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■ アビシニアン
たぶん、公園で過ごす四度目の冬。 高齢のアビシニアンに、この寒波はこたえた。 わたしはずっと抱きつづけた。 温めつづけた。 私の肉体が猫の寝床だった。 ずっとそうだった気がする。 アビシニアンのからだがこわばる。 わたしは離れない。 アビシニアンの口から、甘いにおいがする。 わたしは予感に慄【ふる】えるが、悲しみはない。 わたしたちは、充実して生きた。 どこに不幸がある? どこに悲しみが? わたしに悔いはないし、もちろん、猫にも。
(古川日出男『アビシニアン』幻冬舎、2000)
2005年05月31日(火)
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