フロントガラスを雨は容赦なく打ち付けた。 雨粒の一つ一つがワックスによってはじかれ、 ワイパーによってその存在を消滅させられた。
不協和音のような耳に残る音と、一定のリズムで視界を広がらせてくれる。 エンジン音は穏やかな大地と共鳴し、 生きていると証明するかのように車体を上下に揺らしている。 5秒後には通り過ぎる道をライトはぼんやりと照らしている。 5秒後には過去になる未来をただひたすら照らし続けた。
傘をさしながら自転車に乗る男、 傘をさしながら買い物袋を抱えている女。 一瞬、すれ違っては永遠と出会うことのない人達を横目にして、前をむき直す。 徐々に人気のない道へと進んでいく。
−いつの頃か、車に乗ってどこかに行くときは必ず助手席の後ろを陣取った。 運転する父親の姿に僕は憧れていた。ハンドルを操作する姿をじっくりと見つめ、いつしかこうなりたいと幼心に思ったモノだった。格好良い父親のヒトコマだった。−
トンネルに入ると一時だけど雨は凌げる。ワイパーは動いたままだった。 シガレットライターを押した。 無数のオレンジ色した光が車内に向け差し込んできた。思わず目を逸らしてしまいそうな光の洪水、エンジンの回転音、タイヤが地球と接している感触。 口に煙草を加えた。 トンネルを出ると同時にシガレットライターは音を立て僕に知らせた。 煙草に火を点けた。窓は開けることは出来なかった。
トンネルを出ても雨は止んでくれてはなかった。 今日は花に水をやらなくても十分だと思った。 アクセルを踏み直した。 その時、灰がズボンの上に落ちてしまったが、気にしなかった。 花は喜んでいるように見えた。
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