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『クリスマスローズの殺人』 柴田よしき 原書房 - 2004年02月28日(土) 《bk1へ》 《Amazonへ》 原書房が力を入れている“ミステリー・リーグ”の作品である。 なるほど、帯には「軽ハードボイルド+コージー+本格推理」と書いてある。 決して過大広告ではない。 でも私の率直な感想としては“軽妙すぎる”のである。 吸血鬼物ですが、全然怖くありません。 主人公は人間世界で住むようになったメグ。彼女は生活難の為に探偵役を引き受ける。 浮気調査の役を回して貰うのであるが・・・ 前作となる『Vヴィレッジの殺人』から読むべきだったのかもしれない。 そうしたらメグの出身地である「Vヴィレッジ」に関しての知識やメグや周りの人が人間社会に住むこととなったいきさつ等を理解した方ががもっとついて読みやすかったであろう。 人間社会に混じって生きている事に違和感を感じたのは残念だ。 トリック的にはなかなか面白く読めるのだが、無理があるといえばそうとも取れるところが微妙な評価となりそうです。 本作は読者が“変幻自在”な柴田さんに読者が何を求めてるかによって感じ方が違ってくる顕著な作品であると思う。 きっと私が柴田さんの作品に求めてるものとは微妙にずれていたのであろう。 もっと“女性たちの愛憎というか嫉妬振り”を前面に出してもらえたら楽しめたのですが、それを期待するのは作品のコンセプトからして酷なのでしょうか(笑) 楽しく読めるミステリーなのかもしれないが、柴田さんの力量からしたら物足りないような気もした。 私は贅沢な読者なのであろうか? メグと太郎のキャラに惚れこんでる方は次作(続編)も待ち望まれてるでしょうが・・・ 評価7点。 2004年23冊目 (新作17冊目) ... 『号泣する準備はできていた』 江國香織 新潮社 - 2004年02月26日(木) 《bk1へ》 《Amazonへ》 直木賞受賞作ということで手にとってみたが、読後感は“つまらない映画を観たあとのよう”な感じである。 やはり男性読者には理解不能の世界なんだろうか? 全然ワクワクするものも感じられないし、心が癒されることもなかった。 よく完読出来たものである。 “たかが直木賞、されど直木賞!”と叫びたい。 12編からなる短編集だが、どの登場人物も総じて“やる気がなく現実逃避型”である。 過去の恋愛がいい想い出となってるわけでもなく、ただ単に過去に縋り付いてるだけのような気がする。 少し我慢をすれば切り抜けれるのに・・・ “恋愛がなかったら生きて行けない”困った人たちだ。 ただ、文章は透明感があって独自の世界を完成してる点は認めざるを得ない。 表題作における描写(本文218ページ)なんかは本当に見事の一言に尽きる。 でも作品全体としたらどうなんだろう? よっぽど、“恋愛経験が豊富な方”でなければ“号泣する”ことはないような気がする。 もし、多くの女性がこの作品に対して高く評価があるとしたらちょっと“カルチャーショック”に陥りそうな気がする。 きっと異性から見て“こんな生き方をしてほしくない”と思えるようなことが同性から見たら“理想の生き方”なのかもしれない。 そう考えると貴重な経験をさせてもらったのかもしれない。 “小説は事実より奇なり!”かな(笑) 評価4点。 2004年22冊目 (新作16冊目) ... 《パイレーツ・オブ・カリビアン》 (ビデオ) - 2004年02月25日(水) 評価8点。(2003・米・143分) 娯楽アクション映画としてはとっても楽しめる作品に仕上がっている。 だが、ホラー映画を期待して見られた方は少し拍子抜けかもしれない。 『ハムナプトラ』なんかとテイスト的には似てるかな。でも本作の方が幅広い年齢層の方が楽しめると思う。 個人的にはジョニー・デップはあんまり好きなことがないのだけど、海賊役にはピッタシで好演しているのは否定できない。 役柄的にもむずかしいと思うが見事こなしている。 でも本作でのデップは脇役に過ぎないような気がするというかそんな見方をしてしまった(ファンの方ゴメンナサイ)。 