2011年12月27日(火) |
CWCを日テレが中継する不幸 |
サッカー・トヨタ・クラブW杯(CWC)で優勝したバルセロナのリオネル・メッシに対して、“間抜け”な質問をしたとして、お笑いタレントの明石家さんまが海外メディアから酷評されたという。バルセロナがサントスとの試合を終えた直後、TV局がメッシを呼び出し、インタビュアーのお笑いタレントが「老後はどうしますか」という質問をしたらしい。さんまは、サッカーファン、サッカー通として知られている。筆者は、この試合の中継は見たが、試合終了とともにチャンネルを切り替えたので、このシーンは見ていない。
さて、CWCがもっている構造的欠陥については、先の当コラムにて詳述しているので繰り返さない。さんまの間抜け・インタビューの問題は、CWCが、日本のTV局=日本テレビによって中継されていることにある。CWCを日本テレビが中継しているということは、日本のサッカーファンにとって、最大の不幸の一つだと言って過言でない。さんまの間抜け・インタビューは、そのことの象徴にすぎない。
問題点を列挙しておこう。第一は、サッカー中継にお笑いタレント等が複数出演することだ。彼らが世界のサッカー事情、なかんずく、各国のリーグ事情に詳しいとは思えない。筆者には彼らが顔を出す理由がまったく理解できない。お揃いのマフラーを巻いたサッカーとは縁もゆかりもないお笑いタレントが集い、わけのわからないしゃべりを繰り広げるCWCテレビ中継は、筆者の目には異様にうつる。
第二は、専門の解説者の力量不足。同大会中継に携わる解説者は、筆者の認識では3名だったと思われる。そのうち、試合ごとに2名が交代で出演していたように思う。いずれにしても、同大会解説陣は、お笑いタレント同様、大陸別に出場したチームの特色について語らない。もちろん、大陸のサッカー事情、優勝国のリーグ事情等について語らない。おそらく知らないのではないか。
たとえば、南米代表を決定するのがコパ・リベルタドーレスであることは普通のサッカーファンならば承知のことだろう。では、この大会はどういうシステムで行われているのか、あるいは、今回出場のサントスはどのように勝ち上がってきたのか――等の詳細は、試合前もしくはハーフタイム等の空き時間に十分な説明があってしかるべきだろう。
北中米はどうなのか。北中米代表を決定する大会はなんというのか。何カ国が参加して、どのような戦い方をしたのか。ワールドカップでは強い米国だが、クラブレベルではこの大会に勝ち上がれない理由は何か。
アフリカ代表でも同じようなことがいえる。ワールドカップで強く、欧州強豪リーグに多数の名選手を送り出しているコートジボワール、カメルーンのクラブではなく、マグレブ・アラブ系のチュニジアのクラブがなぜ、今回出てくるのか。アフリカ大会はどのようなシステムで、どのような戦いが行われたのか。
そればかりではない。わが国が属しているアジアの中でも、中東のリーグはわからないことが多い。今回出場したアルサッドは、アラブ系のカタールリーグに属しているが、アフリカ系帰化選手が多く見うけられた。このことは、カタールリーグの特徴なのか、アラブ諸国全体に言えるのか、それとも、リッチな産油国にのみ見うけられる特徴か・・・
オセアニアに至っては、まったくのブラック・ボックスだと言っていい。オセアニア地域のFIFA加盟国・地域は、アメリカ領サモア、クック諸島、サモア、パプアニューギニア、フィジー、バヌアツ、ソロモン諸島、ニューカレドニア、タヒチ、トンガ、そして、今回優勝クラブを出したニュージーランドである。この顔ぶれでラグビーならば、世界レベルだと思われるが、サッカーとなるとどうなのか。
