映画の原点とも言える作品ですな。1947年度カンヌ国際映画祭冒険探偵映画賞を受賞。原作の題名は「呪われた人々」って意味だそうです。第二次大戦末期の1945年4月・・・ベルリン陥落直前。一隻のUボートがノルウェーのオスロにある潜水艦基地を出航します。乗艦しているのはナチスの重要人物たち・・・フォン・ハウザー将軍(国防軍の要人)フォスター(ゲシュタポ幹部)とその手先ウィリー(殺し屋)カロッシ(イタリアの実業家)とその妻ヒルデ(実はハウザー将軍の愛人)クーチュリエ(フランスの新聞記者で対独協力者)エリクセン(スカンジナヴィア人科学者)とその娘など。彼らに与えられた使命は、来るべきドイツ敗戦を前にしてナチスの要人たちの南米亡命の受け入れ準備をする事。燃料を節約する目的で英仏海峡ルートを選んだ為、英国駆逐艦に発見され爆雷攻撃を受け、ヒルデが負傷し、その手当ての為、フランスの海岸沿いの町ロワイアンから医師ギベール(アンリ・ヴィダル)を誘拐。航行中にドイツ降伏のニュースが伝わり、次第に艦内に不穏な空気が満ち・・・懐疑心が溢れ・・・まさに終焉の第三帝国の縮図。何とか南米に辿り着くが、現地の連絡員(マルセル・ダリオ)の裏切によって上陸には失敗。艦内ではゲシュタポのフォスターが主導権を握り、脱出を図ったフランス人記者クーチェリエを射殺。Uボートは燃料補給の為、補給艦と会同するのですが、その時フォン・ハウザー将軍を始め一部乗員が補給艦に逃亡を図り・・・この時、カロッシの妻ヒルデはUボートから補給艦に乗り移ろうとして、舷側から海中に転落・・・哀れUボートと補給艦に挟まれ・・・。次第に狂っていく極限状況下で、ゲシュタポのフォスターは補給艦を雷撃、生存者の救命ボートを機銃で掃射、皆殺しにします。その後Uボート艦内では暴動が発生し殺戮が行われ、生き残った者も救命ボートで脱出、ただ一人フランス人医師ギベールが艦内に取り残され、その後Uボートは漂流を続け・・・次第に食料も無くなる中、ギベールは真実を伝える為に日誌を書き綴る・・・ラッキーな事に、最後は米海軍の哨戒魚雷艇に発見されるのでした。殺伐とした物語をドライに描き切るルネ・クレマン監督の手腕が冴える作品で、閉ざされた空間という息詰まる艦内の様子や人間たちの心理描写がドキュメンタリー・タッチのクールな視点で描き出された秀作です。撮影には本物のUボートが使用されているそうですが、詳細は不明・・・Uボートの艦長や乗員の格好が戦争末期と思えないくらいピシッとし過ぎなのでは・・・。ラストシーンで米魚雷艇の雷撃で処分されるシーンは実写シーンの様ですが・・・実際に撃破してるとすれば「鉄路の戦い」と同様に、非常に勿体無い話ではあります。タイトルの『海の牙』からは勇壮なUボートのお話が想像されるのですが・・・でも〝潜水艦〟ではなく〝潜艦〟って名づけたのは誰なんでしょうね・・・確かに語呂は良いですが・・・。そうそう女性が乗ってたからどうだ・・・と言えば、ギベールが誘拐される原因となったのがヒルデの負傷が原因と言ったくらいでしょうか・・・エリクセンの娘に至っては何のために乗艦していたのやら・・・。

ペティコート作戦(OPERATION PETTICOAT/1959)
米海軍太平洋潜水艦隊司令官のシャーマン提督(ケイリー・グラント)が、廃棄処分が決まった旧式潜水艦シータイガー号を訪れたところから物語が始まります。彼はこの潜水艦の初代艦長・・・航海日誌を捲りながら様々なエピソードが甦ってきます。1941年12月フィリピンのキャビテ軍港に停泊中の新造潜水艦シータイガー号は、日本軍機の奇襲攻撃を受け大破着底。米軍のコレヒドールへの撤退が決定されたため自沈が決定されるが、シャーマン艦長は命令を無視し短時間の応急処置で、取り敢えず最寄りの基地まで脱出する事を決定する。戦闘経験は全く無い伊達男の提督副官(物資調達の才能は抜群!)ホールデン大尉(トニー・カーティス)を加え・・・途中5名の陸軍看護婦たちを救出、物資調達の代償に民間人(妊婦や子供、ヤギまでいる)を乗艦させたことから混乱は頂点を極め・・・。シータイガー初戦果のトラック撃沈(笑)・・・資材不足で艦体のさび止め塗料のペンキ不足から、赤と白を混ぜたのは良いが、結果的にピンクになってしまい(白黒作品では使えないギャグ)未確認潜水艦として連合軍艦船から爆雷攻撃を受け・・・あわや風前の灯火・・・!