最高気温が20℃を超え春らしい陽気となる。
風は春風そのもので桜吹雪が見られた。
地面は薄桃色の花びらに埋もれていたが
その花びらは何処に運ばれて行くのだろう。
山つつじも満開となり山肌を桃色に染めている。
つつじの仲間なのでやがては枯れてしまうのだろうか。
桜のように潔く散ってしまいたいのかもしれない。
季節は春爛漫である。陽射しを浴びる全てのものが輝いて見える。

さあ月曜日とやる気満々で職場に着いたのだが
義父は既に田んぼに出掛けており工場の仕事どころではなかった。
土曜日に車検整備を終えた大型車があったが検査が出来ない。
お昼に帰って来たが昼食を終えるとまた直ぐに出掛けて行く。
要らぬ口は叩いてはならず黙って見送るしかなかった。
困り果てたのはまた資金が底を尽いてしまっていた。
預金をありったけ引いたがそれでも足りないのだ。
自転車操業なので車検の売上が無いと前へ進むことが出来ない。
義父のせいにしてはいけないが何だか恨めしくなった。
義父はきっと私のせいにするだろう。やり繰りが下手なのだと。
お昼休憩も取らず四苦八苦していたらお客さんが支払いに来てくれた。
全額ではなく内金であったがおかげで今日の支払いが出来る。
母が助けてくれたのに違いない。そうして見守ってくれているのだ。
今日は何とかなった。明日はまた明日の風に吹かれるしかない。
2時に退社しまた「大吉」へ向かう。
まるで貧乏人のあがきのようであったが査定だけでもと思っていた。
生前の母が趣味で切手収集をしており正に遺品である。
しかし査定の結果、実際の切手の値段より安くなるとのこと。
納得のいかない話だが買い取り業者では当たり前のことらしい。
そこで初めて自分が何と愚かな行為をしているのかと気づいた。
母に申し訳なくてならない。高値なら売ってしまったことだろう。
「やめて」母の声が聞こえたような気がして涙が出そうになった。
母の宝物だったのだ。一枚一枚眺めながら微笑む母の姿が見えた。
「大吉」の査定員さんは今日も愛想が良かったが
余程お金に困っている貧乏人に見えたことだろう。
おそらく3日も続けて来店したのは私だけだと思う。
欲に目がくらんだのか。何と憎らしい欲だろうか。
切手の収集ブックを胸に抱くようにして家路に就いたことだった。
帰宅するなり母の遺影に手を合わせたのは云うまでもない。
「あんたも馬鹿ね」と母は可笑しそうに笑っていた。
金は天下の回り物と云うが家計は何とかなっていても
会社は火の車でこの先どうなる事やらと不安で一杯になる。
ゼロを挽回してもまた直ぐにゼロになってしまうのだ。
私はいったいいつまで試されるのだろうか。
ふっとはらはらと散ってしまいたくなった。
花びら
風に身をまかせている 逆らうことをせず しがみつきもせず
はらはらと散れば ゆらゆらと飛んで 辿り着く場所がある
水面なら浮かぼう 野辺なら埋もれよう 肩ならば寄り添おう
尽いたとて嘆きはせず ただ空となり生きる
見届けてはくれまいか 健気に精一杯に咲いた花を
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