他の人とは反対の視点かもしれませんね、私の場合(苦笑) それも映画の楽しみ方のひとつだと思ってますが・・・ なんといってもオーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイの美男美女コンビが素晴らしいのである。 とくに劇場にて恋人同志で見に行った方はその思いが強いのであろう。 この2人は本当に華がある。 映画って夢を売る商売だから、本作のような“美男美女”が出演し、“演技派俳優”が渋い演技を見せ、“老若男女が楽しめる”内容の作品は面白くないはずがありません。 全143分、全然長く感じさせない所に“娯楽映画としての真髄を見た”ような気がする。 次はオーランドとキーラの恋愛映画を観たいなあ・・・ もはやギャラがかなりはね上がりそうだけど(爆) ... 『幕末新選組』(新装版) 池波正太郎 文春文庫 - 2004年02月24日(火) 《bk1へ》 《Amazonへ》 本作の主人公である永倉新八は、“剣を持ったら近藤勇以上”と言われた新選組二番隊隊長であるが、いわゆるビッグ3(近藤勇・土方歳三・沖田総司)に比べたらずっと存在感が薄い。 大きな理由として二つあげられる。 まず、生き残り隊士であるためにその人生に“悲壮感”がただよってない為にインパクトが弱い点。 次に、近藤勇や土方歳三のように“野心”がない点、言い換えれば“人情味があふれすぎてる”点。 特に後者は永倉新八の長所でもあり短所でもある気がする。 確かに新選組の隊士としたら“優しすぎる”かなと言う点は否めない。 読後感も物足りないのかもしれない。爽やかすぎるのである。 『燃えよ剣』のような強烈な男の生き様を描いたものではないのは事実だから・・・ 本書においては池波さんの視点は後半近藤や土方に冷たいような気がする。 今度は同じ著者の『近藤勇白書』を是非読んで比較してみたいですね。 彼らの変わり果ててしまった人間性を非難してるように感じられるのは私だけだろうか? 池波さんの作風から言えばやはり“歴史小説”というより“時代小説”の方が合ってるのかも知れませんね。 少し軽妙すぎるかな? 新選組ファンの方は少し受け入れにくいかもしれません。 でも、永倉や原田(本書ではかなり親しくしております)がいたから近藤や土方が浮かび上がったという点は忘れてはならない。 この作品を読んだ読者は彼の長所を吸収できたはずである。 そう、ひたむきに生きることの素晴らしさを学び取ったはずだ。 特に印象に残ったエピソードとしては芹沢鴨に慕われ近藤が嫉妬するシーン、全編を貫いている市川宇八郎や藤堂平助との友情、晩年に実子お磯との再会シーンなど・・・ 永倉新八が長寿をたもったのは彼の“人徳”に他ならないことは読者の胸に焼き付けられたはずである。 評価7点。 2004年21冊目 (歴史・時代小説1冊目) ... 『卒業』 重松清 新潮社 - 2004年02月22日(日)
《新潮社 作家自作を語る》 重松さんの“集大成的な作品集”である。 現時点での最高傑作であると信じたい。 4編からなる“死”をモチーフとした中編集である。 主人公はみな40才前後。 それだけ誰もが人生の折り返し地点を過ぎ背負ってるものも大きいことの証拠かな。 前半の2編ではこれから受け入れなければならない親の死を・・・ 後半の2編では遠い過去の親友と母親の死を・・・ 従来の重松さんの作品は“身につまされる”話であったが、本作でのテーマは“人生において避けられない”テーマである。 そこに本作のスケールの大きさと重松さんの成長が窺い知れる。 読み終えた人は本当のテーマは“前向きな人生”であることに気づくはずだ。 最近涙腺が弱くなった。 重松さんの紡ぎだす4編の物語に心を震撼させられた方は涙なしには本を閉じれないはずだ。 涙を流すことによって“希望”と“勇気”が味方についたような気がする。 明日からの人生を“少しでも恥ずかしくない人生を送りたい”と肝に銘じたい。 “テーマは重いけど重松作品を読むと読者の肩の荷が軽くなる” 重松作品の最大の魅力である。 ★まゆみのマーチ 主人公は40才の幸司。妻と中学生の息子との3人家族で東京在住。 