オセアニアのサッカーを貶めるつもりはさらさらないが、欧州、南米はもちろん、アジア、アフリカよりも相当力が落ちるのは明白だ。いずれにしても、大陸ごとのサッカー事情を視聴者に伝えることが、CWC中継局の使命だと筆者は思うのだが。
第三は、決勝前から、“ネイマール”と“メッシ”の「対決」を煽ったことだ。サントスのネイマール及びバルセロナのメッシは、ともに、才能あふれるサッカー選手だが、サッカーがチームプレーであることは、そのことよりも確かであり、重要なことではないか。
本大会を中継した日本テレビは読売系のテレビ局で、読売といえば、プロ野球の「巨人軍」のオーナー企業。「巨人軍」の黄金期のスターといえばON(王と長嶋)だ。読売は、相も変わらず、スター選手を2人並べて悦に入っているというわけ。
決勝は、読売(日本テレビ)の思惑どおり、サントスとバルセロナの対決になったものの、ネイマールに見せ場はなく、メッシは大活躍した。しかし、メッシの活躍よりも、バルセロナの超人的なパスサッカーに観衆は魅せられたはずだ。メッシは、その中で自分の才能を発揮できたのだ。だからといって、ネイマールがメッシよりも劣っているとはいえない。繰り返すが、サッカーはチームプレーなのだから、メッシがネイマールに勝ったのではなく、バルセロナがサントスに圧勝しただけの話だ。
では、バルセロナのメカニカルかつシステマティックなパスサッカーはどうやって完成系に近づいたのか。だれが、どのような理論で指導し、選手はどのような練習をしているのか・・・わたしたちは、バルセロナのサッカーを知りたい。「機械」と称されるまでのバルセロナのサッカーの正確さの秘密を知りたい。そのようなニーズに、中継テレビ局である日本テレビは、まったくこたえてくれない。有り余る時間を、お笑いタレントのくだらないギャグと素人解説者の当たり障りのない語りで、つぶすばかりだ。
サッカー中継は、サッカーの中継なのであって、無用なショーアップは不要だ。いわんや、CWCは欧州、南米、北中米、アジア、アフリカ、オセアニアの王者同士の大会ではないか。試合こそが最良のコンテンツではないのか。
先述した中継テレビ局への筆者の要望が叶わないのならば、それはそれでかまわない、無理は言わない。ただただ、選手の入場から試合の終わりまで、お笑いタレント及び愚かな解説者抜きで、試合を中継してくれれば、それでいい。
サッカーCWC(クラブワールドカップ)が欧州王者バルセロナ(スペイン)の優勝で終幕した。南米王者サントス(ブラジル)とのファイナルは、予想に反して、バルセロナが4-0とサントスに圧勝、力の差を見せつけた。
準決勝でバルセロナと対戦したアジア王者アルサッド(カタール)はガチガチに守っての0-4での完敗だった。バルセロナは、アジア、南米の2大陸の王者から、ともに4点を奪い、しかも、完封で勝った。この結果、5大会連続で欧州勢がCWCを制したという。欧州優位は当分、揺るぎそうもない。
日本からは開催国枠で柏が出場した。戦績は以下のとおり。初戦=オークランド・シティ(オセアニア王者/ニュージーランド)に2-0で勝ち、準々決勝=モンテレイ(北中米王者/メキシコ)に0-0の末PK戦で勝ち、準決勝=サントスに0-2負け、3位決定戦=アルサッド(アジア王者)に0-0の末、PK戦で敗退。
開催国(ホーム)の優位性を考慮するならば、柏の4位は順当なところ。柏が準々決勝で勝ったモンテレイや、モンテレイに負けたエスぺランサ(アフリカ王者/チュニジア)よりも実力があるとは必ずしも言えない。開催国枠というのは、微妙な立場だ。
筆者は、本大会のような形式で行われる「世界クラブ王者決定戦」に意味があると考えない。そもそも、サッカーの普及状況を考慮するならば、世界を、▽欧州、▽アジア、▽アフリカ、▽北中米、▽南米、▽オセアニア、という大陸別=6地域に分けることに無理がある。