を思わぬ機智ですり抜ける・・・『ピンク・パンサー』シリーズ『ティファニーで朝食を1961』『地上最大の脱出作戦1966』を手掛けたナンセンス・コメディの名手ブレイク・エドワーズ監督のドタバタではなくスマートな傑作コメディ戦争映画。トラブルに直面する度のケーリー・グラントの困った顔が見もの。撮影には実在の米海軍潜水艦USSバラオ(SS-285)が使用されています。セットで使用された潜水艦の艦橋がハリウッドに残ってるそうです。で、この米潜水艦の艦内が広くて明るい(なんとシャワーまで有る!)のが、狭いよ~暗いよ~な他の潜水艦映画と大きく違うとこですか・・・。まぁ陸軍の看護婦たちを乗艦させる以前に、色々災難が降って来てるので、特に女性が災いの元とは言えませんなぁ・・・結局は、最後のこれでもかって言うくらいのハッピーエンドに繋がっている訳ですから・・・!!実はホールデン大尉役のトニー・カーティスは、戦時中実際に潜水艦の通信兵として勤務していたそうです!彼が海軍に志願したきっかけとなったのが、ケーリー・グラント主演の「DestinationTokyo(1943)」を観た事だったとか・・・映画スターとなった後、彼が最も出演したかったのが「ケーリー・グラントとの共演の潜水艦を舞台とした映画」だったらしい。ヒロインの一人ダイナ・メリルは同じ年に製作されていたジェリー・ルイスの『底抜け船を見棄てるな』にも出演。ホールデン大尉と相部屋になるストーバル少尉役のディック・サージャントは米国人気テレビドラマ「奥様は魔女」の二代目ダーリン。「Operation petticoat」も連続ドラマ化され1977年9月~1979年6月まで2シーズン33話が放送され人気を博したそうです。物資調達のプロは戦争映画では良く登場しますが、この作品のホールデン大尉は「大脱走1963」のヘンドリー「グリーン・ベレー1968」のピーターセン軍曹に並ぶ戦争映画史上の三大調達屋の一人に挙げられますな。『ペティコート作戦1959』はこちらをご参照下さい

潜水艦イ-57降伏せず(Submarine I-57 Will Not Surrender/1959)
いわゆる邦画戦争映画界に最も活気のあった1950年代~1960年代の最盛期に制作された〝良質〟戦争映画のひとつ。俳優や制作スタッフに軍隊経験者が多数いて、本来の軍隊の雰囲気が良く描かれています。演じる俳優陣は、ざっと以下の通り・・・。
河本少佐(イ-57潜艦長/池部良)
当初は危険極まりない任務として反対しているが、国家存亡の危機に直面し任務を引き受ける。一見クールだが実は熱血漢らしい。人情に厚く全乗組員から慕われている。
志村大尉(イ-57潜先任将校・水雷長/三橋達也)
艦長の右腕で、熟練の先任将校。艦長に絶対の信頼を置いている。部下の人望も厚い。
中沢軍医中尉(イ-57潜軍医長/平田昭彦)
何よりも乗組員の健康を気遣う。英語が堪能。ベルジュ親子の身辺の世話を担当する。
清水機関大尉(イ-57潜機関長/三島耕)
足立中尉(イ-57潜通信長/岡豊)
永井中尉(イ-57潜航海長/土屋嘉男)
山野少尉(イ-57潜甲板士官/久保明)
遠藤少尉(イ-57潜配属回天特攻隊員/瀬木俊一)
太田兵雷長(イ-57潜掌水雷長/織田政雄)
竹山上曹(イ-57潜乗組員/南道郎)小林上曹(同/中島元)金原上曹(同/大村千吉)前田一曹(同/宇留木耕嗣)丸田上水(同/石田茂樹)原田上水(同/越後憲三)野村上水(同/上村幸之)阿部一水(同/多川譲二)
秋山少将(ペナン基地根拠地隊司令/高田稔)
横田参謀(軍令部参謀/藤田進)
ベルジュによる終戦調停工作を画策。河本少佐にベルジュ護送を命ずる。
三宅大尉(ペナン基地根拠地隊副官/伊藤久哉)
ペルジェ(某国外交官/アンドリュー・ヒューズ)
かつて日米開戦を誰よりも強く反対した人物。その外交手腕と人脈を買われ、日本側より連合国との講和の極秘調停役を依頼される。演じるアンドリュー・ヒューズは「日本海大海戦1969」のロジェストウェンスキー司令長官役やクレージーキャッツの「大冒険1965」でのヒトラー役などの他、多くの邦画に出演している日本では馴染み深い外国人俳優。
ミレーヌ(ベルジュ娘/マリア・ラウレンティ)
我が儘なお嬢さんで、最初は自分の不遇の原因が日本人にあると思い込んでいます。潜水艦の劣悪な環境によって体を壊すが、中沢軍医中尉の治療によって回復、いつしか心を開いて行きます。水浴びシーンに萌え~。このマリア・ラウレンティという女優は他に出演作も無く謎の女優・・・情報求む!
