インコの巣の観察日記
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2002年11月02日(土) アルゼンチンの国旗

アルゼンチンの国旗
子供の頃から“泣いた時に聞く曲”と言うものがいくつかあったけれど、この曲も何度も繰り返し聞いていました。
私の小さな手と未熟な技量じゃとても弾けなかったけれど、
いつかこの手がもっと大きくなったら...と思い続けたまま、
弾く機会のないままにピアノからは遠ざかってしまいました。
しかし...哀しいときに聞くと言う習慣だけは変わらず、昨日の夜も聞いていました。
リストの“愛の夢・第3番”を...。




みなさんは、中継を見る前に試合結果を知らされると、怒る人ですか??(笑)私は全く平気です。
確かに、結果は判っているからドキドキ・ワクワク感はLiveとは比べ物にならないかもしれません。
でも、もし勝った試合ならば、どんな展開で勝利を収めたのかを知りたいし、
たとえ哀しい結末を迎えることが判っていても、どんな姿をピッチ上で見せてくれたのかを知りたいから、
だから、私は平気で見ることが出来ます。

Futbolと言う競技に勝敗はつきもので、誰もが勝利を目指して闘い、そして声援を送っています。
でも、多分...私にとって1番大切な物は結果ではないのかもしれません。
確かに、勝って歓喜を爆発させる姿を見ることは、楽しくて、嬉しくて、
彼らと一緒に歓びを分かち合えることはこの上なく幸せなことだと思う。
でも、私が1番大切にするものは、彼らがピッチの上で見せる姿そのものなのです。
あらゆるものを賭けて闘う、彼らの心をきちんと受け止めてあげることが一番大事に思えるから、
勝敗・結果は一番大切なものではないのかもしれません。

だから...昨日の夜、何ヶ月も前に結果が出てしまっている試合を見ました。
彼らの気持ちを正面から受け止めるために。
そこで何が起こったのかを、ちゃんとこの目で確かめるために...。

あれから半年近くがたって、ようやく意を決して見ました。
ずっと、ずっと、怖くて見ることが出来なかった試合。
あまりに辛くて、見ることが出来なかった試合。
スウェーデン VS アルゼンチンの試合を...。

6月12日以来ずっと封印したまま一度も再生させることのなかったビデオテープを出してきました。
弱虫な私はずっとこの試合を避けてきました。
逃げてはいけないこと判っていたけれど...勇気がなかったのです。


先日、掲示板にも私信として書いたので、何となく気付いていた方もいらっしゃるかと思いますが...
つきさんが、地上波を全くと言って良いほど見ない私のために
(と言うか、私のTVは試合と映画を見るためだけに存在する:笑)
民放各局+NHKのW杯関連のNews映像をイロイロとダビングして送って下さいました。

画像では見ていましたが、映像では初めて見る、試合以外でのアルゼンチン代表の様子...
そこには、楽しそうな笑顔が溢れていました。
成田空港に降り立った光景、Jヴィレッジでの練習風景、地元の人たちとの交流、
どれもこれも私にとっては新鮮で、もしこの時リアルタイムで見ていたのなら、
きっと楽しくて仕方なかったと思います。

でもね、今の私は知っているから。結末を全て知っているから、
だから辛くて堪らなかったのです、その笑顔が。
「時計の針を...もう一度戻すことが出来たなら...」
PochettinoやZanettiたちの笑顔を見る度に、何度もそう思いました。
しかし、それは永遠に叶いません。時間を遡ることは出来ないのですから。


失意の内に帰国の途に就くPiojoやCrespoたちの姿を見た時、
「目を背けちゃダメなんだよね、逃げちゃいけないんだよね」と、ようやく決心がつきました。
そこで、一段落ついた昨日の夜、私は初めて見ました。
そして、理解しました。あの日、あの場所で何が起こったのかを...。


私は涙を流していました。結果も展開も何もかも全てを知っているのに、泣きながら、その試合を見ていました。
終了間際に1点しか決まらないこと判っているのに...必死で祈っていました。
Piojo、お願い!! Aimarお願い!! Sorinお願い!!Kilyお願い!!そして...Pochettinoお願い!!と。

左足のシュートが枠外にそれたのを見て表情をゆがめるPiojoを見ては「何で決まらないのぉ!!」
長髪をなびかせてSorinが宙を跳んだ瞬間「入れぇ!!」
Zanettiにボールが渡った瞬間「Tiiiirrrraaaaaa!!」いつの間にか必死で叫んでいました。

チャンスの度にベンチから立ち上がって、そして天を仰ぐSimeoneやHusainたちと一緒に悔しがり、
憤り、自然と拳を握りしめていました。(試合後、痛みを感じるのでふと目をやると、
両の手のひらには爪の跡がくっきりとついていました:苦笑)

