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 サーチュイン遺伝子

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生物学者:福田伸一


先週の土曜日通院した。
その前の週の土曜日は文化の日で休診だったため受診者が殺到し駐車場は、満車でなかなか駐車できなかった。
しばらくして駐車できたが車内で待機していた。

診療所から一人、また一人と診察を済ませた患者を見届けてから建物に入った。
それでも先客というか先患者がまだ十人程いて、一時間はないが三十分は待つだろうとひと息の冷めていない待合室に自分の居場所を探す。
読み物が置かれているフリ―スペースから雑誌を手にとり、テレビもほどほどに視界に入り受付の状況も伺える位置の長椅子に尻ひとつがおさまるスペースを見つけると分け入って座った。

雑誌をパラパラめくると特集記事が読んでくれとばかりに大きな写真と記事が数ページにわたって組まれていたが、すっ飛ばし現代のかたくなな恋愛事情の記事を探したが目当てのものはその号にはなかった。

軽く読めそうなコーナーを求めてページをめくり続けるといつもはスル―してしまう生物学者の福田伸一氏の連載ページに留まった。

私が手に取った号の記事の内容はこうだった「カロリー制限によるサーチュイン遺伝子の活性化には関係はない」この文字の羅列が視界に入るやいなやサーチュイン遺伝子ダイエットをしている弟が思い浮かんだ。

そもそもサーチュイン遺伝子ダイエット法なんていうのものはなく、空腹のときに「サーチュイン遺伝子」という寿命が活性化するのを知った弟が不老長寿を意識して独自で始めた生活習慣だ。

実行し続けていたらかなり痩せたので結果ダイエットになった。

ダイエットが目的ではないという主張を繰り返す弟の実践したそれは、炭水化物の摂取をそれまでの三分の一程度に抑えひたすら長時間歩くこと。
とうの昔に喫煙をやめ、もともと飲酒はしない。親元に暮らす独身で定職を持たない弟が食を抑えただ歩き続けるというストイックな生活で長寿を得ようとするのは何なのだろ。

一方、幼少期から病気の連続で早くに結婚し親元から独立した姉の私は、長寿に向かう努力の前に子育てや実生活に追われ、そんな悠長なことを考える暇はなかった。

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消しゴム版画家:ナンシー関


弟は、自宅周辺数キロを数時間かけて歩く。
とくにルートにきまりはなく時間の制約はしない。
よく歩く道は自宅のある世田谷から渋谷に向かって抜ける目黒だ。

渋谷につづく目黒区内のその通りは、栄養過多で太り過ぎのナンシー関さんが食事を終え5分程度の移動も徒歩できずタクシーの車内で気分を悪くして亡くなった道らしい。
消しゴムを彫る版画家コラムニストというジャンルを確立した彼女は、太り過ぎで三十九歳という短い生涯だった。

福田伸一氏がお書きになったサーチュイン遺伝子とカロリーの因果関係の記事は、諸外国の研究チームで研究中でまだ断言できないということを伝えたかっただけで、ナンシー関さんが歩けなくなるほどに肥満死した道を寿命遺伝子の活性化のため小カロリー摂取で歩き続ける弟をけっして否定しているわけではない。






2012年11月16日(金)
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