母が死の直前のために実家に帰る。幸司の妹は“まゆみ”という名で、神戸に住んでいる。 まゆみは小学生の頃、ある出来事で登校拒否していた。現在の幸司の息子の亮介も似た境遇なのでありし日の母親の姿勢と、自分の亮介に対する接し方とをどうしても比べてしまうのであった・・・ なんといっても死の直前の母親の病室内で、まゆみの小学生の時のエピソードを回想するシーンが胸を打つ。親になってこそわかる子に対する深いまなざしを上手く描写しています。是非「まゆみのマーチ」読まれた方のお子さんにも歌ってあげて欲しいです。(その時は“○○○のマーチ”となりますが(^。^)) 主人公の子供の時も大人になった今も、少し後悔をまじえて語ってるのですんなりと受け入れられました。現実に少しでも不安な問題のある方が読まれたらきっと多少なりとも心を癒してくれる作品だと思います。 主人公の年代層(40歳)にとって避けられない子供のしつけや教育問題、あるいは親の介護。とっても考えさせられます。特に子供の数が少なくなってきている昨今、いつも身近に病床の親のそばに子供が居てあげる事が出来ない状況が多いので、とってもリアルな話として読み取れるでしょう。 親の子に対する愛情を強く認識した主人公、人間的にも成長のあとが覗えます。これから自分の子供に対して自分が受けた以上に愛情を注ぐことが出来るでしょう。最後が前向きなんでとっても微笑ましく感じましたよ。 ★あおげば尊し 主人公は40才。小学校の先生をしている。ガンに冒され死を直前に控えた父は元高校教師。厳しさをモットーとしすぎた為に、教え子は誰もお見舞いに来ない。その父を自宅で引き取ることとなるのだが・・・ またまた心に響く作品である。なんといっても主人公の教え子の康弘君がいい。少し複雑な家庭環境であることが後半わかってくるが、この少年がある意味で物事をまっすぐに捉えてるところが主人公と共通している点が見逃せない。 重松さんの主人公はおおむね少し気が弱くてお人よしだ。一方で頑固で情が深い面もある。エンディングでいつも一歩成長した姿を見せてくれる。そこがある時は微笑ましくある時は涙を誘う。 小説を通してリアルに読者に問題を提起してくれる。今回は“親の死”によって“親を看取る”という誰もが経験しなければいけないシチュエーションを用意してくれた。 主人公は父の病状を自分の生徒たちに見せてあげます。確かに教育者としては間違ってるかもしれないという気持ちを持ちながらも、父の人生自体を正当化します。最後の親孝行といったらいいのでしょうねきっと・・・ でも残ったのは康弘君だけでした。 父の最後の教え子である康弘君、願わくばずっと『あおげば尊し』を歌ってほしいものだ。 ★卒業 主人公の渡辺は40才で課長代理。ある日突然、亜弥という中学生が会社に訪れる。彼女の亡き父親はかつての親友で彼女が生まれる前に自殺をした伊藤であった・・・ 古くからの重松ファンは感慨深い作品かもしれない。 重松さんも本作の中で最も思い入れの強い作品であろう。 文庫本の『ナイフ』のあとがきに書いているS君のことがオーバーラップされた方も多いことだと思う。 悲しみを背負いつつ生きて行く亜弥ちゃんの気持ちと、過去の親友を知りつつも自分の身の周りの変化(リストラ)に戸惑う主人公の葛藤。 あるいは現在の父親である野口さんの心の葛藤など・・・ 途中でイジメにあってる亜弥ちゃんと春口とカラオケを楽しんでいる若い女の子、対象的なようなんですが紙一重かもしれません、実際は・・・ きっと亜弥ちゃんも幸せだし、亡き父親の伊藤も親友に恵まれて天国で喜んでいる事でしょう。 読ませどころが多いというか本当に問題提議の出来ている傑作短編だと言えるでしょう。 私の拙い文章では伝えきれないのが非常に残念である。 ★追伸 個人的には本作において最も感動的な話である。 主人公の敬一は現在40才で作家を営む。6才の時に母親がガンで亡くなった。父親は数年後に再婚し新しい母親が出来たのであるが、敬一の心の中では母親はひとりしかいない。いつも母親が病院で書いた日記を心の糧として生きていたのである・・・ とにかく敬一とハルさんの少年時代からの“確執”がいかに“和解”し“心を開きあう”かを見事に紡いでいる。 