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沙夜



 最終日

16日。
某所にて、DVD鑑賞。
「ナルニア国物語」と「ALWAYS 三丁目の夕日」を観る。

夕食は一昨日と同じ居酒屋にて。



(私が彼に、とあるダメ出しをした後に)

「豆ぞうさんって、私に対して、愚痴とか不満とか言わないよね」

「だって、別にないもん」

「それはウソでしょ。感情的になったりとか、そういうのを私に見せないよね」

「そうかなぁ」



「恋人とか、夫婦とかって、関係を良くする為には、
時には話し合いが必要なんじゃないかって思うんだけど」

「話し合いねぇ……」

「…………」

「…………」


それからずっと無言が続いた。

なにかしら返事が欲しくて彼の言葉を待った。



次第に酔いがまわり、
(それもこれも、グラスで頼んだつもりの梅酒ソーダが
ジョッキで来て、弱い癖にぐびぐび飲んでしまったのがいけなかった)
そのうち、どうでもいいような気分になってきた。



「何か頼む?」

「もう、いいんじゃない?」(なげやりに)

「……そうだね。じゃ、出ようか」



最後の最後がこんな終わり方。

もう、これで彼は帰ってしまうというのに。




店の外に出た途端、悲しみをこらえきれずしゃくり上げて泣いた。

私達は話し合いをすることも出来ないんだ。
私が訊いても彼は何も答えてくれない。
何も言わないまま、帰ってしまう。

そんな思いと、
それ以外にも自分の抱えている問題に対する不安。
ごちゃまぜの感情が胸の中で一気にふくれあがった。



泣きながら横断歩道を渡り、駅前のビルで足を止めた。

自分でもわけがわからないほど、涙があふれてくる。

彼はずっと無言だった。

私はいろんな言葉を頭の中で反芻しては、そのどれも言うことは出来なかった。




「私は………

あなたの気持ちが分からなくて………

……つらい」

「どうして分からないのかなぁ?」

「じゃ……あなたは…私の気持ちが分かるの?」

「分かっているつもりでいるよ」

「そうなんだ。……じゃ、分からないのは、私だけなんだね」



彼の瞳を見つめて、ひたすら泣き続けることしか出来なかった。

彼は困った様子で、私の頬に流れる涙を指でぬぐったり、
髪を触ったりしていた。

そしていつものように、
「大丈夫だよ」「沙夜だけだからね」「大好きだよ」
と繰り返した。



泣き止もうとしても、彼が何か言うたびに涙が出てしまう。

「なんでそんなに泣くかなぁ」

「……」

「今度(会うの)は9月だね?」

「……」

「9月でしょ?」

「……」

「9月までに一回来ようか?」

(ぶんぶんと首を振る)


「お盆休み、楽しかったよ」

「私も。……お盆休み…最初から最後まで一緒にすごしてくれて、
すごく嬉しかった。……ありがとう。…ごめんね」


「帰れる?大丈夫?…って大丈夫じゃないか。送って行こうか?」

「ううん。私、歩いて帰る」

「どこまで?」

「○○まで」

「なんでそんなことするの?」

「歩いて帰りたい」



夜風にあたりながら、歩きたい気分だった。

どれくらいかかるんだろう、1時間半くらいかな、とぼんやり考えた。



「じゃ、僕も一緒に行くよ」

広い通りのところまで、手を繋いで歩いた。


「ここでいいよ」

「なんで?一緒に行くよ!」

「こんな無茶なことに、あなたを付き合わせられるわけないじゃん」

そんな無茶なことを、ひとりでするの!?

「………」



ぴしゃりと言われて、それもそうだな、と妙に納得してしまった。

今まで、彼にこんな風に強く言われることも無かった気がする。

なぜかしら少し気持ちがほぐれてきて、
なんだか可笑しくなって、
(うんうん、そうだよね。無茶だよね)ってひとり頷きながら、
来た道を戻ることにした。


でもやっぱりこのままの気分で電車には乗りたくないな……。

「お茶しよっか?」

「いいよ」


彼も笑顔で答える。

ふと立ち止まり、キスをされぎゅううっと強く抱きしめられた。

頭がくらくらした。

「大好きだよ。離したくない」

彼の言葉にまた泣いてしまった。





それからミスドでお茶をした。
明るくカジュアルな店の雰囲気のおかげで、気持ちが瞬間に切り替わった。

何事もなかったかのように軽くおしゃべりをして、
いつもと同じさよならをした。







2006年08月16日(水)
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