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2025年07月14日(月) ■ |
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『ハルビン』 |
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『ハルビン』@新宿ピカデリー シアター9
原作では安重根が洗礼を受けていたことや、彼を見守る神父たちの存在が描かれていた。映画にはそれが出てこないかわり、安重根に信仰が根付いていることがその言動から判るようになっている。最後の最後、核心に迫る台詞。信じることと赦すことは受難でもある 『ハルビン』
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Jul 14, 2025 at 23:47
文字数の都合上「安重根」とツイートには書いたけど、今作の広告や記事の殆どが「アン・ジュングン」表記なのですよね。時代の流れともいえるけど、原作には「重根」という漢字表記の由来が書かれている。いつかどこかへふわりと飛んでいってしまいそうな彼に与えられた新しい名前。しかし改名にも関わらず、彼は祖国を旅立ってしまった。祖国のために。
原題『하얼빈(ハルビン)』、英題『HARBIN』。2024年、ウ・ミンホ監督作品。日韓併合前年の1909年、独立運動家アン・ジュングンが、満州のハルビン駅で伊藤博文初代韓国統監を射殺する。アン・ジュングンと、彼と共にいた「歴史に名前が残ら(なかったかもしれな)い」同志たちの道程を描く。
原作を先に読んでいたのがある種の助けにもなった。アン・ジュングンがどういった経緯でロシア領に渡り、銃と資金を調達しハルビン駅へと辿り着いたのかが頭に入っていた。映画は、淡々とその道のりを追った原作に宗教画のような陰影をつけ、登場人物の心の揺れを浮かび上がらせた。アン・ジュングンが凍りついた豆満江上をひとり歩き、立ち尽くし、やがて横たわる荘厳な風景。チェ・ジェヒョンが落としたひと粒の涙を捉えた窓からの逆光。屋外と屋内、どちらにも密やかに差す僅かな、しかし強い光。
クローズアップが少なく、陰影の強い映像(撮影:ホン・ギョンピョ)。鳥瞰のショットが多いのは神の視点かと思っていたが、監督のインタヴュー(後述)によると「祖国独立のために亡くなった人たち」の視点というイメージだったそうだ。成程、鳥の目は「いつもただ見ているだけの神」ではなく、同志を見守る死者たちのものだったのか。表立ってアン・ジュングンがクリスチャンであったことは語られずとも、その宗教観は映像に強く反映されていた。氷上でアン・ジュングンは回想する。自分の信念により多くの仲間を失ったことを。その信念は、のちに『東洋平和論』に記される理想に基づいたものだということを。それでも彼は傷つき苦悩する。敵も裏切り者も信じ続け、赦し続ける。
予習の弊害は少しあった。予想外に多いアクションシーンと、裏切り者は誰だ的なサスペンス要素があることに戸惑った。ウ・ドクスンの動向を知っていたので、誰が密偵かはもう一択じゃないか(…)。密偵の彼、『沈黙』のキチジローを思い出してしまった。「歴史に名前が残ら(なかったかもしれな)い」人物。だからあのラストシーンには胸を衝かれた。去っていく彼らを背後から見送るショットは、アン・ジュングンたちの視点なのだ。
アン・ジュングンを演じたのはヒョンビン。情熱と静謐、慟哭と囁き。達観した人物ではない、彼は常に迷える仔羊だった。素晴らしい演技。ヒョンビン以外の配役は敢えて知らずに観たのだが、パク・ジョンミンは予想通りウ・ドクスン役だった。読んだレヴューに「何しろ『密輸 1970』で裏切り者を演じた曲者なので(疑ってしまう)」みたいに書かれててなんともはや(笑)。とはいうものの、ウ・ドクスンはアン・ジュングンと共に「歴史に名前が残り」、よく知られている人物なのではないだろうか。疑いで目で見てしまうのは本国以外の観客なのでは? と思いつつ、パク・ジョンミンのあの胡散臭さがなんともいい味で、「いやひょっとしたら…フィクション要素もあるし……」なんて一瞬疑ってしまったよ。いい役者さんだなあ。
チェ・ジェヒョンを演じたユ・ジェミョン、温厚な佇まいのなかに深い悲しみが感じられて印象的だった。あのパタリと落ちる涙。観たばかりの『消防士』でも死者を見送り未来へと希望を繋ぐ役回りだったなあ、と尚更沁みた。キム・サンヒョン役のチョ・ウジンもよかったなあ…あれ、なあ……。
