「申し訳ないです。監督や部長、控えの選手に申し訳ない。悔しさよりも申し訳ない気持ちでいっぱいです」 大須賀の口からは、何度も何度も「申し訳ない」という言葉が出てきた。負けた悔しさよりも、周りの期待に応えられなかった気持ちが強く現れていた。
東北福祉大の4番大須賀は、1年のときから試合に出場。「4年になる頃には、間違いなく逆指名候補になる」と言われた選手だった。 でも、大須賀は期待通りに才能を開花させることはなかった。リーグ戦では好成績をあげられても、神宮に来ると目立った成績は残せない。その繰り返しだった。
最終学年の今秋。大須賀はいつものように4番ショートで出場した。初戦を勝ちあがり、翌日の駒沢大との準決勝。0−0で迎えた6回にチャンスが回ってきた。1アウト満塁。先制得点の絶好のチャンスだった。 初球。レフト線へ痛烈なライナーが飛んで行った。福祉大応援席は大歓声で沸きあがり、駒大側は一瞬沈黙した。だが、打球は無情にもファール。フェアゾーンまで、わずか10cmほどの際どい当たりだった。結局、この打席、一塁ファールフライに倒れ、チャンスを生かすことはできなかった。
1点を追う8回、大須賀の前にまたもチャンスが巡って来た。2アウト1.3塁。一打出れば、同点に追いつくチャンス。 「大須賀!最後の仕事してこい!」 ベンチから声が掛かると、「ハイ!」と力強く答えた。 けれど、言葉が現実に変わることはなかった。
控え室から球場外に出てくると、大須賀には無数のフラッシュが浴びせられた。マスコミも一般のファンも、ドラフト候補の大須賀の最後の姿を撮ろうと、カメラを構えた。それほど注目された存在だった。
「1年からずっと使ってもらって、貴重な経験を何度もさせてもらって、でも最後の最後までそれに応えることができなかった」 目を真っ赤に晴らしながら、ブレザーを着た野球部員に目をやった。 「メンバー外の選手も一生懸命応援してくれた。でも、その応援を裏切ってしまった。ほんとに申し訳ない」 口をつくのは申し訳ないという言葉だけだった・・・。
ドラフトに関する質問を向けられると、 「今日やり残したことで頭がいっぱいで、ドラフトのことは考えられないです。とにかく優勝することしか頭になかった。最後の最後までみんなと野球をやっていたかったので、こういう結果になって、今は何も考えられないです・・・」
大須賀はマスコミの取材から解かれると、ファンからの写真攻めにあった。でも、拒否するでもなく、淡々とそれに応じていた。
敗戦の翌日。ドラフト6位で巨人に指名された。率直に言って、6位で指名されるような選手ではない。もっと上位で指名されるべき選手であった。
やり残したことは、プロの世界で返していけばよい。ずっと起用してくれた首脳陣に対して、恩返しできる最高の場所も与えられた。それは、誰かがくれたものではなく、自らの力で掴んだものである。
大須賀は最後に、ポツリと言った。 「いつまでも負けを引きずっててもしょうがないんですよね。引きずってても、何も起こらないですからね」
|