あふりかくじらノート
あふりかくじら



 美容師とバーテンダー。

美容師とバーテンダーというのは何処か似ている。

温かな湯気に混じりゆくシトラスのシャンプーのにおいは、
昔からのいつものバーの、やさしくクールなマスターがつくる
〜きまって「おまかせ」と言ったときの〜カクテルにのせた
レモンとかライムの香りに似ている。

それはいつも、角の丸い滑らかな氷が浮かんだ、形の良い
ロングカクテルで、とてもおとなしい色なのだ。

やさしい声がマスターと重なり、その会話が、いくらそれが
彼の商売とは言っても、やっぱりわたしをリラックスさせる。
男のひとの強い輪郭の手指とそのあたたかさがここちよくて、
わたしは眼を閉じる。
ここが、わたしひとりを迎え入れてくれる世界だからだ。

今夜の夜景はすごくきれいだと思った。
それだけでいいんじゃないか。

ドトールの丸いテーブルの上に、ベッシー・ヘッドの本を
広げてそれを日本語に置き換えていく。

インプット、アウトプット。

テーブルの上に、セロウェ村の広くて乾いた農場が浮かんで消えた。


2003年08月16日(土)
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