2010年12月12日(日) |
最終節の浦和の戦い方は我慢ならない |
サッカーJリーグ2010シーズンが終了した。順位は、①名古屋グランパス(72)、②ガンバ大阪(62)、③セレッソ大阪(61)、④鹿島アントラーズ(60)、⑤川崎フロンターレ(54)、⑥清水エスパルス(54)、⑦サンフレッチェ広島(51)、⑧横浜F・マリノス(51)、⑨アルビレックス新潟(49)、⑩浦和レッズ(48)、⑪ジュビロ磐田(44)、⑫大宮アルディージャ(42)、⑬モンテディオ山形(42)、⑭ベガルタ仙台(39)、⑮ヴィッセル神戸(38)、⑯FC東京(36)、⑰京都サンガF.C(19)、⑱湘南ベルマーレ(16)となり、東京、京都、湘南がJ2に降格した。
○激震、FC東京降格
降格3チームのうち、京都は4勝、湘南は3勝しか上げられなかったわけで、この成績が物語るように、この2チームの力不足、戦力不足は明らかだった。一方、同じ降格でも、FC東京の場合は、説明するのが難しい。FC東京の戦力を見れば、 FW平山相太、FW大黒将志、MF石川直宏、MF羽生直剛、DF徳永悠平、DF森重真人、DF今野泰幸、GK権田修一の8人が日本代表及びその経験者。しかも、FW2、MF2、DF3、GK1と、代表経験者のポジションのバランスはよい。こういうチームは、シーズンを通じて大きな崩れを起こさないと思うのが一般的だ。
筆者は、当コラムにおいて、FC東京の危機について、「FC東京には失望している」(2010年08月29日)、「FC東京、残留の可能性は」(2010年09月26日)、「FC東京改造計画」(2010年10月18日)を書き、警鐘を鳴らし続けてきたので、繰り返さない。
○平山はFC東京を飛び出せ
FC東京の降格は、クラブ、スタッフ、選手、サポーターにとって悲劇であろうが、この災いを吉に転じられる可能性がないわけではない。まず、選手についてであるが、代表クラスの選手には自動的に移籍の道が開かれることだ。筆者が第一に移籍をすすめたいのが、FW平山相太だ。彼は高校卒業直後に、オランダ一部リーグと契約を結べた逸材。ところが、契約中にオランダから帰国、解雇された。その後、FC東京に入団したが伸び悩んでいる。彼の伸び悩みの原因として、彼自身の精神的弱さ等を指摘することは簡単だが、彼の才能を伸ばす指導者に巡り合えていないこともその1つではないかと筆者は考えている。FC東京を飛び出して、できれば、外国人が監督を務めるクラブに移籍してみるのも一考かと思う。
DF徳永悠平、DFF森重真人、DF今野泰幸、GK権田修一は、たとえ1年間でも、J2で戦う選手ではない。日本のトップカテゴリーで、優勝やACL出場に絡む試合経験を積んで、向上してほしい。W杯ブラジル大会開催まで、はや、8分の1(半年)が経過してしまっているのだから。
○首都に相応しいクラブを目指せ
クラブ(経営陣)にとっては、今後のチームづくりを考えるいい機会が与えられた、と考えればいい。世界のサッカーリーグの常識で言えば、大都市(その多くが首都)をホームとするクラブは強いプレッシャーを受けるのが一般的だ。ところが、わが日本のFC東京というクラブは、東京都民の強い支持も受けない換わりに、その反対のプレッシャーも受けていない。東京にありながら、東京を代表していない。そのことは、実は、FC東京が、首都民を熱狂させる魅力もなければ、愛着ももたれなかったことを意味している。
首都民を熱狂させないクラブ=FC東京の存在が、日本のサッカー人気を深めない要因の1つでもある。日本サッカーのトップカテゴリーは、大きな空洞を抱えたまま、虚ろな年月を重ねているともいえる。
マーケッティング理論の“基礎の基礎”でいえば、人口は最重要の指標の1つ。販売力、消費等の規模は、商圏の人口の多寡が決定する。プロサッカークラブの収入は、年間入場者数に比例し、入場者数の潜在的パワーは人口に比例する。人口の多い都市をホームとするクラブのほうが、そうでない都市をホームとするクラブより、収入があげやすい。FC東京は、メガロポリス東京をホームとするため、経営に有利なクラブであるはず。
FC東京のクラブ経営者は、FC東京というサッカークラブを本気で経営する気がなかったとしか思えない。FC東京がJ2に沈んでいる間、経営陣は、クラブのあり方を突き詰めて考え、方針を決めてほしい。いまのまま、プロとアマの境界不明の曖昧な運営にとどまるのか、プロとして、クラブ経営を続けるか――この1年間の猶予で、結論を出すべきだ。
○最終戦の浦和レッズの戦い方を許すことができない
最終節、降格の確率が高い神戸は浦和と、そして、地力で残留できるFC東京は既に降格が決定している京都と、ともにアウエーで試合をした。結果はご存知のとおり、神戸が浦和に4-0で勝ち、東京が京都に2-0で負け、東京がJ2降格となった。両軍の試合内容については既に多くの報道がなされており、ここに詳述はしないが、筆者は浦和の戦い方に大いに疑問を感じているどころか、プロとして許しがたいとさえ思っている。であるから、ここで一言、いっておく。もちろん、最終戦で降格を脱した神戸の勝利を貶めるつもりはない。その健闘は讃えられるべきだと思っている。問題は勝った神戸にあるではなく、浦和の戦い方にあることを、どうしても言っておきたい。