本作は血のつながりの重要性を謳っているのではない。むしろ、私たちが忘れている“本当の心の触れあい”の大事さを教えてくれている。 敬一の妻の和美の“出来た妻ぶり”も印象的だった。 評価10点。超オススメ作品! 2004年20冊目 (新作15冊目) ... 『ポリスマン』 永瀬隼介 幻冬舎 - 2004年02月20日(金) 《bk1へ》 《Amazonへ》 『永遠の咎』に続いて永瀬さんの作品は2作目であるが、本作もかなり熱い作品となっている。 今のプロレス界の現状を浮き彫りにした作品と言えそうですが、果たしてロシアでの出来事を交える必要があったのだろうか? 個人的にはあんまりロシアに興味がないので、もう少し違った展開を望みたかった。 深見の強さを際立たせるのには過去のいきさつを絡めなければ仕方がなかったのかもしれない。 たしかにノンフィクションライター出身の肩書きどおり、永瀬さんの取材力は舌を巻く、読み応えも十分である。 本作の主人公の深見のように、スターダムに昇らなくても実力は一級品なんでしょうね(笑) ラストは壮絶ですが、やはり格闘技シーン(暴力シーンと敢えて区別します)が1番印象的だったのは少し皮肉な結果かもしれない。 私は“格闘技シーン”はいいのですが“暴力シーン”はあんまり好きではありません。 本作では両方存分に味わえますが(笑) 正直、暴力シーンはちょっと辛すぎるかな。目を背けたくなるものね。 永瀬さんは血が繋がってないがゆえに葛藤している周作と深見の“強い親子愛”を描きたかったのでやむを得なかったのでしょうが・・・ 多少は伝わったのですがちょっと物足りない部分もあったような気もします。 二兎を追いすぎたのかもしれませんね。 “プロレス小説”としたら面白いが“スパイ小説”としたら中途半端な気がする。 “プロレスファン”は必読です! ただ、練習生の浮谷の存在は物語の視線を素人っぽくさせてくれて本当に良かったような気がしたが、少し苦言を呈すればやはりセルゲイが日本に来てからの行動が“飛躍しすぎてる”ような気がした。 浮谷を主人公としたもう少しサッパリした作品を読みたい方も多いんじゃないかなと思う。 かなりの好キャラですね。 評価7点。 2004年19冊目 (新作14冊目) ... 『骨音 池袋ウエストゲートパークⅢ』 石田衣良 文藝春秋 - 2004年02月16日(月) 《bk1へ》 《Amazonへ》 いよいよシリーズ第3弾に突入した。 文体にもますます慣れてきて読むのが楽しみになってきたところでもあるのだが、内容的には前2作に比べて少しトーンダウンしたような気がする。 マコトの成長とともに読者もマンネリ化してきたのかもしれない。 ただ、いつもうならされるのは発想の豊かさ。偽札にドラッグなどなど・・・ これは見事の一言に尽きる。きっと石田さんの天性のものなのでしょうね。 全4篇からなるがいずれにもタカシが登場するのがファンにとっては嬉しいところかな。 サルファンの私としたら登場が少なくって物足りなく感じたのは残念なところであるが・・・ 個人的には2編目の「西一番街テイクアウト」が一番良かった。 親子愛があふれたかなり泣かせる話です。サルの登場によって一気に盛り上がる点は素晴らしい。 そうそう、マコトの母親も大活躍する点を忘れてはいけませんね(笑) 一番長い書き下ろしの「西口ミッドサマー狂乱」がマコトの恋愛熱が一気にヒートアップされて彼の熱血ファンには読みどころ満載であるが、他の話と比べて話が込み入っていてこのシリーズ独特の爽快さに欠けているような気がした。 トウコに惚れるマコトに惚れた女性ファンも多いのかもしれません。 確かにシリーズ3冊読んでみて、かなり池袋が身近に感じられてきたのは石田さんの確かな筆力なのであるが、このシリーズの大きな魅力はズバリ主人公マコトの“潔さ”に対する大きな共感にある。 読者が日常生活において忘れかけている部分を“目薬を点したかの如く”爽やかにスカッと味わせてくれる点は読んだものでないとわからないであろう。 老若男女に関わらず、“明日からはマコトのように胸を張って生きて行きたいものだ”と少しでも若者の心の底にある叫びを感じ取れた読者は、貴重な体験を味わえたと自負してよいであろう。 