華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2007年11月04日(日) 欠けたる月の兎。 〜一万円の大罪〜 |
暫く経った、ある晩秋の日。 仕事中、携帯にメールが入る。 「今夜7時、自宅前の○○○喫茶店で待ってます」 ウサギからだった。 東海地方一円にチェーン展開する喫茶店にいるという。 ただならぬ気配を感じた俺は、その喫茶店へ向かった。 人影もまばらな店内。 ウサギはぼんやりと遠くを見つめながら、ボックス席にいた。 ウサギは俺を見て、ふと微笑を浮かべた。 俺はその席に座り、ホットのカフェ・オ・レを注文する。 他愛も無い会話で小一時間。 今までで一番平穏な時間を過ごした。 店を出る前、ウサギは俺に懇願した。 「車に乗せて、出さなくていいから」 俺はウサギを助手席に乗せ、再び色々な話をした。 車内には、満月の月明かり。 「もう帰らなきゃ…主人が帰ってくる時間だから」 「そうか、こういう時間なら歓迎だよ、俺も楽しかったよ」 「ねぇ、最後にまたキスして」 「いいのかい?自宅の前で…」 「いいの、して…」 青白く透き通った月明かりの下、俺はウサギに唇を重ねた。 「ねぇ、平良さん…」 途端に俯くウサギから、大きな涙が二つ、三つ、次々とこぼれ落ちる。 涙声で俺に語り掛けてきた。 「どうして、主人はこんな、こんな簡単な事さえもしてくれないのかなぁ…」 ウサギは欝の苦しみに、見捨てられた寂しさに耐えていた。 そして、孤独に耐えていた。 「そんなの、私って駄目な女なのかなぁ…? こんなポンコツ女、死んじゃえば良いんだって…」 人間、本当に死にたい奴など、そういるもんじゃない。 その死にそうなほどの辛さを凌ぐために、ウサギは俺を利用していた。 そんな言い方するなよ、俺はそう口にしようとした。 しかし、その言葉を必死で飲み込んだ。 こんな時の口先だけの言葉。 何の支えにもならない。 何の優しさでもない。 俺は力の限り、ウサギを強く抱きしめた。 ウサギは声を上げて泣いた。 こぼれる涙を拭かず、絞り出すような声を上げて泣いた。 思えば、俺も孤独だった。 親戚付き合いも無い、忙しい夫婦の間に生まれた、一人っ子。 形は違えど、孤独だった。 遊びに来ていた友達が帰った後、部屋に閉じこもって泣いていた。 寂しくて、哀しくて。 そのうち、自分の感情を押し殺す術を身につけた。 寂しくても、哀しくても。 あくまで、誰にも気付かれないように押し殺していただけだ。 寂しくても、哀しくても。 気が付けば、俺もウサギを抱きしめながら泣きそうだった。 寂しさが、哀しさが解るから。 この女を、欲しい。 俺は無性にウサギを欲した。 助手席に身を委ねるウサギの唇を奪う。 右手は自然と彼女の乳房を捕らえ、揉み上げる。 同時にウサギの息が切れ、かすかに甘く呻き出す。 「やだ、やだ…」 俺は財布から小皺の寄った持ち合わせの一万円札を出し、ウサギに握らせた。 いつもと違う。 俺がウサギを欲している。 俺は無意識に、そんな行動をとってしまった。 ウサギは札に目を落とすと、うっすらと微笑みを浮かべて、 左のポケット辺りに忍ばせた。 俺はとうとう、金で女を買ってしまった。 俺はウサギの胸ボタンを開け、手を差し込む。 直に乳房を揉み、突起を指先で転がす。 ウサギは声を上げてのけぞる。 すぐ右手が俺のズボンの上に伸び、すでに固くなった俺自身を弄る。 運転席を倒し、俺はズボンのジッパーをおろす。 ウサギは俺自身を口に含み、喉の奥まで含む。 