是正策のA案として、アジアを西アジアと東アジアに2分割する考え方もある。西アジアは、南西アジア(インド・パキスタン・ネパール等)と中東を加えた地域、東アジアは、従来のアジアから前出の西アジアを除いた地域に、オセアニアを加えたもの。この場合は7地域となる。
あるいは、B案として、オセアニアをアジアに包含し、5地域とすることも現実的だ。後者の5地域がいいのではないか。
次に、開催方式を変更する。どう変えるのかと言えば、これまでのような、日本、カタール、日本・・・というセントラル開催形式を採用せず、各地域王者総当たりによる、ホーム&アウエー方式にする。
たとえば、バルセロナと柏が対戦する場合は、カンプノウ(バルセロナの本拠地スタジアム)と日立柏サッカー場(柏レイソルの本拠地スタジアム)の2試合となる。ただし、柏のホームスタジアムが収容人員:15,900人と小規模であるから、特例として、近隣の収容能力のあるスタジアムに会場を変更することもよいこととする。
もちろん、引き分けありの勝ち点制度によるが、順位決定の詳細は詰めなければならない。この方式の勝者をクラブ世界一と呼ぶに異論はないであろう。
2011年12月04日(日) |
柏、優勝おめでとうございます |
2011シーズンの結果は以下のとおり。
①柏レイソル、②名古屋グランパス、③ガンバ大阪、④ベガルタ仙台、⑤横浜F・マリノス、⑥鹿島アントラーズ、⑦サンフレッチェ広島、⑧ジュビロ磐田、⑨ヴィッセル神戸、⑩清水エスパルス、⑪川崎フロンターレ、⑫セレッソ大阪、⑬大宮アルディージャ、⑭アルビレックス新潟、⑮浦和レッズ、 (降格) ⑯ヴァンフォーレ甲府、⑰アビスパ福岡、⑱モンテディオ山形
柏がJ2からJ1への昇格年に優勝するという快挙を成し遂げた。柏の優勝は“アンビリーバブル”なのか“サプライズ”なのか――柏の優勝については後述する。
◎筆者の順位予想は当たらず
筆者のシーズン前の順位予想は以下のとおり。
①ガンバ大阪、②鹿島アントラーズ、③セレッソ大阪、④川崎フロンターレ、⑤名古屋グランパス、⑥浦和レッズ、⑦柏レイソル、⑧サンフレッチェ広島、⑨アルビレックス新潟、⑩ベガルタ仙台、⑪ジュビロ磐田、⑫大宮アルディージャ、⑬ヴィッセル神戸、⑭横浜F・マリノス、⑮モンテディオ山形、⑯清水エスパルス、⑰ヴァンフォーレ甲府、⑱アビスパ福岡
昇格した柏が弱いとは思わなかったが、まさか優勝するとは思っていなかった。筆者の予想が大きく外れた点としては、(一)柏の優勝を外したこと、(二)セレッソ大阪、川崎、浦和を上位にランクしてしまったこと、(三)仙台、横浜を下位にランクしてしまったこと(四)清水を降格としたこと、(五)名古屋を5位としたこと――の5点。被災地をホームとする仙台の4位は称賛に値する。
降格の福岡、甲府は想定内だったが、前出のとおり、清水が筆者の順位予想後に強力な補強を行い、10位まで順位を上げた。山形の降格は、戦力から見て当然。
◎柏の優勝を分析する
昇格シーズンに優勝するとは、他のJ1チームが情けないという見方も成り立つが、そもそも、2009年シーズンに柏が降格すること自体が“サプライズ”だった。09シーズンは、高橋真一郎が新監督に就任したものの、開幕から7戦未勝利とスタートに失敗。7月に高橋監督を解任し、ブラジルからネルシーニョを新監督に迎えたが、“時すでに遅し”だった。
(1)ネルシーニョの非凡なチームづくり
2010年シーズンをJ2で過ごした柏は、ネルシーニョ監督の下、課題だった守備の弱さを克服し、さらに才能のある若手育成に成功、さらに戦力増強のための補強も怠らなかった。
