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■ おねがい
おねがいです、というと それはだめ、どうしてもだめ、という。 ほんのすこしでいいのです、おねがい、といっても そのひとはがんとしてくびをたてにふらない。 忘れないよう、見るたびに思いだせるよう、 きずをください、といいながら果物ナイフをわたそうとした。 なのに、それはしまいないさい、といわれてしまう。 それでも、望みをすてきれずにたちつくしていると、 そのひとのてがナイフをとりあげてわたしのかばんのなかにしまう。 じぶんをおさえるためにほしいのです、 もうくすりではきかない気がするのです、というと、 じゃあ別の方法で、とそのひとはいってとてもやさしいやりかたで、 傷をつける。 そうしてもらっているあいだ中、そのひとはほんとうは そうしたくないのだというのが苦しいくらいにつたわってくる。 後悔と自分の欲望にひき裂かれて、泣きそうになる。 そのひとをこまらせたくなくて、もらうはずの傷だったのに、 よけいに酷いことをした罪悪感。
傷跡は、一日たったらほとんどきえてしまったけれど、 テープを再生するかのように記憶を何度も何度も巻き戻す。 罪悪感が擦り切れるまでずっと。
2005年12月10日(土)
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