いつの間にか狭い車内で下着を降ろしたウサギ。 いつも財布に常備していたスキンを装着した俺。 熱く、甘い吐息が漏れる。 ウサギの腰が、俺の腰に沈み込んできた。 熱く濡れたウサギ自身が、俺自身をしっとりと味わう。 今まで肌を合わせてきたが、今までとは全く違う。 女のいやらしさ、妖艶さを感じる。 俺自身が感じてひくつくと、ウサギもほぼ同時に声を上げる。 嫌いだと言っていた、騎乗位。 嫌いではなく、我を忘れて取り乱すのが恥ずかしかったのだと感じた。 美しい。 計算外の、月明かりの演出。 まもなく、ウサギが声を殺して全身を震わせると、俺に枝垂れかかってきた。 俺たちは、そのまま無言でしばらく繋がっていた。 俺は、自分の意思で女を金で買った罪悪感を感じていた。 一万円の大罪。 「もう帰るね…」 ウサギは力なく車から出ると、重い足取りで自宅へと戻っていった。 俺はまだぼんやりと運転席に身を委ねていた。 甘い快楽と、苦い余韻と。 帰り道。 東名高速道路、守山パーキングエリア。 トラックで埋まる駐車場で、俺は引っかかる何かを喉の奥へ押し込むように、 缶コーヒーを飲み干す。 その時に見上げた夜空の満月には、兎は見えなかった。 汚れた俺には、やっぱり兎は見えなかった。 出発しようとした時、助手席の座布団を直そうとした時。 脇から一枚の紙が滑り落ちた。 よく見ると、一万円札。 それも小皺の寄った、使い古された札だ。 俺がウサギに渡した、あの札だった。 はっとした。 ウサギは自分のポケットに入れる振りをして、座布団の下に忍ばせたのだ。 彼女は、金で買われる事を望んでいたわけではない。 そういう発言をしたことはあっても、本意ではない。 判っていたくせに、俺は彼女に金を握らせ、買おうとした。 危うくウサギを売女にしようとした。 自分の浅はかさに、落胆した。 ウサギにメールを打った。 『渡したお金をシートの下から発見しました。 今回は自分が嫌だと言っておきながら、 お金で君を買おうとした事、本当に謝ります。』 打ち終わろうとした時、メールが割り込んできた。 ウサギからだった。 『わざわざ遠い所から来てくれて、ありがとう。 お金は座布団の下にお返ししました。 こんな私を気遣ってくれたことを嬉しく思っています。 私の心の隙間を埋めてくれて、本当にありがとう。 時には私を叱り、いつも優しくしてくれた、 そして私の寂しさをいつも理解してくれようとした、 あなたが本当に、大好き。 でもこんな壊れた不倫女に好かれても、きっと嬉しくもないでしょ? 解ってる。 <続きを受信する> 』 |
2007年11月03日(土) 欠けたる月の兎。 〜寂しいと…〜 |
「簡単さ。俺に対しても気遣って言ってるのが判るからさ」 本当に抱かれたいのは、俺じゃない。 俺であってはいけない。 この女が俺の向こうに見ているのは、旦那だ。 「平良さん、一体何者なの?」 「俺?しがない営業ですよ」 その日は何事もなく、前回と同じ場所で降ろした。 後日、改めてウサギから今回の非礼を謝りたい、との申し入れがあった。 ウサギを住処近くのスーパーで拾った俺は、彼女のお気に入りの喫茶店に向かった。 「ここの店ね、前から好きなの」 アンティークな小物が小憎い演出をする、自家焙煎の珈琲専門店。 ここで、俺はアメリカンを戴く。 ウサギは柔和な表情でウィンナーコーヒーをすする。 今回は前回までとは一転して、他愛も無い話ばかりだった。 家庭の話、友達の子どもの話、結婚前の武勇伝… 俺も努めて、目元を緩めてゆったりと話を聞く。 