もはや敗戦が明らかになるつつあった昭和二十年初夏。多くの日本潜水艦が連合国側の攻撃で失われていく中、艦長河本少佐以下熟練の乗組員たちによって数々の武勲に輝く伊五七潜に新たな任務が下る。それは日本を滅亡の危機から救うべく、連合国と少しでも有利な条件で講和を結ぶ為、特使として某国の外交官ベルジュとその娘ミレーヌを、太西洋のアフリカ北西沖スペイン領カナリー諸島まで護送する任務だった。先任将校志村大尉など一部幹部士官は、この任務を承服せず、今までの様に艦内をひとつに纏められず、数々の試練をチームワークで切り抜けてきた伊五七潜にとって前途多難な任務だった。また潜水艦は女人禁制、何か騒ぎが起こりそうな事も艦長の悩みの種・・・。しかも長距離航海用に燃料搭載量を増やす為、魚雷搭載数は発射管に装填した6本だけ・・・。そんな状況下でペナンを出航し一路カナリー諸島を目指す伊五七潜。うら若き女性しかも外国人の同乗に色めき立つ乗組員達・・・女性を乗せたが為の騒ぎはこれくらいか・・・そう言えば体を壊したミレーヌの為に〝氷〟を作るエピソードがあったなぁ・・・あれで燃料余分に喰ったか・・・。行く手に待ち構える連合国の猛攻撃。生と死の錯綜する戦場の荒波を越え伊五七潜は進む・・・!幾度もの困難と敵駆逐艦の脅威を乗り越え、司令部との連絡を断たれながら、そして尊い犠牲を出しながら、遂に伊五七潜は希望峰を周り、大西洋カナリー諸島沖まで辿り着くが、既にポツダム宣言は発表され・・・時既に遅し。民間人であるベルジュと娘ミレーヌを巻き込むに忍びなく退艦させ英駆逐艦に避難させた後、艦長河本少佐は最後の命令を下す・・・「伊五七潜は降伏しない」(ワーテルローの仏軍近衛兵みたいだ・・・)身体を清め第二種軍装を着用した全乗組員たち・・・伊五七潜は待ち構える英駆逐艦群へと突撃を敢行する・・・。もはや日本の敗戦は逃れられない状況下で、こんな特攻のような勝ち目のない行動を起こす事はないだろう・・・と思えるのですが、彼ら・・・当時の日本帝国軍人たちにとっては、これが唯一の筋を通す道だったのでしょうか・・・。この作品は、監督/松林宗恵、特撮/円谷英二による邦画戦争映画を代表する作品と言えます。自衛隊の全面協力により、当時海上自衛隊に唯一所属していた潜水艦くろしおと米軍貸与の自衛艦を使用した撮影も見どころのひとつです。監督の松林宗恵氏は実際に海軍第三期予備学生を経て昭和十九年海軍少尉に任官、陸戦隊小隊長として終戦を迎えた経歴を持ち、また実家が島根県の浄土真宗の寺院だった為、僧籍をも持つ異色監督。他に「人間魚雷回天」「太平洋の嵐」「連合艦隊」「世界大戦争」を監督している邦画戦争映画界でも馴染みの深いヒューマンな演出の冴える監督です。艦内で鼠を捕まえ喜ぶ主計科水兵や垢取り競争の景品が貴重な洗面器一杯の水など、挿入されたエピソードも他の邦画戦争映画には余り見られません。またモノクロ作品なのですが、特撮監督の円谷英二氏は、特撮場面の撮影に当時まだ高価なカラーフィルムをふんだんに使用・・・カラーフィルムでモノクロ撮影した時の高い解像度を利用したとか・・・そんな貴重なカラーフィルムを使用した特撮部分なのだが、松林監督は3シーン程編集段階でカットして円谷氏を怒らせたとか。この作品の後に邦画戦争映画の大作が次々に製作・公開された為、その陰に隠れてしまった感がありますが、一見どころか十見の価値ある将に邦画の「Uボート」と言える作品です。

さて〝女性を乗せた潜水艦〟のお話「後編Vol.1」は如何でしたでしょうか・・・。次回は、まだまだある〝女性を乗せた潜水艦〟のお話「後編Vol.2」・・・今回はどちらかと言えばお客として女性を乗せたお話でしたが、次回は一味違った女性が活躍するお話をご紹介しましょう・・・【続く】

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