V字経営研究所・酒井英之の4行日記 DiaryINDEX|past|will
佐久社長は、「自分が正しいと思わないこと」が大切だと言う。そうでないと人の意見を受け入れることができなくなってしまう。コンサルタントという仕事を30年もやっていると、そうやって人の意見を素直に聞いて、会社というかけがえのないもの磨き上げてきた経営者たちに頭が下がる。彼らと私を比べれば、彼らの方がはるかに努力をし、物事を考え、重いものを背負っている。にもかかわらず、私の意見を素直に聴き、それに従うのは自分が正しいとは決して思っていないからだ。松下幸之助は色紙に「素直」と書いた。どれだけ成功しても思い上がらないようにと心がけた自分への戒めかもしれない。
佐久社長はすべての人には絶対的な価値があるという。仕事ができなくても、存在価値があると言う。ただし存在価値と評価は切り離すべき。働きアリの中にはサボっている者がいる。サボっている働きアリを集め、一つの集団を作ると、8割はちゃんとした働きアリとなる。が、残り2割はやはりサボっている。このサボった蟻は、外敵に襲われた時に、勇敢に戦う。彼らは、なんかの時に全力を出すためサボっているのだ。これは震災の時にバイクを走らせて市民を助けた暴走族の姿と被る。あるいは江戸時代の浪人の姿と同じ。 2-6-2の最後の2にも絶対的な存在価値はある。
経営の成功法則の中に「時間軸を味方につける」があった。すぐに結果を出さないこと、ゆっくり温めていくこと。これができるのは中小企業の特権である。ただし、結果が出ないからと言って、すぐに変えてしまうとすぐに崩壊してしまう。良いと思って信じたことはやり続けていくことが大切だ。私もいくつかのトライをしているが、なかなかうまく行かず、尻切れトンボになることが少なくない。PDCAを回しつつ、「それは今本当に必要なことか?」「私がやるべきことか?」を問いながら、YESなら、諦めずにやり続けないといけない。
リーダーは自責で考えるということを私はセミナーで繰り返し伝えている。しかし、自分を責めすぎてもいけない。それはメンタルの崩壊を招いてしまう。自分を責めすぎると、自分を諦めてしまう。このような時は、自分の考え方を周囲に、素直に「助けて」と自己開示し、受け入れてもらうのが一番良い。河合電器製作所の佐久社長は、勇気を持って本気でマジックワードを使えという。マジックワードは「分からない」「助けて」「完璧を目指さない」「鎧を着ない」。そのことが大事なのだ。
長らく「選択と集中」が世の中で正しいものだと思われてきた。しかし、今回のコロナ禍では、特定事業への集中や特定顧客への集中がリスクの高いものだと証明された。私の会社も3本柱を推進しているが、そのうちのひとつの「コミュニティ事業」はこのコロナでほぼ実行不可能になってしまった。研修授業はオンライン化を図ることによってなんとか当初予定通りに進んでいるが、「選択と集中」は「分散と多様性」という方向に行くのではないかと思う。
河合電器製作所へ、受講生から質問があった。「やることが多くて余裕がなくなるのではないか?どうしているのか?」。回答「やりたいことが増えてパンクすると、やはり今やってることを見直し、本当にそれは今やらなくてはいけないのか?」という問いだ。多くの人は「自分がやらなきゃいけない」と思い込んでいる。しかし、人に任せてしまえば、人がやってくれることは多い。「何も自分じゃなくてもできることはいっぱいある。そして本当に自分しかできないことに絞り込むことが、余裕を生み出す秘訣だ」と佐久社長は言う。
選択肢の多い人物を育てるために、3つの施策を河合電器製作所は実施していた。1)教養の広さ=選択肢を多くするためにジャンルを問わない経験や学びを提供している。2)お互いのことよく理解し合うために感情の交流。報連相は単なる情報のやり取りなので、深いところまでわからない。同じ映画を見て語り合うなど、感情の共有が欠かせない。3)強制するのではなく、一人ひとりの自主性を重んじる。同社が社内で行う様々なイベントも、すべて自主的に参加する仕組みになっている。目的を伝えて手を挙げた人だけが参加する形をとるのは今の時代にマッチした良い方法だ。
名大大学院での河合電器製作所の佐久社長のお話し。同社がやっているマネジメントは「人としての成長を狙った長期的な投資」である。求める人材像は、「選択肢を自ら生み出して、自らそれを解消できる人」。これは理想のリーダー像である。特に安定成長期から低成長期においては、ミドルの意見を吸い上げられない会社は、おそらく現場が分からなくて次の一手が見えないはずだ。ミドルの気づき力とアイデアが、会社を推進する原動力になる。それには皆で考えたり、行動させたり、ディスカッションさせる時間が必要で、その時間を捻出できる会社が強い会社と言える。
今年で4年目を迎えた名古屋大学の大学院講座。河合電器製作所佐久社長と早川広報リーダーをお招きし講義していただいた。企業の生産性を上げるためには合理性を追求する。このとき多くの企業が合理性を追求した仕組みを考える。機械化・IT化を進めて人を整理する。が、同社はその逆を行く。「働く人がイキイキするようにすることが先」という考え方だ。関係の質を高めることが、結果の質を高めることにつながるという経営を実践されている。理論的にはその方が正しい。しかし、それを実践されている会社は少ない。
親しいコンサルタントのガジロウさんが、面白いこと教えてくれた。メーカーの営業利益率は10%から20%。それは世の中にない商品を生み出すことへの対価だ。問屋の営業利益率は1%から3%。これは在庫を持つことへの対価。小売業の営業利益率は3%から7%。それは顧客を持つことの対価である。サプリメントのメーカーはこれを全部やっているので20+3+7で営業利益率が30%にもなる。逆にどれか一つしかやっていないと、その範囲に営業利益率は止まる。さらに一つもやっていないと、たとえメーカーでもそれ以下になってしまう。高収益企業になりたければ、今の自分の業態に何を加えればいいか、このことで明らかになる。
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