優勝を決めた最終節の柏は、 (先発)GK菅野孝憲、DF酒井宏樹、DF増嶋竜也、DF近藤直也、DF橋本和、MFレアンドロ・ドミンゲス、MF大谷秀和、MF茨田陽生、MFジョルジ・ワグネル、FW田中順也、FW工藤壮人、 (ベンチ)GK稲田康志、DF安英学、MF栗澤僚一、MF澤昌克、MF水野晃樹、FW林陵平、FW北嶋秀朗、という構成。
うち、近年に補強した選手は、 2008年、MF澤昌克(シエンシアーノ/ペルー)、GK菅野孝憲(横浜FC) 2010年、MF水野晃樹(セルティック/スコットランド、元千葉)、MFレアンドロ・ドミンゲス(E.C.ヴィトーリ/ブラジル)、FW林陵平(東京ヴェルディ) 2011年、DF増嶋竜也(京都)、MF安英学(大宮)、MFジョルジ・ワグネル(サンパウロ/ブラジル) ※(ベンチ外) 2011年、兵働昭弘(清水) 2009年、DFパクドンヒョク(ガンバ大阪)
最終節に登録された18選手の内訳は、近年の補強組が9選手、生え抜き及び若手育成組が8選手、生え抜きではないが、ベテラン1選手(北島)となっている。注目すべきは、日本代表及び代表経験者が見当たらないこと(シーズン途中、田中が日本代表に、酒井が五輪代表に招集されたが)。この現象は、2010年シーズンにJ2に降格し、2011シーズンに昇格復帰したFC東京と対照的である。FC東京は、日本代表クラスをそろえたチームである。
ネルシーニョが監督に就任したのが2009年シーズンの途中だったから、ネルシーニョ就任前に移籍してきた選手のうち、2011シーズンにプレーしたのは、06年に清水からきたFW北嶋秀朗、2008年のMF澤昌克、GK菅野孝憲(横浜FC)の合計3選手しかいない。
つまり、ネルシーニョは監督に就任してから、この3選手を残して、必要と思われる8選手を補強し、チーム生え抜きの若手7選手を育て上げ、理想とするチームづくりを行ったと言っていい。選手の育成及びリクルートについては、監督の手腕だけとは言えないけれど、いわゆる代表クラスの補強を一切行わずに、勝てるチームをつくりあげたネルシーニョ監督の功績は評価してしすぎることはない。
(2)強力なブラジル人選手
柏の優勝に貢献したブラジルからの助っ人の存在も挙げなければなるまい。得点力のあるMFレアンドロ・ドミンゲス、フリーキックの名手MFジョルジ ワグネルの2選手だ。
この2選手の特徴は、試合中、手を抜かないこと。試合終了まで走り続けるスタミナを保持し、守備を怠らない。攻守にわたりチームに貢献したように思える。また、ブラジルの強豪チームであるバイーア、クルゼイロ、コリンチャンス、インテルナシオナル、サンパウロを渡り歩き、さらに、ロコモティフ・モスクワ(ロシアリーグ)、レアル・ベティス(リーガエスパニョーラ)でもプレーした、ジョルジ ワグネルの経験が、柏の若手に良い影響を与えたものと筆者は思っている。
(3)柏の成功に学べ
柏の優勝は、こうしてみると、必然であった。優勝する、しないは運というものも無視できないが、少なくとも、昇格した年に3位以内に入る実力があったとみるべきだろう。
勝てるチームをつくるためには、ワールドクラスの外国人選手の補強も効果がないとは言えないが、▽よき指導者、▽チームのコンセプトに合致した適材の補強、▽若手育成――が重要なことを柏が証明したように思う。Jの各クラブ、とりわけ、監督選考がうまくいっていないビッグクラブ・浦和は、柏の成功を学習すべきだろう。
そればかりではない。Jリーグ関係者は、若手選手の海外移籍を嘆いているようだが、若手を育成してクラブの運営資金を稼ぎ出すくらいの意気込みがほしい。選手を育て、輸出して、クラブを大きくするくらいの企業家マインドがなければ、プロフェッショナルスポーツビジネスはやっていけない時代になった。スポーツ市場のグローバル化が弱まることはない。
