乃南アサ。『風紋』

上下巻なので苦戦していた。さらに、内容がこれ以上読みたくないと
思うほどに重たく、どうしても進めなかった。
結局、つらいところはナナメ読みすることでかわすしかなかった、
いくじなしのワタシ。
それは、十二国記の「月の影 影の海」の上巻の差ではなかったよ。
(読んでいないひと、すみません)

なぜつらいのかは読んだ人にしかわからないだろう。
リアルすぎる人物描写と心の動き。そこまでつきつめて言うかと思う。
ばっさばっさと読み進むたびに心を切られる。つらい、なぜここまで
苦しまねばならないのか。
これは単なるミステリではない、と言いきってもいいのだろう。
問題は、犯人が誰か、動機は何か、どのように殺人が起こったかではない。
ひとつの殺人が起きることによって、それに巻きこまれる被害者の家族、
加害者の家族、それをとりまく人達の織り成す「そこからの人生」。
たったひとりのかけがえのない人を失ったひとたちは、いったいその
気持ちをどこにぶつけたらいいのだろう?
今まで見て見ぬふりをしていた家族のほころびが、どんどん大きくなる。
あとからあとから襲ってくる様々な「外敵」や波紋。
そして、砂の上に立てた城のような人間関係が、あっという間に崩れていく。
その姿はきっと人間の一番嫌な姿・・・。
殺されたのはワタシと同じ「主婦」であることが、ますます自分の中で
リアリティを呼ぶ。当分この本を開くことはないだろう。
そして、それがそのまま、この物語の完成度の高さなのであろう。

来年、「続・風紋」が、本品の七年後の設定で描かれるという。
今はまだ読みたくない。でもそれがきっと、作者の思う壺、という
ところなのかもしれないが。
2002年12月22日(日)
By ちゃいむ

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