「硝子の月」
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「へへっ、こいつぁツイてるぜ♪」
小脇にルリハヤブサを抱え、男は走りながらニヤニヤ笑った。 いかにも金の無さそうな子供の肩にこの鳥を見つけたときは、思わず自分の目を疑ったものだ。
美しい羽を持つ、世界中に数十羽しか存在しない不思議な鳥。 捨て値で売っても楽に3月は遊んで暮らせる額になるだろう。それを考えると、全力疾走中だというのに笑いが止まらない。
「クァアアアアッ!!」 少年から引き離されたルリハヤブサが怒ったように暴れている。 「ああこの、大人しくしろよ!」 少々苦労しながらそれを抱え直し───…
「待てっつってんだろこのクソッタレ!!」
ガッツーン! 唐突に後頭部に何かがぶち当たり、男はよろめいた。
「んなっ…、あ!?」 腕が緩んだその一瞬、パッとルリハヤブサが舞い上がる。
「アニス!」
男の握り拳よりも大きい石をぶん投げた少年が、戻ってきた紫紺の鳥に手を伸ばす。 ルリハヤブサは優雅にその肩に舞い下り、少年の頬に頭をすり寄せた。
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