ウサギは、朗らかに、穏やかに話を続けた。 この女と過ごす、初めての穏やかな時間だった。 しかし、わざわざこんな時間をすごすために、俺を呼んだのか? 何か企んでいるのか? 今度は何を企てているのか? ウサギに対する、疑念を払拭できないでいる。 長針が2回転を超える間、話続けたウサギ。聞き続けた俺。 喫茶店を出て、車に乗り込んだ時。 ウサギが切り出した。 「この前は、気分を悪くさせてごめんね」 「いや、別にいいよ」 「でもね、嘘じゃないの…平良さんが忘れられない」 「俺の、何が?」 「…身体」 俯き、搾り出すようにそう答えた。 「…抱いてほしいの」 「約束は覚えてるよね?」 「援助、交際はしない」 「それで良いよね?」 ウサギは静かにうなづいた。 東名高速春日井インターの脇にある、地味な外見のホテルに入る。 ビジネスユースとラブホテルを足したような内容のホテルだった。 チェックインした後、ウサギは俺に抱きついて、唇をせがんだ。 俺が答えると、安堵したような表情で、俺の胸に顔をうずめた。 バスルーム前の脱衣場で、俺はウサギに絡みつく。 大きな鏡に映る大柄の俺と、小柄なウサギ。 背後から抱きつき、肉体を求める様は、まるで子兎に噛み付く猛獣だ。 違うのは、狙うのは子兎の肉ではなく、肌だ。 下着を剥ぎ取り、乳房を鷲掴む。 息を呑み、のけぞるウサギ。 その乳首に触れた途端、ウサギから快楽の吐息があふれ出る。 俺は指先でたっぷりとウサギの乳首をつまみ、軽くつぶすように転がす。 その度に吐息が、そして喘ぎがもれる。 腰が意味ありげにくねる。 そして、時折丸い大き目の尻が波打つ。 子宮の疼きがそのままウサギの下半身を悩ましげにひくつかせる。 「やだぁ、やぁ、こんな所じゃ…」 ウサギの戯言は、彼女自身の潤みを探れば判断できる。 俺は無視して、ウサギ自身に中指を差し込み、咥えさせた。 熱い粘液に満たされたウサギ自身の壁に、指の腹を押し付ける。 そのまま前後に動かすと、脱力したウサギが可愛い鳴き声を上げた。 ウサギが鳴くなんて、思えば滑稽な話だ。 俺は指を抜き取り、ウサギに見せた。 「見てみろよ、すごい濡れ方だ」 「いやぁ、私が淫乱みたいじゃん」 「そうだって言ってんだよ」 「いやぁ、意地悪!」 「愛液が白っぽいぜ…なぁ、もう欲しいんだろ?」 下品なのを承知で、ウサギの敏感な耳元に現実を囁く。 聞かなくても充分理解していたウサギ。 吐息交じりの俺の声に撫でられ、さらに高まる。 「お願い…入れてほしいのぉ、もう我慢できないぃ…」 ウサギのこの懇願が、俺のサディスティックな心に火を点ける。 「だめ」 「意地悪ぅ!」 「ゴムつけてないもん、だからダメ」 「あぁん、今すぐ付けてよぉ」 「ゴムはベッドにあるよ」 「取って来てぇ、お願いだからぁ」 「どうしようっかなぁ?」 焦らしに入ると、俺もつい人が悪くなる。 ウサギの懇願を徹底的に焦らしで切り返す。 俺は脱衣場にウサギを残して、部屋に帰ってきた。 すぐさまウサギは全裸のまま、俺に抱きついてきた。 「シャワーは?」 「いらない!抱いてぇ」 「俺もきっと汗臭いぞ」 「いいの…いいの!私を壊して!」 「いいのか、壊して?」 俺は聞き間違えていた。 壊して、ではなかった。 「こんな私を…私を殺してぇ」 そう言った途端、ウサギは泣き崩れた。 全てを中断し、俺はウサギにシーツを掛けた。 そのシーツを裸にきつく巻きつけて、その場に泣きじゃくった。 「…もう、もう嫌…何もかも嫌、死にたい、死にたいぃっ…」 鬱になった彼女を、愛する夫も実家ももてあましている。 