そして伊藤博文役、リリー・フランキー。いい仕事してはりました。他の日本人役はほぼ韓国の役者が演じていたのだが(パク・フンが怪演!)、やはり日本語の発音が気になってしまう。そうした引っ掛かりなく伊藤の言葉を聴けることは重要なことだった。リリーさんがこの役を引き受けてくれてよかった。ところでエンドロールで本名を初めて知りました。思えば本名なんなんだろうと考えたことすらなかったなー。リリーさんはずっとリリーさんです。クロスビートで下ネタイラストばっか描いてたリリーさんのままです(ニッコリ)。
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・ハルビン┃輝国山人の韓国映画 いつもお世話になっております。やっぱ特別出演ではあったんだ、チョン・ウソン。出るの全く知らなくて、鑑賞前にうっかり読んだレヴューで知ったという。これは知らずに観てビックリしたかった。でも知ってなきゃ誰か分からなかったかもしれないと思う程ボロボロの役だった。せつない。 しかしこれって、サプライズ扱いだったんだろうか? メディア自粛の流れでこうなったの? 『消防士』におけるクァク・ドウォンみたいな扱いだよな……パンフレットのプロフィール写真もどれですか? てな遠景写真だった。うーーーん
・韓国の独立運動家を描いた『ハルビン』、苦難の歴史に光を当てる映画の力「国や人が正しい方向に進めるように」【ウ・ミンホ監督インタビュー】┃HUFFPOST 「当時の韓国には身分制度があり、ウ・ドクスンは一般的な民で、キム・サンヒョンは貴族階級にあたる両班(ヤンバン)でした。(略)国を奪われたら、階級は関係なくなる。そんな2人が国を取り戻すために共に闘い、命を預け合う中で生まれてくる私的な感情にもフォーカスをあてました」 「記録には残っていなかったのですが、実際には女性も関わっていたのではないかと思い、コン夫人を登場させました。彼女は女性の独立運動家が確かにいたのだということを象徴する存在です」 「歴史を描く映画が必要なのは、それを伝えないと、繰り返されてはいけない歴史、悲劇がまた繰り返されてしまうからです。過去と今が繋がるストーリーには、国や人が正しい方向に進めるように、という思いを込めています」 コン夫人を演じたチョン・ヨビンも素晴らしかった。彼らがいてこそのラストシーン、本当によかった
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2025年07月12日(土) ■ |
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オフィスマウンテン『塹壕』 |
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オフィスマウンテン『塹壕』@ワイキキSTUDIO
逢魔が時の日の出町で、ふたりが自身の持つ身体をどう使い切るかを見る。微かな声と明瞭な台詞を追う。塹壕の中で生き延びれるか、「疑わないから、こうなるんだぞ」は空耳だったか。これから台本を読んでみる。 オフィスマウンテン10周年おめでとうございます。 山縣太一 × 飴屋法水 『塹壕』
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Jul 13, 2025 at 0:58
「エミネム」って聞こえた気がする…気のせいか……? と思っていた箇所、「笑み眠」と表記されていた。「疑わないから、こうなるんだぞ」は空耳ではなかった。刺さる言葉だった。
----- 脚本:山縣太一 作・演出・振付・出演:山縣太一、飴屋法水 -----
オフィスマウンテン10周年特別企画、山縣太一 × 飴屋法水による『塹壕』。1時間程、ということだったが、上演時間は約40分。毎日変わるのかもしれない。
最寄り駅から5分程の場所にある、雑居ビルの4階。数日前に案内のメールが届いた。地図ではなく文面で会場の場所を伝える、その文面も作品といえる。転載はせず要約する。駅改札を出て、交差点を斜めに渡り、大岡川にかかっている長者橋を渡る。駐車場に面した雑居ビル。4階の、二つある部屋の奥の方。古いビルのため階段のみ。隣の部屋の利用者の邪魔にならないように、ドアの前は開けておいて。共有のスペースではお静かに。