きっと他の本では味わえないはずだから・・・ 評価7点。 2004年18冊目 (旧作・再読作品5冊目) ... 『百年の恋』 篠田節子 朝日文庫 - 2004年02月14日(土) 《bk1へ》 《Amazonへ》 本作はNHKで昨年末にドラマ化された作品であるが、とっても現実的な作品である。 内容的には世間一般的に言えば、美人で高収入のキャリアウーマンの梨香子といわゆる“三低”(身長・学歴・収入)で売れないライターの真一の逆玉カップルの運命の出会いから始まる。 大きく捉えると“一期一会”的な感じで始まるのであるが・・・ ロマンティックな話と思いきや・・・とんでもないのである(笑) コメディタッチで面白可笑しく読ませてくれるのだが、物語の本質はもっと奥が深くって辛辣である。 本作ほど性別や環境(専業主婦or共働きor未婚)によって受け止め方が違う作品もないのではないだろうか? 専業主婦が読まれたら、真一に共感出来る方が多いのかもしれない。 でも真一の年収(200万円)では通常嫁を家に置いて生活は出来ないはずである。 そこに篠田さんが世の中の厳しさを漂わせているのであろうが、でも男性読者が読んだら梨香子って“あんまりだよ!”って言いたいなあ! タイトルの付け方がとにかく秀逸である。 “百年の恋”も一気に冷めちゃうという意味合いの結婚生活である。 でも読み終えて少し2人がお互いの足りない部分を補完出来つつある点に気づくのである。 やはり宝物(娘)“未来”ちゃんの存在であろう。 胸をなでおろされた方も多いんじゃないかな。 序盤は梨香子のわがままぶりに対して嫌悪感を持って読まれた方が圧倒的に多いと思う(別れちゃえ~ってね)が、本を閉じる時には2人の気持ちが良くわかったような気がする。 女性の目に見えない大変な部分を思い知らせてくれました、ハイ! 辛辣であっても嫌味がないのが篠田さんの“凄さ”だと思う。 家事と育児は女性の当たり前の仕事だという先入観を持っている未婚の方、是非お読みいただきたい。 そして“心して結婚してください”(笑) 逆に夫婦間で本作のような作品を読まれることによって、お互いの役割分担に関して考え直せる夫婦って理想だと思う。 重松清さんの深読みされてる解説には唸らされた。 評価8点。 2004年17冊目 (旧作・再読作品4冊目) ... 『オアシス』 生田紗代 河出書房新社 - 2004年02月13日(金) 《bk1へ》 《Amazonへ》 『黒冷水』と文藝賞を同時受賞した作品である。 “文藝賞”という響きには本作の方がむしろピッタシかもしれない。 生田さんも若い世代の作家であるが、作風的には、芥川賞を受賞した金原ひとみさんと比べると正反対の“従来の純文学路線を貫いている”感が強いかな。 主人公は21才のフリーター芽衣子。OLの姉(パラサイト状態)と家事放棄した母親との3人家族。ちなみに父親は単身赴任中。 内容的には“自転車の盗難問題”や“お母さんの行方”など、少しハッキリしない部分もあるような気もし、理詰めで読むタイプの読者には少し物足りない読後感かもしれない。 でも文章はかなり読みやすく好感が持てる。 多感な年代の“等身大の偽りざる気持ちを綴った作品”と割り切って読めば心地よく響くかもしれない。 自分の母親と比較して読めたら感じ取れる物も大きいかもね。 「母のことは決して嫌いではない。この世で一番愛しているけど、この世で一番憎い。母親とはそういうものなんじゃないだろうか。」 個人的には、親子愛より兄弟愛(姉妹愛と言った方が適切かな)の方に焦点を置いてる所が特徴かなと思う。 ライトな感覚で読める純文学という点では評価したく思う。 評価6点。 2004年16冊目 (新作13冊目) ... 『アヒルと鴨のコインロッカー』 伊坂幸太郎 東京創元社 - 2004年02月11日(水) 《bk1へ》 《Amazonへ》 ボブ・ディランの曲を聴きながらこの作品を楽しめた方を心の底から羨ましく思う・・・ 前作『重力ピエロ』にて直木賞候補にノミネートされ一躍文壇のスターダムにのし上って来た感の強い伊坂さんの最新作であるが、本作ではさらに一層の成長のあとが見受けれる点は嬉しい限りである。 