自分の感情をコントロールできず、遂に誰も身近にいなくなる、 焦りと苦しみ。 ウサギは身内に見せられない苦しみを、俺の前で爆発させてしまった。 どれだけの時間が流れただろう。 ウサギは静かになり、落ち着きを取り戻した。 俺は何もかもが冷め、ベッドに寝転んでいた。 「帰ろうか?」 ウサギは何も答えなかった。 車での帰路。 無言の車内。 話題の無い中、ふと俺は以前からの疑問をぶつけてみた。 「何で、ウサギなんて源氏名にしたんだい?」 「…死んじゃうから、寂しいと」 「寂しかった、と?」 「死んじゃって、何もかもを無かったことにしたい」 だからウサギにしたの、と呟いた。 「お願いがあるの、聞いて…」 自宅前になり、ウサギは降りる前にそう俺に頼み事をしてきた。 「何を?」 「ここで、キスして…」 ウサギはそう言うと、俺の首筋に抱きつき、唇をせがんできた。 俺は静かに、ウサギに唇を静かに重ねた。 静かな、フレンチキス。 ふっと、頬が緩んだウサギ。 その表情のまま、車から降りていった。 ウサギは寂しいと死んじゃう… どこかのテレビドラマで聞いた台詞が脳裏にリフレインする。 寂しいんだろうな、あの女も… でも寂しいんだよ、本当は俺も… |
2007年11月02日(金) 欠けたる月の兎。 〜援助交際〜 |
優しく抱いて、と懇願したあと、急に押し黙った。 何か訳がありそうだ。 「判った」 「ありがとう…」 ウサギはそう囁くと、俺の懐にもぐりこんできた。 そして、俺を見つめ正常位で入れて、と懇願してくる。 俺はその通りに、ウサギに挿入した。 非常に入り口が狭く、窮屈だ。 しかし俺自身が根元まで入ると、急に背を反らして喘ぎ出した。 「すごいぃぃ、いあああ〜〜、あたる、あたるよぉぉ…!」 数分後。 俺もウサギも果てた。 終わった後。 まったりとする俺を尻目に、ウサギは余韻を楽しむ事無くベッドから抜け出す。 バックからタバコを取り出すとライターで火を点け、紫煙を深く吸い込む。 仕事上がりの一服のつもりか。 何だか拍子抜けした俺。 「平良さん、ごめんね…万事こんな調子で」 「あぁ?…いいよ」 「ちょっと薬飲むから、待っててくれる?」 「体調悪かったの?」 「実はあたし、鬱なんだ…」 「…ウツ?」 ウサギは、鬱病だという。 それで、坑鬱剤を飲んでいるのだ。 ピルケースから錠剤を取り出し、指で押し出す。 口に投げ入れ、近くのペットボトルの緑茶で一気に流し込んだ。 投薬が終わった後、俺に免許証を見せてくれた。 「すごい変化でしょ?薬でこんなに変わるんだよ」 さすがの俺も、その違いに目を凝らした。 免許証の写真には、可愛い女の子が写っている。 紛れも無い、まだ発症していない頃のウサギ本人だった。 今のウサギは、坑鬱剤の副作用で随分変化した状態だった。 ウサギは某コンピュータ会社のSEをしている旦那と2年前結婚した。 しかし、その後から鬱に悩まされるようになったというのだ。 「こんなになっちゃったら、主人も女として見てくれないわよね」 「そうかぁ、でも何が原因だったの?」 「さぁ?」 努めて明るく言葉にする。 しかし、ウサギは明らかに誤魔化した。 突然、ウサギの携帯電話がなる。 「ヤバイ、お母さんからだ」 ウサギは部屋の角で電話に出た。 「今ぁ?友達とお茶しているんだって!いいでしょ、これくらい! …判ってるって!はぁ?時間は見てるし!変な詮索しないで!」 実母なのだろうか。 それにしても大きな声で、乱暴な口調を声色でがなりだてる。 免許証の中のウサギは本当に可愛い。 