初めて行く会場、あまり乗らない京急線、滅多に降りない日の出町駅。少し遠足気分。そういえば初めてBUoYに行ったときもそうだった。未知の劇場への道のりは楽しい。
上演前(というか開場からもう上演が始まっているともいえるが)、山縣さんは何度も暑さに配慮した説明をされていた。エアコンは効かせていますが開演したら暑くなります。団扇を配布していますので、ご希望の方は声を掛けてください。上演中パタパタあおいでも全然構いません。飲食も自由です。水、飲んでくださいね。持っていないひとは今から買いに行ってもいいですよ、すぐそばにコンビニや自動販売機があります。具合が悪くなったら合図を送ってください。僕らもそちらを常に見乍らやりますので、すぐ気が付きます。ま、こちらも具合悪くなったら止めますし(笑)。後方に座っている方、見難かったら上演の途中でも立ち上がって結構です。スマホの電源は切らなくてもいいです。でも、撮影はご遠慮ください。普段は撮ってもいいんですけど今回は、ね。
開演迄の30分、それは繰り返された。こういう言葉は、観客をとても安心させる。後方のひとに団扇をリレーしたり、観客同士にもちょっとした連帯が生まれる。たまたま方舟に乗り合わせた30人ちょっとが、舟を出る迄いたわり合うような心持ちだ。ただ、上演が始まると、それどころではなくなる。観客ひとりひとりが、山縣さん、飴屋さんと一対一で向き合う。
山縣さんと飴屋さんの共演を観るのは『スワン666』以来。演じた役のイメージもあり、山縣さんにはずっと恐怖感がある。台本があるのに、演出があるのに、そして観客の安全に配慮していることは前説で充分わかっているのに、何をしでかすかわからない怖さがあるのだ。それは飴屋さんもそうで、表現の前には自分の身体を(結果的に)痛めつけることを厭わない。
「では、はじめまーす」。山縣さんの軽やかなキュー。囁き声のような飴屋さんの言葉。うまく聴きとれない。ここんとこ三半規管がぶっ壊れているので、自分の耳のせいかなとちょっと戸惑う。山縣さんが芯の太い、明瞭な声で台詞をリピートする。少しホッとする。しばらくは飴屋さんの台詞を山縣さんが通訳しているかのような感覚で聴く。しかしそれは途中で枝分かれしていく。飴屋さん今「ストパかけちゃおっかなー」っていった? それ山縣さんいわなかったよ? なんて思いつつ、段々ラップバトルを聴くような姿勢になっていく。
冒頭のツイートにある通り、帰宅後台本を読んだ。ストパのやめどころについてのくだりはあったが、「ストパかけちゃおっかなー」はなかった。台本通りに上演しているが、インプロの部分もあるらしかった。振付のクレジットがある通り、ふたりは各々ダンスのように動き乍ら、あるいは絡み合い乍ら台詞を発声する。カポエイラや柔術を連想するような動き。飴屋さんはときに痛いところを刺激されたかのように呻き声をあげ、山縣さんは膝にサポーターをしていた。肉料理の仕込みのように飴屋さんは山縣さんの背中をバチバチ叩き(調味料を擦り込んでいるようにも見えた)、山縣さんはホントに痛かったようでちょっと笑っていた。少しだけ和む空気。
膨大な単語、多数の韻。タイトルでもある“塹壕”は終盤に現れる。照明(部屋の明かり)がふ、と消える。停電? と一瞬思い、直後演出だと気付いた途端、恐怖が湧き上がる。雑居ビルの一室が戦場になる。カーテン越しの窓の外に、夜はまだ来ていない。塹壕を掘る、塹壕に入る。死体だらけの塹壕に取り残されたような気分になる。生きているなら、生き抜こうと思うなら、塹壕から出なければ。しかしここを出た瞬間死ぬかも知れない。弾が飛んでくるか、爆発物に触れるか。そして自分も、塹壕に積み上がっている死体のひとつになるのか……どうすればいい? 数秒で怒涛のようにイメージが沸き出る。この喚起力。
山縣さんの「終わりでーす」の声は、塹壕の底から這い出すためのロープのように感じた。そういえば、『スワン666』でも山縣さんの「終わりでーす」に我に返ったのだった。観客を現実に引き戻す効果のある声。
上演期間中何度も演じられる作品に、同じものはひとつもない。天気、気温、身体のコンディション、そしてインプロ。それは演者と観客、どちらにも作用する。そしてテキストをああいうふうに表現出来る演者はふたりといない。何度でも死に、何度でも生きる。ただ、いつかは死ぬ。それは身体を使い切る体力と知力に、回復力が追いつかなくなったときだ。あと何度生きられるか。
ビルを出ると外はまだ明るい。逢魔が時だ。山縣さんと飴屋さん、ふたりが身体をどう使い切るかを見た40分。二度とない40分。