2011年12月02日(金) |
プロスポーツ、最近の動向 |
2011年も残すところ1月を切った。そこで、最近、気になるスポーツの話題を一挙に掲載する。
(1)読売内部の暴露合戦に期待
読売巨人を解任された清武英利前球団代表兼ゼネラルマネジャー(GM=61)が25日、東京・千代田区の日本外国特派員協会で渡辺恒雄球団会長(85)によるコンプライアンス違反、解任を不当とするなどの記者会見を行った。
清武前GMの会見内容のなかで注目すべきは、読売巨人OBの江川卓氏をヘッドコーチで招へいしょうとした人事についてではないか。清武前MGは、渡辺会長の「巨人は弱いだけでなく、スターがいない。江川なら集客できる。彼は悪名高いが悪名は無名に勝る。彼をヘッドコーチにすれば、次は江川が監督だと江川もファンも期待するだろう。しかし、監督にはしないんだ」という発言を暴露したうえで、「たかが江川、たかがファンという底意に基づいた人事で、到底容認できない」と語気を強めて渡辺会長を批判したという。 “アンチ巨人”でなくとも、「なんだ、また江川か」とあきれる。「江川事件」に関しては、いまさら説明には及ぶまい。「江川」は他球団からのドラフト指名を拒否して大学進学、それでも読売巨人の指名を受けられずに浪人をした挙句、「空白の一日」とやらの屁理屈で読売巨人入団を画策した人物。このドラフト破りに批判が集中すると、指名球団の阪神にいったん入団後、トレードで読売巨人入りした。あからさまなドラフト破りの読売巨人入団が「江川」の意思なのか読売巨人球団のものなのかはいまなお闇の中だが、筆者は後者の意思だと思っている。当時、ドラフト制度をまったく無視した読売巨人及び「江川」に批判が集中したが、両者はどこ吹く風、プロ野球コミッショナーも動かなかった。
当時は、コンプライアンスという概念が社会に根付いていないこともあり、けっきょく、「江川」は読売巨人に入団したばかりか、引退後も野球評論家、タレントとして、いまなおテレビ等で活動を続けている。本来ならば、「江川」の読売巨人入団はコンプライアンス違反として、厳しく糾弾されなければいけない事案であったが、日本のスポーツ界・芸能界・メディア業界は、「江川」に対して厳しい批判を怠ってきた。そういう意味で、「江川」は、読売巨人がもっているコンプライアンス違反の体質を最も象徴する存在の一つであり、日本のメディア業界、スポーツ業界、並びに野球ファンのコンプライアンスに対する甘い認識を最も象徴するものの1つだともいえる。
渡辺会長が「江川」の悪名を集客に利用しようとした背景には、「江川」を簡単に許してしまう日本社会の曖昧さがある。いうまでもなく、読売グループは、発行部数世界一の新聞(読売新聞)と全国ネットのテレビ局(日本テレビ)を傘下に持つ巨大メディアコンツェルン。社会の木鐸といわれるマスメディアが、プロ野球界において、コンプライアンス違反の象徴ともいえる「江川」を、その悪名ゆえに企業内部に取り込もうというのだから、何をかいわんやである。清武前MGによって、読売巨人・渡辺会長の悪行が今後も暴露されることを期待する。
(2)サッカー五輪アジア地区予選は結果オーライ
◎すさんだバーレーンサッカー
U-22(22歳以下)によるサッカー男子のロンドン五輪アジア最終予選C組第2戦は22日、マナマで行われ、5大会連続9度目の出場を目指す日本はバーレーンを2-0で下し、2戦2勝とした。バーレーンは2連敗。日本は前半44分に大津(ボルシアMG)が右CKのこぼれ球に滑り込みながら右足で先制した。後半22分には山田直(浦和)のシュートをGKがはじいた球に東(大宮)が詰めて左足で加点した。東は2戦連続得点。