目の前では、髪を振り乱さんばかりの形相でがなる。 俺はぼんやりと天井を見上げ、時間が経つのを待っていた。 「…っとに、余計なことばかり言うババアだぜ」 電話を切ったものの、興奮冷めやらない様子のウサギ。 「今の、誰?」 「はぁ?義理の母」 「義理…すごい口調だったね」 「だって、超ウザイんだもん!」 「さっきまでの落ち着きようとはえらい違いだったな」 「そう?それも症状だから」 「そういうもんかね」 「そういうもんよ。勉強しといて」 やはり普通ではなさそうだ。 とんでもない女と関係を持ってしまった… 夕方。 帰宅する時間となった。 「ここの前で降ろして」 車でホテルを出た後、ウサギは郊外のスーパーで降ろすよう頼んだ。 「夕飯の買出し?」 「違う、うちはここなの」 スーパー脇の賃貸アパートが彼女、いや夫婦の住処だった。 「いいのかよ、俺に自宅を教えて…」 「大丈夫!だって金目のものも可愛い女も、何も無いから(笑)」 空笑いするウサギはそう言い残して、足早に住処へ消えていった。 2週間ほど経ったある日。 ウサギと二度目の逢瀬の日だ。 今回は、春日井駅近くの喫茶店に呼び出された。 ウサギは前回とは違い、殊勝な態度で待っていた。 「あたしね、平良さんの事が忘れられなくなってきたの」 「そりゃありがたいね(笑)…で、どこが?」 「私に優しいところかな」 「だって、旦那さんは優しいでしょ?」 ウサギは強く首を左右に振る。 「付き合ってた頃はね。でも最近は見向きもされないの」 「そうなんだ…」 「やっぱり鬱病の女はお荷物だから、死ねって事でしょ」 「それは幾らなんでも言い過ぎだって、だめだよそんなこと言っちゃ」 「そう?だって子どもも埋めないんだよ、薬で不細工になるし」 「でもそれは本心じゃないでしょ…」 ウサギは旦那に、事あるごとに鬱に関してなじられるという。 確かに、投薬治療中は子作りなどはできないと聞いたことはある。 でもそれを、一番身近な立場にいる旦那がなじる材料にするのは、 何よりもまずいだろう。 しかし、彼女は離婚などは考えていないという。 「辛いけど、私も嫌な思いしたからさ…」 ウサギ自身も、両親の離婚がトラウマとなっているらしい。 「でも子供いないんでしょ?考えようでは、離婚も出来るんじゃない?」 「じゃ、平良さんがもらってくれる?」 「…そいつは考えてなかったなぁ」 「鬱な女なんかさぁ、就職や社会復帰は無理なんだって」 ウサギはとにかく自嘲が過ぎる女だった。 しかし、鬱に悩む人の心のうちをどこか代弁しているようだった。 「でもさ、お金はやっぱり欲しいの」 「…?」 「だからさ、平良さん。私を3万円で買って」 突拍子も無い申し入れだった。 援助交際を申し込まれたのだ。 「無理だね」 俺はそう断言した。 「…やっぱり?」 ウサギはバツが悪そうに俺の顔を覗き込む。 「はっきり言って、鬱の女に金を払ってやるほどの価値は感じない」 俺はあえてきつく言った。 「じゃ、半分じゃ?」 「駄目」 「…じゃ、一万円?」 「駄目」 「じゃ、今日はホテルなしでもいいのね…」 「結構。俺はそういうつもりじゃ無いから。帰るからね」 ウサギはそういって、俺の気を惹こうとしたが、俺は頑なに拒否した。 そのまま彼女を残して、店を出ようとした。 「待って」 「待つけど、申し入れは受けないよ」 「違うの、話を聞いて」 「じゃ、車に乗れよ」 俺の車に乗せて、春日井市内を流しながらウサギの話を聞いた。 「この前の事さ、友達に話したんだ…」 「で?」 「バカね、どうしてお金取らなかったの!