○フィンケの選手起用に疑問
神戸の先制点は31分、FW吉田孝行が上げた。その得点シーンを振り返ってみると、自陣深くから出た一本のパスに反応したFW吉田孝行が鋭く反応し、ボールをキープ。そのとき、吉田とゴールを結ぶライン上に入る可能性が高い浦和の守備は濱田水輝ただ一人だった。その瞬間、吉田は濱田を楽々と置き去りにして、ゴール前に迫り、完全フリーでゴールを決めた。
筆者にはまったく、信じられないゴールシーン。浦和の守備選手(濱田)がプロとは思えなかった。こういう場面における守備(の選手)の鉄則は、“ボールは通してもいいが、人は通すな”だろう。濱田の現段階の技術の未熟さから吉田を止められないのならば、彼はファウルでもいい、なにがなんでも、吉田をつぶさなければだめなのだ。それがプロのディフェンダーの仕事の基本中の基本ではないか。
それだけではない。神戸の2点目は、52分、濱田がペナルティーエレア内でファウルを犯してのPKだった。今度は、ペナルティーエリア内であるから、“人は通してもいいが、ボールは通すな”であろうか。もちろん、こんな言い方はサッカー界にはないが、ペナルティーエリア内でファウルをすれば、PKは当たり前。濱田はプロとはいえない。推測だが、先制点をやすやすと与えた甘さを指摘された濱田は、今度はハードに行かなければ・・・と思ったのかもしれない。しかし、状況は間逆である。ペナルティーエリア内では冷静に行かなければいけない。そういう判断がプロならば当たり前であり、それができない半人前を、降格がかかった相手との試合に先発起用する浦和の監督が信じられない。
○フィンケは勝負の厳しさを若手に教えていない
優勝を決めた後、名古屋のストイコビッチ監督はレギュラークラスを先発に起用し続けた。消化試合にもかかわらず、若い選手を起用しないストイコビッチに、その理由を尋ねた記者に対し、彼は、降格がかかった相手と戦うケースもあるのだから、すべての相手と平等な条件で試合をしなければいけない、という意味の回答をしたという。さすがである。こういう考え方を、「世界レベル」というのだと思う。
浦和のフィンケ監督は、神戸戦の前に退任が決定していた。彼が浦和の監督に適任であったかどうかには、いろいろな議論があるだろうが、フィンケはストイコビッチと比べるまでもなく、プロサッカーの厳しさを自覚していないという意味で、Jリーグのどこのチームの監督にも相応しくない、と筆者には思える。フィンケは若い選手を育てる情熱はあったかもしれないが、プロチームに必要な勝利と敗北のもつ意味について、彼の采配、指揮、哲学を通じて、チームに浸透させる情熱をもっていなかったように思える。それが、神戸戦に象徴的に現れたのではないか。
フィンケは、神戸に2点目を献上したところで、濱田を交代させてしまった。中途半端ではないか。己の選手起用の判断力のなさを、自ら認めたようなものだ。濱田を使い続けるのなら、若手に試練を与えても育てるという意味(むしろ、「意地」といったほうがいいかもしれないが)がみいだせる。が、フィンケは、そこまではしない。
こういう選手起用をみれば、浦和がフィンケの監督契約を更新しなかった結論は誤りでないことが証明される。もちろん、浦和が世代交代期にあり、難しい時期を迎えていたことは認めよう。たとえそうであっても、フィンケは一国のトップカテゴリーの最有力クラブの監督としての資質に欠ける。
○やる気のないまま4点を献上した浦和
浦和はその後も、神戸に2点を加えられ大敗した。だが、もう一方の当事者・FC東京が負けたため、その戦い方は不問に付されたまま、シーズンを終えた。しかし、神戸とFC東京の降格条件が微妙であったならば(たとえば得失点差等)、浦和の戦い方は非難の対象となった可能性があった。FC東京の対戦相手・京都は、既に降格が決まっていながら、普段どおりの試合をして、勝利を得た。FC東京が京都に勝てなかったのは、FC東京の監督・選手の責任であり、ほかのだれの責任でもない。だから、FC東京の降格の原因は、京都に勝てなかったFC東京に帰する。けれど、神戸相手に無気力に近いまま、意味なく大敗した浦和というチームのあり方は、気持ちのいいものではない。
「すべて同じ条件で試合をする」というストイコビッチの言葉は、同じ選手を起用するという、表面上のことを意味しない。戦うメンタリティーの問題なのだ。浦和の選手・関係者は、ストイコビッチの言葉の裏に潜む、プロ意識を噛み締めてほしい。
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