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日の出町行ったの10数年ぶり、面影ラッキーホールを観にFRIDAY行って以来。で、ワイキキSTUDIOはFRIDAYの近所だった。大谷能生さんのスタジオなんだよなあ…と入場したら受付が大谷さんだった🫠
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Jul 13, 2025 at 1:01
ひぃとなった(笑)。改めてクレジットを見ると、「ワイキキSTUDIO共催」だったのでした。そしてFRIDAYは健在でした
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2025年07月10日(木) ■ |
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downy New Album Release Tour 2025『夜の背骨』 |
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downy New Album Release Tour 2025『夜の背骨』@Shibuya CLUB QUATTRO
雨曝しのdownyでした〜土砂降りでんがな 『夜の背骨』、ステージには7人いました。いたんだよ
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ドップリ20曲(+アンコール1曲)も没頭出来るワンマンはいい……しかしロビンさん曰く「気ぃ失うかと思った、400m走してるような感じなんだよ」「この歳でやる曲じゃないよね」。ウケてた。そして聴いてるこちらは両脚がつった。いや暴れてませんよ、視界を確保するため変な姿勢で固まって聴き入ってたからで……今身体中が痛いんですが、筋肉痛なのか節々が痛いのかわからん(ヨボ)。水を飲もう! ストレッチしよう!
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渋谷駅に着いたときがいちばん酷かったかな。どしゃめしゃ降りで、傘を差すのが躊躇われる程雷の距離も近い。小降りになるのを待っているひとたちが駅構内に留まっており、出口迄辿り着くのに10分以上かかって焦る。雨曝しの月は見えない。
2月の『Area No.9』からSUNNOVAくんのピンチヒッターとして森大地さんが、春からはギターのサポートで若命優仁さんが参加。6人編成でツアーはスタートした。6月末に、東京公演にSUNNOVAくんが数曲参加出来そうという告知があった。不安定な状態なので当日はどうなるか分からないという断りつきだった。だから終盤、ステージに彼が姿を現したときのどよめきはすごかったし、それに続いた歓声と拍手はひときわ大きいものだった。
とはいうものの、SUNNOVAくんは今回のツアー全公演の開演前SEを書き下ろしていた。そう、全ての会場で違う曲が流れていたのだ。その数なんと96曲(!)。この経緯は後述リンク参照。ツアー中、彼はバンドとずっと一緒にいたのだ。
アンコールで裕さんのストラトを手にしたロビンさんは、「これがザ・downyです」といった。そこに実体がなくても、不在の存在ともに進む。不在の存在も彼らとともにある。ステージに上がらない柘榴さんも含め、いまのdownyは8人だ。
新編成に伴い、既存の曲もリアレンジされた。音が分厚い。ギターが2本になったことでロビンさんがヴォーカルに専念する場面が増えた。ロビンさんの立奏自体が珍しいのだが、今回はなんと丸腰の(丸腰いうな)ハンドマイクで唄う場面も。がなる発声が必要な楽曲も多いので、曲間しきりに咳払いをし、ドリンクを口にする。「この歳でやるようなものじゃない」曲が立て続けに演奏される。
定番ともいえる曲は勿論、新譜からのナンバーにフロアが沸く。「日蝕」「foundyou」ではイントロに入った途端「ドワ!」というような声が上がる。複雑でアグレッシヴなリズム、リフにエモーショナルな声が乗る。しかし激しさ一辺倒ではなく、時折あたたかで切ない曲がポンと差し出される。「Night Crawlin'」の痛みと優しさは、当事者ではない者の胸にも強く響く。