って叱られた」 「その友達も腐ってるよなぁ」 「女が愛情も無い男に身体を許すのに、タダでやるほうがおかしいって」 「確かに旦那よりも愛情は無いよな」 「でも旦那はもう私を女だと思ってない。タダのポンコツだとか言うの」 「夫婦の問題は夫婦間で解決するもんでしょ?」 「ごめんなさい、平良さん…気分悪くしたよね?」 「援助交際はしないから、それだけ覚えておいて」 「…ごめんなさい」 「今度言ったら、もう二度と連絡を取らないから」 俺はきつい言葉を繰り出しながら、ある事実に気付いていた。 だから彼女に同情してしまい、縁を切ることは出来なかった。 何ら難しいことではない。 ウサギは純粋な愛情に飢えている。 「どうして、鬱になったんだい?」 「…疲れちゃったの」 「旦那さんは?」 「主人は会社ばかり、仕事ばかり…で結婚後は私に構ってくれない」 「寂しいって、訴えた?」 「言うだけ無駄だもん、鬱は邪魔者扱いされるだけで」 「それで、ずっと耐えてたんだ?」 「そう。耐えて耐えて、いつの日からか疲れちゃった…」 鬱病は心の風邪というほど、誰もが掛かりうる病気。 そして我慢している人ほど、簡単に掛かってしまう。 日本人の10人に1人がかかっているといわれる、 糖尿病と並んで社会問題化している、厄介な病だ。 ウサギは生活の変化と寂しさに一生懸命耐えて、壊れてしまったのだ。 「あのさ、俺と本当にSexしたい?」 「…したいよ、だって平良さんすごく上手だもん」 運転中の俺の左袖をつかんで、俺との逢瀬を懇願する。 |
2007年11月01日(木) 欠けたる月の兎。 〜待ち合わせた女〜 |
満月の夜。 月面には兎が飛び跳ね、楽しそうに餅をついていると教えられ、 幼い頃の俺はそう信じていた。 あまりにも突飛な、大人の作った寓話を真に受けていたのは、 いつの頃までだっただろうか。 中秋の名月… 随分と汚れた、今の俺の瞳には、月に跳ねる兎が見えるだろうか。 俺はぼんやりと事務所の窓から見える、丸々とした月を眺めながら、 一人の女を思い出していた。 数年前の9月。 春日井市のファミレスで、一人の女と会った。 「12時に入り口前で待ってるから」 待ち合わせの約束を取り付ける時。 やけにぶっきらぼうな言い方で俺にそう通告した。 約束の日、約束の時間。 時間通りに到着した俺。 女は入り口のドアの前で、遠くをぼんやりと気だるそうに見つめていた。 車から降り、女に声を掛けた。 女は遠くを見つめていた、そのままの眼差しをこちらに向ける。 安堵した俺は目元の笑顔を作る。 無表情な女は口元すら緩めない。 無言で店内に入り、昼食のセットを二つ注文する。 熱いお絞りで手を拭いた後、俺が話を切り出した。 「…がっかりしたの?」 あまりに無表情な女に、俺はそう思い、尋ねた。 「そっちががっかりしたんでしょ?」 女はそっけなく答える。 それきり再び無言が続く。 話を切り出しにくい女だ。 軽やかな店内のBGMにもかかわらず、 俺と女は押し黙ったまま、重い時間が流れる。 その間に、俺たちの前に二人前のランチセットが並んだ。 「いただきま〜す」 ちょっと白々しく口にした。 女は口元を緩める気配すらない。 女の名前は、ウサギ。 テレコミの源氏名だ。 人妻のウサギと知り合ったのは、つい数日前。 利用したテレコミで話をした時だった。 テレコミでのウサギは非常に饒舌だった。 その話術に乗せられ、会う約束をしてしまったのだ。 今日初めて見た容姿。 お世辞にも美人とは言えない。 下膨れな顔にうつろな目つき、おまけに無表情ときては、印象も良くない。 