⊂九尾の狐⊃
2002年09月27日(金)

ドラマで気狂いの女の人が在た。
御飯にタワシを出してた。
番組を回してたら巡り観て、気持ちが悪くなった。

あたしのお母さんはよく、
真夜中に「御飯が出来た」って云って、家中の電気を点けて歩いた。
気に入らない事があるとすぐに、甲高い悲鳴をあげて鏡を投げた。
聞こえない言葉を呟きながら、部屋をひとりグルグル回ってた。
そんなに回ったらバターになるって、昔に云ってたじゃない。
お母さんの悲鳴がずっと、耳の中に残っているの。
鼓膜に焼きついて、ほんの少しの刺激で生き返る。

あたしが小さい頃に住んでいた家には、『お母さんの部屋』があった。
其の部屋は妹しか入れてもらえない、特別な部屋だった。
何年かすると部屋に、あたしも時々だけ入れて貰えるようになった。
其の部屋には違う時間が流れていて、観たことも無いテレビ番組がやっていて、
妹用のヌイグルミや服や、他にトランシーバーが置いてあった。
お母さんはラジオだって言い張っていたけれど、其れは確かにトランシーバーで。
時々お父さん以外の、あたしの知っている男のひとの声がしていた。
何時からかそれらがどういうことなのか、知っていたし。
ばあちゃんやお父さんから、何時からかたくさん聞かされるようになっていた。
その声をもった男のひとと会うたび、あたしは警戒心と嫌悪感を抱いた。
其のひとは近所に住んでいたから、何かと良くはちあわせる。

無意識に思い出しては、取り留めのなさに悶えるしかない。



そんな時は決まって、硫黄の匂いが鼻を衝いた。



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由弥 [御手紙]