普段クール(に見える)なリズム隊のエモ極まれりな場面も。今回のツアー、秋山さんがSNSでしょっちゅう苦行とか練習とか出来てよかったみたいなことを書いていますが(笑)、確かに新譜のナンバーはテクニカル的にもかなり難しいと感じる。パズルのようにリズムをあてつつ、なおかつバンドのグルーヴを生み出す秋山さんとマッチョさんにシビれる。あんなに激しくハイハットを叩く「弌」のカウントは初めて聴いた。こちらも感極まる。「安心」でのバチバチっぷりも凄かった。
余談ですが「海の静寂」のカウント、8分刻みで入るのでイントロ入った途端につんのめりませんか(こっちが)。BPM遅めの楽曲に感じるけど、実はずっと8でリズムが刻まれているということ? 大好きな曲だけどいつのカウント後にギョッとする。
映像が常にステージ上に投影されているのでとても暑いそう。秋山さんは最初からメガネも帽子も着けていなかった(珍しい)。暑い、キツいといいつつ演奏のテンションが途切れることはなかった。メンバーは握手やフィストバンプをしてステージを降りた。森さんが名残惜しそうにフロアをスマホで撮影していた。
終演後のロビーではロビンさん自ら物販に立ち、隣には「Night Crawlin'」を捧げられたお子さんがいた。控室から、上記した顔のSUNNOVAくんが出てきた。メンバーもスタッフも観客も、皆とてもいい顔をしていた。25周年おめでとうございます。日曜に仙台公演を終えたらしばらくライヴはないそうだけど(でも秋に中国ツアーがあるとか)、次のザ・downyをずっと待っています。
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ツイート拝借、セトリ画像シェア有難うございます!
setlist 01. 酩酊フリーク 02. 葵 03. goodnews 04. 断層ジャズ 05. 凍る花 06. 春と修羅 07. 剥離の窓 08. 海の静寂 09. 日蝕 10. 時雨前 11. 黒 12. 形而上学 13. foundyou 14. Night Crawlin' 15. 曦ヲ見ヨ! 16. 枯渇 17. 視界不良 18. 左の種 19. 安心 20. 弌 encore 21. 猿の手柄
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・一瞬で打ちのめされる強い音、即ちロック──downy「第八作品集『無題』」を青木ロビンが語り尽くす┃SENSA 「Night Crawlin'」は初めて人に書いた。成人して家を出ていく息子に ロビンさんはよく、「身の丈に合わない父親」「自分には勿体ないくらいの美しい子どもたち」という。第三者は美しい父親のもとにやってきた美しい子どもたちだと思ってますよ。 個人的に、「Night Crawlin'」はソウルセットの「Jr.」と同じ位置にある。こんな曲をつくってもらえるなんて、なんて幸せ者!
77.小さな音の亡霊┃Hiroya Tanaka(SUNNOVA) note 96曲の置き手紙。身体が移動出来なくても、託した音楽はどこへでも行ける
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2025年07月05日(土) ■ |
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『消防士 2001年、闘いの真実』『小林建樹ワンマンライブ BLOSSOM 夜空に咲いた打ち上げ花火』 |
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『消防士 2001年、闘いの真実』@シネマート新宿 スクリーン1
昼間は『消防士 2001年、闘いの真実』。いい映画だった…これもファクションなのですが、最後のテロップを見てここから18年もかかったの!? というのが衝撃的で……火事は火を出したひとだけでなく救助にあたったひとたちの人生を根こそぎ奪ってしまう。つらい
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Jul 6, 2025 at 0:54
原題『소방관(消防官)』、英題『FIREFIGHTERS』。2024年、クァク・キョンテク監督作品。2001年に起こった「弘済洞火災惨事事件」がモチーフとなっている。英題が何故「Fireman」ではなく「Firefighters」なのかは劇中で語られる。今では、性別を限定しないこの呼称が一般的になっているとのこと。