日本がアウエーで難敵と思われたバーレーンに勝利し、勝ち点3を積み上げた結果は評価されるべきだろう。だが、筆者は日本代表よりも、相手国バーレーンの戦いぶりが気になった。この1試合で断言できるようなことではないとは思う一方、バーレーンの現状から、中東サッカーの荒廃ぶりが想像できるような気がしてならなかった。
中東サッカーというと、固い守備から相手ボールを奪っての早いカウンターで瞬時にゴールに迫る鋭さが特徴だった。ピッチを駆け抜ける彼らの姿は、砂上を疾走する遊牧の民を彷彿とさせた。ところが、日本と対戦したこの日のバーレーンからは、そんな雄姿はうかがえない。守備・攻撃に規律(ディシプリン)がない。GKは素人に毛が生えた程度。劣勢を自覚すると汚いファウルを繰り返す。全盛時においても、中東勢はリードしているときの遅延行為や負けているときのラフプレーがなかったわけではないが、かつては、そうしたプレーに戦術的裏付けがあったものだ。ところが日本戦のバーレーン選手の汚いプレーは、彼らが感情をコントロールできない、未熟さゆえのそれにすぎない。しかも、マナマのスタジアムには、彼らを応援すべきサポーター、観客の姿が見えない。
「アラブの春」という緊迫した政治情勢が、バーレーン国民からサッカーを遠ざけているのだろうか。今現在のバーレーン人には、ナショナルチームを応援する余裕がないのだろうか。バーレーンサッカーの荒廃が中東サッカーを象徴しないことを望んでいる。
◎難敵シリアにホームで辛勝
ホームに戻った日本は27日の第3戦で、シリアと東京・国立競技場で顔を合わせた。結果は2-1で日本が辛勝した。確かにシリアは前評判どおりのチームだった。フィジカルが強く、スピードもスタミナもある。ファイティングスピリットも旺盛だし、無駄なラフプレーはしない。個々の選手の潜在能力は日本を上回っているかもしれない。
だが、シリアに欠けているのは、試合に勝つための組織力、構成力、バランス、戦術、規律であった。とりわけ目につくのは、攻撃を組み立てる訓練を受けていない点ではないか。シリアチームの攻撃は破壊力のある10番(オマル・アルスマ)にまかせるだけ。アルスマは、イランの英雄アリ・ダエイ(90年代中葉からから2000年代初頭までイラン代表で大活躍した、アジアナンバーワンのストライカー)を彷彿させる巨漢FW。両者とも年齢の割には風格があり、いかにも何かやりそうなタイプ。ダエイもそうだったように、サッカーの実力も外形どおり高い能力をもっている。だが、シリアはこの抜群の素材をチームとして生かす技術をもっていない。シリアの得点は、日本のDFがクリアボールの処理にもたついている間隙をついたもの。チームとして、意図して挙げた得点ではなかった。
問題は、そんなシリアにホームで苦戦した日本の側にある。日本の選手はゴール前でシュートを打つべきタイミングでパスをしたり、スルーをしたりして、圧力をかけてくるシリア選手をすかそうとする。山田をはじめとする攻撃陣が、少なくとも3度あった決定機を決めていれば、大差で楽勝できた。五輪代表初召集の大津が、バーレーン戦に続いて、しぶとくゴールを決め、ホーム勝ち点3を得られたからこのチームに対する批判は和らいでいるが、引分けで終わっていたら、非難ごうごうであったであろう。
