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息子が学校から帰宅した時間が、いつもより20分早かった。 何かあったのだろうかと思い聞いてみると 「一生懸命走って来たから」 だと言う。 いつもの仲間で、今日は一生懸命走る事にしたらしい。
幾ら一生懸命走ったからって、20分は縮まらないだろう。 学校まで歩いて15分なんだから。 普段は修行ごっことかやってるから遅いんだろうに。
家に着いた息子が いきなり「学校に電話をかける」と言い出した。
「先生に『さよなら』言わないで来たからね」 「最後の挨拶しないで、勝手に教室出ちゃったの?」
ちがうちがう、と息子。 最後にみんなで挨拶をして、それから帰る前に更に先生にさよならを 言うのが息子の日課であるらしい。 それは以前、担任の先生から うかがった事があった。
「電話して、『さよなら』って言うの?今から?」 「ちがう、ちがうけど。先生、もう少しだから。さよなら忘れたから」
期限付き採用の20歳の先生。 もう直ぐクラスからだけではなく 学校からもお別れ。 クラス替えをしても友達とは会えるけど、先生とは もう、廊下ですれ違う事もない。
「まだ10日あるから、その間先生になるべく迷惑かけないようにすれば いいんじゃないかなあと、お母さんはそう思う」 「・・・・・・」
そりゃもう切実だ。昨日も先生の方からお電話を頂いたばかり。 一日に息子は3度喧嘩して3度泣いたそうだ。お腹にはくっきり女の子の 噛みあと。ペットボトルで殴られたり、禁じ手の上半身に蹴りを入れて しまったり、負けたが さすがにやり返しはするようになったらしい。 褒められたものではないが、喧嘩は日常茶飯事らしい。 昨日の息子の場合は、半泣きまで追い込んだのは1人であり、残りの 2人には完敗であった。強いな、みんな。 弱いぞ、息子〜、せめて泣くな〜
先生からのお電話は、確かに報告のお電話ではあったが、喧嘩自体が どうこうと言うより、それを家で正直に報告出来たかと言う事だった。
「都合の悪い部分は、言ってませんね」 としか言いようがなかった。
息子は可愛がってもらった。感謝したい。 無理なく成長させて頂いたと言うべきか。本当に良く指導してもらった。
しっかりしたPTAのお母さん達の中で、私のような年齢ばかり行ってるのに ただぼんやりした威圧感のない存在は貴重であったのか、逆に先生に お礼を言われてしまった。
「中学生くらいになったら、何でも自分でするようになると思いますんで… 一杯迷惑かけたけど何とか育ったと自分の足でお礼を言いに行かせます」
と 今言える精一杯の事をわたわたと言ったら、涙ぐんでおられた。 感謝している。もうムッチャクチャな事が山ほどあったが、そのたび 理解して頂き、話し合い、切り抜けて来た。 初めは不安だった若い先生。 彼女自身、色々負けないで、良く頑張った。 先生は、綺麗なまま すっかり強くなっていた。 自分も見習わないと。じゃないと恥ずかしい。
長椅子に寝転がって天井を見たまま息子が動かないので 声をかけると 息子は黙って涙を流していた。
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