前作は少し展開の読めた部分と、中だるみ感やくどい描写もあったような気もするが、本作においてはウィットに富んだ洒落た会話と構成、ミステリーを読むに当たっての醍醐味を十分に味わえる内容となっている点は高く評価したい。 ズバリ本作のテーマは“熱い友情”。ミステリー部分としてとっても読者を惹きつけた要素として本作の構成の巧さがある。 “現在”と“二年前”を交互にまじえながら展開して行くのであるが読者はきっと物語の序盤から釘付け状態となるであろう。“なぜ本屋を襲撃して広辞苑を盗まなければならなくなったのだろうか!”と言う純粋な疑問を抱いて・・・ どのように2つの話が収束するのだろうかと思いつつ読み進めて行くのであるが、違和感なく伊坂さんに“心地よく騙された”というのが率直な感想である。 読み終えたあと反省したのであるが(苦笑)、会話のひと言ひと言が大きな伏線となっているところである。 やや傍観者的(?)な“現在”の主人公の椎名が少しだけど物語の終盤には成長した姿が見出せるところは微笑ましく感じられた。 あと作品全体の内容として“動物虐待問題”や“人種差別問題”についても触れており、読者に強い教訓を示唆してくれたことを感謝したい。 “クールな語り口”でもたらされる“圧巻のラスト”を堪能できた方はまさに“伊坂ワールド”にドップリはまったことの証である。 評価9点。オススメ作品 2004年15冊目 (新作12冊目) ... 『定年ゴジラ』(再読) 重松清 講談社文庫 - 2004年02月08日(日) 《bk1へ》 《Amazonへ》 本作は初期の重松さんの代表作とも言える連作短篇集です。 個人主義に走る風潮が強い昨今、ニュータウンと言う戦後の高度経済成長を象徴する住宅事情に身を任せ、あくせく働き通し定年を迎えた主人公山崎さんを中心とした定年後の戸惑いとそれに打ち勝っていく姿をハートウォーミングな話で綴っている。 重松さんが本作を執筆されたのが33~34歳頃だと思われる。 まさに登場人物(60歳以上の男性中心)すべて、いわば重松さんの父親と同世代である。 読者はまるで自分の“数十年後”(30歳の読者であれば30年後)にエスコートされたみたいな気分にさせられる。 内容的には1話1話のエピソードどれも甲乙つけ難く素晴らしい。 脇を固める登場人物も個性的である。(特にバイリンガルみたいな転勤族の野村さんが印象的ですね) 重松さんの作品って読者に対して容赦しない点が特徴であるが、本作においても現実的な話から目を背けていない。 例えば、主人公の山崎さんの次女の不倫問題や二世帯住宅・嫁姑問題も大きな読ませどころとなっている。 もちろん本作は定年後の世代をターゲットとして書かれたのではない。本作の一番のセールスポイントは大半の読者が遠い彼方の時代だと思っている“定年後の生活”に現実感を持たせることによって、さらに読者の明日への活力を見出して行く点であろう。 “さあ、明日からも頑張ろう!”という感じかな(笑) 大半の読者は“親のありがたみ”がわかり日常生活における“妻(夫)・子どもに対する愛情を養える”ものだろう。 主人公の山崎さんって非常に勤勉・実直・真面目な人物だ。 読者にとっていいお手本かもしれない。 仕事に終われ家庭を顧みる事も出来ないぐらいに働いた登場人物であるからこそリアリティーに富んだ作品となっていることは、読者の胸に焼き付けられたはずだ。 “老後”って相撲で言うと千秋楽みたいなものかもしれない。 せめて、千秋楽の日にで7勝7敗で迎えられるような人生を歩んでもらえたらと思って書かれたような気がする。 重松さんは“平凡に生きる事の難しさ・尊さ”を読者に教えてくれる。 “人生における本当の幸せって何だろう”と模索してる時に、本書はきっとバイブル的存在になるであろう。 山崎さんの中に“重松さんの理想の父親像”を見出せたあなたは、“真の重松ファン”だと言えるんじゃないかなあと強く感じた。 評価9点。オススメ 2004年14冊目 (旧作・再読作品3冊目) ... 『蛇にピアス』 金原ひとみ 集英社 - 2004年02月07日(土) 《bk1へ》 《Amazonへ》 話題の最年少芥川賞受賞作である。