大津はJリーグ柏からドイツブンデスリーガ・ボルシア・メンヒェングラートバッハに渡って、外国人である自分が得点にかかわることの重要性を学んだというような意味のコメントを試合後に残しているが、そのとおりだと思う。日本人だから得点力がないのではなく、日本のプロサッカーの風土が選手に甘いだけの話なのである。日本サッカーに得点力が不足しているのは、日本人の国民性でもなんでもない。いわんや、肉食系、草食系の「都市伝説」でもない。得点力不足を国民性に還元してしまえば、日本のサッカー界の進歩・発展は終わってしまう。
さて、日本がこのグループを勝ち抜くためには、いうまでもなく、来年の2月5日に行われるアウエーのシリア戦に負けないことが重要となる。若い日本代表が、強引さ、粘り強さを発揮して、泥臭く得点にからむようなタフなメンタリティーを身に着けられなければ、ホームのシリアに負ける可能性のほうが高い。日本が負ければ、得失点差等の僅差の勝負となってしまう。
(3)貧打戦か投手戦か
2011年日本プロ野球、日本シリーズは、【第1戦】●福岡ソフトバンク1-2中日○、【第2戦】●福岡ソフトバンク1-2 中日○、【第3戦】○福岡ソフトバンク4-2中日●、【第5戦】○福岡ソフトバンク2-1中日●、【第5戦】○福岡ソフトバンク5-0中日●、【第6戦】● 福岡ソフトバンク1-2 中日○、【第7戦】○福岡ソフトバンク3-0中日●――という結果に終わった。
7戦ともサッカー並みのロースコアである。この日本シリーズを、手に汗握る「投手戦」と表現するのか、退屈な「貧打戦」とするのかは見解の相違だが、筆者は当然、後者だとみた。負けた中日は、7試合とも2点以上とれていない。味方投手陣が相手チームを1点以内に抑えなければ、勝てないというさびしさである。もっとも、勝ったソフトバンクも似たようなもの。第5戦で5得点を上げたが、打線が爆発したという印象はない。
2011年日本シリーズを玄人好みと評するスポーツメディアもあるし、そういう見方を否定はしない。ただ、2011年シーズンの日本プロ野球の顕著な傾向は、もろもろのデータを引用するまでもなく、投高打低であった。打撃陣の不振の主因については、統一球(低反発球)の導入によるものだという説明が一般的だが、筆者は、主審のストライクゾーンにあったと考えている。筆者の場合、TV観戦が主なので、断言する根拠は一切なく、あくまでも直感にすぎないのだが、これまでのシーズンに比べて、低めに甘いような気がした。
しかし、主審の判定は意図的なものではなく、ルールブックに規定されたとおりのストライクゾーンに従ったとみるべきなのだ。つまり、昨年までのストライクゾーンが低めに辛かったと。
MLBに進出した日本の野球選手のうち、投手のほうが野手より成功する割合が高いのは、緻密なコントロールにあるというのが一般的。日本の野球のレベルそのものが、投高打低なのではないか。
(4)マー君、年俸3億円を突破
2011年シーズン、日本プロ野球でもっとも注目された選手の一人が斎藤佑樹投手(日ハム)だったであろう。斉藤は6勝6敗の成績で終わったものの、年俸は2倍の3000万円にアップし、契約更改を終えたという。集客・話題性が評価されたことは本人が一番よくわかっているのではないか。
一方、2007年夏の甲子園大会で斉藤と同期の田中将大投手(楽天)は、2008年シーズンからプロ野球で投げ始め、4年後の今シーズンは沢村賞に輝く大活躍。年俸3億円で契約更改したといわれる。田中は高校卒業してプロ野球界に身を投じ、プロの世界で4年間精進を続けての結果である。高卒、大卒の違いは年俸面で単純比較すれば、圧倒的に高卒のほうが有利である。
他人の学歴や年俸をあれこれいうのは下劣かもしれないが、2011年ドラフトで日ハム指名を拒否した東海大菅野投手は、この現実をどう見るであろうか。
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