「硝子の月」
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ティオの顔にわずかに複雑な影が過ぎった。 両腕に顔を伏せ、頬に親友の羽根のぬくもりを感じてわずかな記憶をなぞる。幾らも聞かせてはもらえなかった両親のこと。 (俺の) 知りもしない土地のことが何故か懐かしく感じるのは、きっとそこに幻を見ているせいだ。 (俺の、生まれた場所) ……故郷、という甘い響きに惑わされているだけなのだ。かつてそこにいたはずの、覚えてもいない懐かしい人たちを思って。 だから馬鹿なことだ。胸が疼くのも、否定しながらどこかで期待をかけるのも。 「……馬鹿なことだよな、アニス」 「……ピィ」 アニスは慰めるようにティオの頬に顔をすり寄せる。……自分が信じるのはこの青い羽根の親友だけな筈だと言い聞かせ、ティオはきつく唇を噛んだ。 ほかに、何があっていいはずもない。そう決めたはずだ。
「……うわぁッ!!」 「――っ?」 ……と、急に眼前で鈍い音がして、ティオは驚いて顔を上げた。見ると、くすんだ銀髪の少年が派手に地面に顔を打ち付けている。 「……おい?」 恐る恐る声をかけると、少年はうめきながら起き上がった。 「あう……え、あ、あう、ご、ごめんなさい!」 「……は?」 唐突に頭を下げられ、ティオは呆然とする。年は同じほどだろうか。いかにも気の弱そうな少年は、ひびの入った眼鏡をかけなおしてひたすら謝っていた。 「ああ、あの、あの、その」 「……なに」
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