37.2℃の微熱
北端あおい



 とける


一のなかへ溶けこんでいく瞬間の恍惚感。
世界とひとつになる全能感覚。
それは個でなければ何度も何度も味わえないもの。
個であるのは美しい必然。だから、個として在りつづけたい。
一から幾たびも身を引きはがすたびに、心も身体もばらばらになってしまいそうなく
らいの極限の苦痛を味わってもそれは二が一になるときの魂の止揚感覚や恍惚感から
くらべるとなにほどのこともない、ことを知っているのだから。
だから、いつもいつもその瞬間を熱望し、それを味わうためだけに、そのためだけに
生きようとおもった。そのような瞬間があるのならば、生きていてもいいと思った
(過去形、ということは、そういう瞬間に奇跡的にもう巡り会っている)。
生きながらにして、Thanatosへむかう欲望をぎりぎりのところで回避するために。
街をあるきながら、魂が溶ける瞬間をさがし求めている。

2005年12月14日(水)
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