オミズの花道
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『お客様の愚痴を言うホステス』
2002年11月18日(月)


今日は根幹さん改め『大口さん』から電話。珍しい事です。

昼間お電話を戴いた時に、不覚にも眠ってて気が付かなかった。折り返しメールで『かけても差し支え御座いませんか?』のメールを出した。しかし、音沙汰無し。

ああ、今はマズイんだなと納得して待つ事に。メールが普及するようになってから本当に便利。奥様がいらっしゃったり、お仕事中だったりすると、電話は何かしら害があるもんね。


パケットが出だしの頃、お客様の殆どを説得してiモードに加入させた。
ドコモから感謝状を貰いたいほど営業した。でもまあ私もコンタクトが取りやすくなった分、恩恵にあずかってるからいいか。
とにかく便利な世の中だ。



電話を待つこと何時間。
電話の向こうの御仁は相変わらず優しい声。

『今、富山から帰って来た所だよ。』
『あら・・・寒いのに。大丈夫ですか?
 社長も上海や九州や富山や大変ですね。』

そんな当たり障りの無い会話で終わり、電話を切ってふと思う。


ああ、社長ってば・・・人恋しかったのだろうな。


余りにも当たり障りの無い会話に、疲れ切ったその人の顔が浮かぶ。




昔・・・そう、この仕事をし始めた頃、今は亡き大きな会社のトップに聞かれた事がある。
『なおちゃん、「男が外で飲む」って事はどういう事やと思う?』


小娘の私は戸惑いながらも答えた。
『最近それを良く考えます。お客様はここに何を求めて飲みに来られるんだろうって。ただ「お酒が好き」なら居酒屋でいいんです。いえ、家でも充分ですよね。でも、ここに来られるお客様は高いお金を(当時は座って5万円だったかな。私にしたら大金。)払ってでも飲まれている。もっと不可解なのは、その中でも女性を目的に・・・・という方が余りいらっしゃらないんです。好きな子が居るから通う、と言うならまだ納得は出来るんですけれども。』
 

社長は私だけに語りかける為の準備の如く、グラスを置き、こちらに向き直る。
『なおちゃん、ワシ等経営者はな、沢山人に囲まれてはいるが、その実・・・誰も話を聞いてくれる人間がおらんのや。会社でもな。』

『・・・・確かに、トップの方が社員に相談して物事を運ぶというのは、余り聞いた事がありませんけれども。』(その当時の企業はそんなもん)


『そう。それにな、時を追うにつれて、友人も同じ業界や何らかの繋がりを持つ人間になって来る。・・・・そうなると本当に心を許す相手は出来にくい。』

『何だか戦国武将みたいですねぇ。』


『そう(笑)。でも、いかな家康とはいえ愚痴はあるやろ。本来なら女房がその役割を果たさなアカンのやけど、中々そんな出来た嫁さんはおらんし、男にも見栄や照れがあるから泣き言は言えん。』
 
『つまり・・・そんな方々の為に私達がいると?』


『大なり小なり差はある。飲む店も様々や。ワシ等のように「自分の業界の知識もあって話に対応出来る」そんなホステスが多いクラブで飲む人間と、家に帰ってもお母ちゃんと上手いこと行ってのうて、ただ女の柔らかい雰囲気を味わいながら酒を飲みたい人間と、本当に様々や。』

『・・・・・男性の心の隙間を、少しでも埋めて行かないといけないんですね。』


『補う、仕事やと思っとき。「あの子にまた話したらスッキリする。それまで頑張って働こう。」そう思われるホステスになりや。』 



補う・・・・仕事。
補う。


それまで割り切った物が存在しなかった私に、少しだけ方向性が見えた瞬間だった。
補う為には、その人の事に興味を持ち、何が足りないか見極めねばならない。少しでも埋める為に考えなければならない。その人自身を。

それからの私は、お客様の愚痴を一切言わなくなった。
正確に言うと裏では言わなくなった。

勿論私だって人間だから怒る事はある。
だけどその際も自分が何故怒っているか、本人に告げる事が殆どで、裏で言ったりすることはない。

と言うか、埋める作業に取り掛かると、裏で愚痴る事に興味が湧かなくなったのだ。不思議だけれども、本当にそうなのだ。
何故だか難儀な内容でも、本人に考えを聞いて対応する方が楽しくなってしまう。


そして私は店でもウェブでも、お客様の悪口を言うホステスは嫌いだ。(色が絡む場合は別ですが。)そして女性同士で陰口叩くのも嫌いだ。問題があるときは本人に告げてしまう。

皆『ゼニ』というものがあるから働いているには変わりない。
そこには綺麗事なんて存在しない。


だけどお客様の悪口を言うほど嫌いなら、パズルを解く楽しさを見出せないなら、そんなしょうもない接客しか出来ないなら、別の仕事をして欲しい。ゼニの為だけなら、他の仕事の方がずっと割がいい。

しかし・・・・排卵時の攻撃性に甘えて述べさせて戴くが、そんな人は、例えどんな仕事をしても、事を成す事は出来ないだろう。
決して。


何故ならば『仕事』というものの『本質』は、どんな業種であれ変わらないからだ。
風俗であれ、私のもう一つの仕事・・・物書きであれ、会社の経営者であれ、事を成すと云うのは『自分の世界観を構築する。』という事だから。
言葉を変えればポジションを築くとか、ビジョンを持つと云う事だろうか。

一つの仕事において世界観や地位や目標を持てない、また喜びを見出せない人間が、他の事に於いて一体何が出来ると云うのか?
ちゃんちゃら笑わせて戴く。

仕事は二の次、趣味や人生が大事。
『オミズなんてバイトだも〜ん。これで生きて行く訳じゃないも〜ん。不真面目だも〜ん。』それも全然オッケーだ。

だがしかし面白いもので、そういう輩に限って悪口や愚痴がてんこ盛りだったりする。
そしてそんな輩に限って、これまた『オミズとは・・・。』などとウンチクを語ってくれちゃったりする。
私に言わせればこれほど腰の抜ける無様なアホさは無い。

お客様の悪口や愚痴が出た瞬間で、その業種について語る資格などありはしない。
ロクな接客が出来ていない証拠だと言うのに、本人だけが気づいてはいない。
自分の不出来な事に気づかずお客様に刃を向ける。


そして結果は明白。
所謂『上客』はそこを見切り、彼女達の手には決して落ちない。
(事実、上客を抱えるホステスは決してお客様の悪口は言わない。)


言うなれば私の今日のお客様との電話も、彼女達にとっては無駄な事としか映らない。
だが、その相手がどんなコンディションであるか、何故私に電話をかけて来たか、一日の仕事の終わりに女房ではなく何故私なのか。

私はその事自体にとても意味を見出す。自分の価値を感じる。


自分自身の存在を相手に植えつける為には、相手を受け入れる事からしか始まら無い。
受け入れて、受け入れさせ、種を蒔き、水を与え、肥やしをやり、日に当て、花開かせた後も目肥えを与え続ける。

その行為は、自分もそうだが、相手もまた同じなのだと思う。
それから初めて信頼関係が広がり、自分と相手の世界が築き上げられるのだ。

亡き社長があの時に教えてくれた大切な事。





今日、電話をくれた大口の社長。
彼もまた私にとっては大切な宝物・・・。





そしてまた今日、

私は自分が彼の世界の中で、宝物になりつつあるのだと自覚した。
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