かなり売れているらしい。 だが、どうしても芥川賞として読むと物足りない。 純文学としてこの作品を見た場合、やはり少し描写が赤裸々すぎるのかもしれない。 でも新人作家の作品としたら秀逸な作品とも言えそうだな。 彼女の傑出してる点はズバリ“目新しさ”である。 言葉自体本当に“新感覚”である。スプリットタンや00G・・・ まさについていけませんが(苦笑)。 だが、内容は読者によっては過激すぎるかも知れないが、文章は無駄がなく意外と読みやすいのである。 それは主人公ルイの性別・年齢を問わず共感出来るキャラに起因しそうだ。 今の時代にふさわしい若者の究極の“絶望感”と異性に対する“愛情”はなんとなく理解できた。 本作は“三角関係”をも題材としており、特に若い女性が読まれたら後半の展開に“胸が締めつけられる”かもしれません。 きっと、ルイが2人の若者から深く愛されたことは、読者の脳裡に焼き付いたはずである。 作者と同年代の若者が読まれたらまさに“同世代の代弁者”としてのカリスマ的要素を持った人物として受け入れられるであろう。 芥川賞の選考委員に“先見の明”があったのだろうか? その答えは金原さんの今後に掛かっている。 でも本作を読んで少しでもルイの“可愛らしさ”を見抜け共感出来た読者は、“文芸界自体の変貌”に気づいた貴重な目撃者である。 本作は普段あんまり小説を読まない方でも手に取られる方が多いと思う。 少しでも“若者の活字離れの歯止めになれば!”と思ってやみません。 評価7点。 2004年13冊目 (新作11冊目) ... 『烈火の月』 野沢尚 小学館 - 2004年02月05日(木) 《bk1へ》 《Amazonへ》 野沢さんの作品は今まであんまり読んでなかったが、本作は彼の一般的なイメージが一新される作品である。 なんと“本格ハードボイルド作品”なのである。 原案はビートたけし主演で話題となった、「その男、凶暴につき」。 本作の一章目のタイトルにもつけられているのであるが、主人公我妻が本当に組織からはみ出てる姿がとっても印象的だ。 でも彼には“正義感”と娘に対する熱き“愛情”があるのである。誰にも負けないほどの・・・ ストーリー展開はやや平凡で、途中で中だるみ感もあるのだが、やはり“マトリの女”こと烏丸瑛子の存在感の大きさを忘れてはならないであろう。 最後にとった彼女の行動(読んでのお楽しみ)は男性読者にしたら理解し辛い面もあるのだが、“強く生きる女の象徴”として描かれている点は見逃せない。 彼女こそまさに我妻刑事と“名コンビ”なのである。 あとがきに深作欣二監督への熱き想いを語っている。 きっと“マトリの女”の描写が深作監督のハードな映像世界に一歩でも近づいたという野沢さんの自負の表れでもあるのだろう。 汚職の多い昨今、我妻刑事のような刑事の存在こそが“一服の清涼剤”となっていると信じて本を閉じた。 まさしく“たかが小説、されど小説”である。 評価8点。 2004年12冊目 (新作10冊目) ... 2004年親睦オフ会実施のご案内① - 2004年02月01日(日) 第2回名古屋親睦オフ会&第1回大阪親睦オフ会のご案内 ★主催 “トラキチのブックレビュー”&“SHORT CAKE”(名古屋) 大阪は未定(共催者募集) ★幹事 トラキチ(“トラキチのブックレビュー”管理人) 副幹事 名古屋 ショート(“SHORT CAKE”管理人) 大阪は未定 ★日時 名古屋は4月、大阪は3月か5月(その他甲子園オフ会も予定) ★時間 午後1時ごろ名古屋駅(大阪は梅田か難波駅付近)にて集合 (ご参加者にメールでご案内します。) 食事会や本の交換会を終えてカラオケ大会実施。 解散は午後5時~5時半ごろの予定。 (小さなお子さんの同伴歓迎します。) ◎5名以上集まれば実施したくおもいますので是非ご参加いただけたら嬉しく思います。 ◎ご参加ご希望の方は専用掲示板に書き込みいただけたら嬉しく思います。 詳しい日時等はまた追ってお知らせします。 ...
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