カンラン
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『初恋』。 私が生まれるよりも前, 1968年を舞台にした中原みすずさんという人の本です。 カバーの装画は浅野忠信氏。
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1968年12月10日, 雨降りの東京の府中というところで 3億円を積んだ現金輸送車が襲われた事件。
もちろん私はかなり大きくなってから見た, 「昭和を振り返る」的テレビの特番や この事件をもとに作られたドラマを通してしか知らない。 たしか数年前にビートたけし氏主演のドラマを見たのが最後だったかな。
ちょうど学生運動が盛んだった頃。 この本の中に登場するジャズ喫茶にたむろす若者達は, 今の私の年齢よりも若いというのにとても大人びている。 それ故にきりきりする切なさが根底に漂っている作品。
自分の中にずっと封じ込めてた記憶を ひとつひとつ丁寧に取り出して告白する作業。
18歳だった「みすず」。
ひとつひとつのかけらは 時間が経ってもなお鋭さを秘めていて 読み進むほどに,痛々しい。
あの黒いセドリックが予定通りの9時16分に 刑務所通りを通過していたら, 「みすず」と初恋の相手「岸」には 一体どんなかたちの未来が待っていたんだろう。
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