ドラマで気狂いの女の人が在た。 御飯にタワシを出してた。 番組を回してたら巡り観て、気持ちが悪くなった。
あたしのお母さんはよく、 真夜中に「御飯が出来た」って云って、家中の電気を点けて歩いた。 気に入らない事があるとすぐに、甲高い悲鳴をあげて鏡を投げた。 聞こえない言葉を呟きながら、部屋をひとりグルグル回ってた。 そんなに回ったらバターになるって、昔に云ってたじゃない。 お母さんの悲鳴がずっと、耳の中に残っているの。 鼓膜に焼きついて、ほんの少しの刺激で生き返る。
あたしが小さい頃に住んでいた家には、『お母さんの部屋』があった。 其の部屋は妹しか入れてもらえない、特別な部屋だった。 何年かすると部屋に、あたしも時々だけ入れて貰えるようになった。 其の部屋には違う時間が流れていて、観たことも無いテレビ番組がやっていて、 妹用のヌイグルミや服や、他にトランシーバーが置いてあった。 お母さんはラジオだって言い張っていたけれど、其れは確かにトランシーバーで。 時々お父さん以外の、あたしの知っている男のひとの声がしていた。 何時からかそれらがどういうことなのか、知っていたし。 ばあちゃんやお父さんから、何時からかたくさん聞かされるようになっていた。 その声をもった男のひとと会うたび、あたしは警戒心と嫌悪感を抱いた。 其のひとは近所に住んでいたから、何かと良くはちあわせる。
無意識に思い出しては、取り留めのなさに悶えるしかない。
そんな時は決まって、硫黄の匂いが鼻を衝いた。
|