37.2℃の微熱
北端あおい



 アビシニアン

たぶん、公園で過ごす四度目の冬。
高齢のアビシニアンに、この寒波はこたえた。
わたしはずっと抱きつづけた。
温めつづけた。
私の肉体が猫の寝床だった。
ずっとそうだった気がする。
アビシニアンのからだがこわばる。
わたしは離れない。
アビシニアンの口から、甘いにおいがする。
わたしは予感に慄【ふる】えるが、悲しみはない。
わたしたちは、充実して生きた。
どこに不幸がある? どこに悲しみが?
わたしに悔いはないし、もちろん、猫にも。

(古川日出男『アビシニアン』幻冬舎、2000)

2005年05月31日(火)
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