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2003年06月10日(火) 花に水を

フロントガラスを雨は容赦なく打ち付けた。
雨粒の一つ一つがワックスによってはじかれ、
ワイパーによってその存在を消滅させられた。

不協和音のような耳に残る音と、一定のリズムで視界を広がらせてくれる。
エンジン音は穏やかな大地と共鳴し、
生きていると証明するかのように車体を上下に揺らしている。
5秒後には通り過ぎる道をライトはぼんやりと照らしている。
5秒後には過去になる未来をただひたすら照らし続けた。

傘をさしながら自転車に乗る男、
傘をさしながら買い物袋を抱えている女。
一瞬、すれ違っては永遠と出会うことのない人達を横目にして、前をむき直す。
徐々に人気のない道へと進んでいく。

−いつの頃か、車に乗ってどこかに行くときは必ず助手席の後ろを陣取った。
運転する父親の姿に僕は憧れていた。ハンドルを操作する姿をじっくりと見つめ、いつしかこうなりたいと幼心に思ったモノだった。格好良い父親のヒトコマだった。−

トンネルに入ると一時だけど雨は凌げる。ワイパーは動いたままだった。
シガレットライターを押した。
無数のオレンジ色した光が車内に向け差し込んできた。思わず目を逸らしてしまいそうな光の洪水、エンジンの回転音、タイヤが地球と接している感触。
口に煙草を加えた。
トンネルを出ると同時にシガレットライターは音を立て僕に知らせた。
煙草に火を点けた。窓は開けることは出来なかった。

トンネルを出ても雨は止んでくれてはなかった。
今日は花に水をやらなくても十分だと思った。
アクセルを踏み直した。
その時、灰がズボンの上に落ちてしまったが、気にしなかった。
花は喜んでいるように見えた。


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