おかしいでしょ!?結果が判っているのに、Anders SvenssonのGolが決まった後、
私は彼らと一緒になって焦っていたんです「時間がないよぉ!!」と。
「あと、2点、2点!!」と必死だったんです。
そして...あの怒濤の攻撃を繰り広げるアルゼンチン代表を見て、Samuelにではなく、Larssonに黄紙が出たのを見て、
そしてPochettinoのクリアがPropia Puertaにならず、Cavalleroの正面を突いたのを見たとき、
本気でアルゼンチンにはまだツキがあるって思ったのでした。このまま敗退するなんて、信じられなかった。

私の神さまは...北欧の屈強な選手たち相手にも、全く負けていませんでした。
だって...あの日、LarssonやAndreas Andessonと競ったボール、殆どPochettinoが勝っていたでしょ??
私の目には、#4をつけた選手が、とても美しく、そして頼もしく映っていました。


この試合の開始に先だって、両チームの紹介映像が流れたのですが...
やはりアルゼンチンの方では、札幌での試合・あの場面が使われていました。
PKを決めて歓喜を爆発させ雄叫びを上げるBeckham...
その次の瞬間カメラが切り替わり、Pochettinoのアップを流しました。

私は...あれほどまでに哀しい瞳をしたPochettinoを見たことはありません。
「なぜ、ここでPochettinoの映像を使うの!?」と涙が滲んできましたが、
ピッチへ出ていく通路のところで待機する彼を見た時に「前だけを見て...」と言われているような気がしました。

あの日の試合前のアルゼンチン代表、怖いくらいに真剣な眼差しだったでしょ??
それを、緊張と捉えた人もいるかもしれないけれど、私は闘う瞳をしていると嬉しく思った。
Pochettinoは、普段の優しい眼差しなど、どこにも見つけることが出来ないほどに、怖い瞳をしていた。
そして...それを私は美しいと感じたのです。

スウェーデン戦のPochettinoは、よくPSGで白いCamisetaを着ているときにやるように、
サイドの髪を後ろへ持っていって、それをお団子状にしていました。
いつも以上にフェイスラインがハッキリと現れていて、その澄んだ集中した瞳と
キッと結ばれた強い意志を表す口許と相まってより一層彼を気高く見せていました。

彼は、アルゼンチン代表を窮地に追い込んだことに対して、少なからず責任を感じていたのでしょう。
でも、それは“過去へのこだわり”ではなく、スウェーデン戦へ臨むに当たってのモチベーションに変えていることが、
彼の表情から読みとることが出来ました。「何て強い人なんだろう...」自分の弱さが情けなく思えました。


あれだけの意志を以て試合に臨んだPochettinoだったけれど、
彼は自らの力で勝利を勝ち得ることは出来ませんでした。
タイムアップのホイッスルがピッチに響きわたった時、
彼は瞬間膝をついて崩れ落ちました。

悲しかったんじゃない。そう、彼は悔しくて堪らなかったんだ。
チームに勝利をもたらすことが出来なかった自分の無力さが悔しくて、悔しくて仕方なかったんだ。
彼のやり場のない悔しさが判ったから、私も泣きました。
ずっと、ずっとうつむいたままのPochettino。かける言葉も見つからなかった。

そんなPochettinoの元へ駆け寄ったのは、控えGKのBurgosでした。
そして...そっと彼の肩に何かをかけてあげる姿が、引いたカメラアングルからも判りました。
BurgosがPochettinoにかけたものは、水色と白色をしていました。



結局、試合開始前から終了後までずっと泣き通しだった私は最後の最後に大泣きしてしまいました。
Burgosに抱きかかえられながら、ドレッシングルームへと戻って行く、
顔を手で覆い涙を隠して泣くPochettinoの肩にはアルゼンチンの国旗がかけられていました。
その、Burgosの行為が私には嬉しかった。だって、無言のメッセージがそこには隠されていたから...

「うつむくな、顔を上げろ。アルゼンチン代表としての誇りを失うな、
お前達は何も恥ずかしい試合をしたわけじゃない。
溢れんばかりの闘志を以て精一杯闘ったではないか!!」

Burgosのようにピッチに立てなかった者や、アルゼンチン国民、
そしてアルゼンチン代表を愛する全ての者達の気持ちを、
あの肩からかけられた国旗が代弁してくれているような、そんな気が私はしたのです。


そして...Pochettinoへのメッセージであると同時に、私たちへのメッセージのようにも感じられました。
確かにこの結果は受け入れがたいほどに苦痛であり、そして哀しくて悔しいものです。
でも、代表チームはここで終わりじゃない。再び歩き出さねばならない。
泣くのは今だけにしよう。その代わり...今だけは思いっきり涙を流そう...。


ようやく封印を解いたことにより、私は次の一歩を踏み出せたような気がしました。
Pochettinoが泣くときには一緒に泣こう。Pochettinoが笑うときには一緒に笑おう。
これからも、変わらずいつも一緒に...。



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