容姿は俺も良くないので、贅沢は言わない。 しかし女の表情や仕草には陰鬱さがにじみ出ている。 何かと会話を切り出そうと、あれこれと話題を振ってみるものの、 返事もまともに返ってこない。 俺も珍しく戸惑っている。 会話が続かない。 単発な会話が幾度となく続く。 しかし中身に広がりも発展も無い。 「決めたっ」 「何を?」 ウサギは唐突にそう切り出す。 俺が驚いた。 「平良さん、私を思い切り抱いていいよ」 「おいおい、何を急に言い出すの?」 「私ね、平良さんが本当はどんな人なのか、試してたの」 「どうやって?」 「こうやって一生懸命話してくれるじゃない…主人とはえらい違い」 「…そうなんだ」 「だから決めたの。私の初めての不倫相手になって」 「…」 「食事が終わったら、インターの近くのホテルに行きましょう」 「…」 俺は珍しく、撤退を考えていた。 俺が退いていたのだ。 どういえばこの女とうまく切れるか… しかしウサギは時間が経つに連れて、テレコミの頃の饒舌さが戻ってきた。 非常に浮き沈みの激しい所が見える。 実は俺が最も苦手な種類の人間だ。 「この辺はわからないから、案内してくれる?」 「春日井インター脇のホテルにしましょう」 男という生き物は、目の前の好物を避けて通れないものだ。 俺はウサギに乗せられ、ホテル行きを受け入れてしまった。 ホテルにチェックインする。 ウサギはそのままバスルームに直行し、風呂に入った。 手持ち無沙汰な俺は、ホテルのパンフレットやCS番組を見ていたが、 ウサギを驚かせようと、風呂へ忍び込んだ。 特に好みな女じゃない。 どうせ一度だけの逢瀬なら、好き勝手やってやろう… 俺は服を脱いで、ウサギのいるバスルームに入った。 ウサギは立ってシャワーを浴びていた。 俺はそのままウサギを背後から抱き、乳房を揉みしだく。 ウサギは唐突にいやらしい声を上げた。 「いやん、こういうの待ってたの…」 「こういうのが興奮するんだ?スケベ女!」 「違うぅ、でも主人はわかってくれない…もっとぉ」 下半身から力が抜け、腰つきが危うくなる。 女としての反応がすごぶる良い。 俺も調子づいて、攻め続けた。 ウサギは俺の正面に向き直り、抱きついて唇を奪ってきた。 きついニコチンの匂いがする。 シャワーの湯気も相まって、息が詰まりそうだ。 しかし俺自身は鋭く反応している。 ウサギは見逃さず、掌で弄び始めた。 俺はウサギの両方の乳首を指先でつまみ、転がした。 「あふぅ、うぅん…っやぁん…」 ウサギは脱力し、俺に枝垂れかかってきた。 「どうした?」 「だめぇ、弱いのぉ…気持ち良過ぎるのぉ」 「乳首、弱いんだ?」 「だめ、そうやって声に出されるだけで…おかしくなっちゃうぅ」 「もう濡れてるだろ?」 「言わないで、恥ずかしいからぁぁ…ああん、あふぅ」 俺がウサギ自身に忍び込ませた右手中指が、粘液の存在を探り当てた。 指先から、かなりの粘着質な音が漏れる。 やはり、かなりの潤いだ。 「すげぇ濡れてる…」 「お願い、欲しくなっちゃうでしょ…」 「じゃ、ここでする?」 「いやぁ、ベッドでしてぇ…」 俺はもうしばらくウサギを焦らし、バスルームを出てベッドにもぐりこんだ。 反応は良い。 この後が楽しみだ… 「お待たせ…お願いがあるの」 「何?」 「バック嫌いなの、騎乗位も嫌。あとゴムは必ず、そして…」 「そして?」 「お願い、優しく抱いて…」 |
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