初めて韓国に旅行に行ったとき、地下鉄コンコースがものすごく広いこと、防災グッズが常備されていることに驚いた。特に防毒マスクがとても沢山用意されている。戦争(休戦)中だから、非常時に備えているのかなと思っていたのだが、その後『がんばれ!チョルス』を観て、2003年の大邱地下鉄火災をきっかけとした対策だったことを知る。そのことを思い出した。教訓を活かす。しかしその教訓の前に、多くの犠牲が払われている。待遇が改善されたとしても、失われた命が戻ってくることはないのだ。
物語の中心となるのは、消防隊のなかの救命班。火災現場に入り、建物のなかに取り残されているひとを救出するのが任務だ。重いボンベを背負い、酸素がなくなるギリギリ迄捜索と救助にあたる。救出した被災者を支えたり背負ったりするため重装備が出来ず、消火活動も出来ない。そして信じられないことに、彼らが着ているのは防火服ではなく防水服で、手袋も普通の軍手だったりする(なんと経費が出ない!)。国家〜! 行政〜! なんとかして! 怪我人はしょっちゅう出ていて、死者すら出る。隊員たちは自分たちの仕事に誇りを持ち任務に当たっているが、家族の心労は積もる一方。配属された新人は初日から自分たちが置かれている環境に疑問を持つ。
ちなみに当時の韓国は違法駐車が多く、消防車が立ち往生することもしばしば。行政〜!(再)班長は地元の議員に待遇改善を訴えるが、なかなか話が通らない。そんなとき、弘済洞で火災が起こる。
火災現場の迫力が凄まじい。マスクで制限される視界、酸素の残量を知らせるアラート音によるパニック。救命隊員が置かれた過酷な現場環境に、序盤からもう震え上がる。こんなに大変な仕事をしているのに、公務員(当時は地方公務員)だから給料いいんでしょとか待遇いいんでしょとか好き勝手いわれていて、ホント市民は公務員にもっと敬意を持てよ! と怒りにブルブルしますよね。事故も災害も起こらない平穏な日々が続いていると、公務員いいよなーサボってんなーと思うかもしれないけど、いざ非常時となったらその最前線に立つのは公務員なのだという想像力は常に持っていたいもの。持てよ! 想像力を!(誰にいっているのか)
スレた大人なので、この手の映画を観ていると「あーこのひとすごくいいひとだからきっと死ぬ」「あー今すごくいいこといったからこのあときっと死ぬ」とか考え乍ら観てしまい、実際そうなる。しかし、そうした隊員たちの人柄や、普段の生活の様子が丁寧に描かれることで、替えのきかないそれぞれの人生に思いを馳せることが出来る。冒頭にも書いたが、韓国で消防士を国家公務員とすることが国会で可決されたのは2019年のこと(2020年から実施)。任務の妨げとなる違法駐車を排除する権限も得た。しかしこんな大事故が起こってから20年近くもかかったのかと、やりきれない気分になる。なんでこうも時間がかかるのか……。この「弘済洞火災」は放火、違法駐車、勘違いといったエラーが重なった末の大惨事だったということもつらい。亡くなったひとたちは戻ってこないが、二度とこんなことが起こらないようにと願うばかりだ。
班長役のクァク・ドウォンが素晴らしい演技。このひと怖い役とか怖がってる役とかヤな役とか殺される役とかで観ることが多いので、そうだった、こんな優しい表情や声音が出来るんだ! 『哭声』でもすごいいいお父さんだったもんね! と改めて感心。いい役者さんですよね。彼をサポートする同僚、ユ・ジェミョンとの関係性も素敵でした。てかユ・ジェミョンよかったなー! ユーモアと哀愁のいいブレンド。
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でですね、以下余談というかなんというか。
出演者をチェックしていなくて、題材に興味を持って観に行きました。そしたらクァク・ドウォンめっちゃメインキャストだった。てかこれ、主役なのでは? 終映後ポスターに顔出てたっけ? と見に行った。出てない。名前は書いてあった。パンフレットを買った。出演者のプロフィール、クァク・ドウォンだけ炎と煙に巻かれた状態で全く顔が見えない写真が掲載されていた。監督や他のキャストのインタヴューにも名前が出てこない。意図的としか思えない。なんなん? ……そこで思い出した。クァク・ドウォン、飲酒運転で摘発されてたな……。
帰宅後調べてみたら、今作は2020年には撮影を終えていたのだがコロナ禍の影響で公開が延期され、その後やっと2022年に公開が決まったところにクァク・ドウォンの事件があり、再び公開が2年延期されてしまっていたのだそうだ。違法駐車ダメ! て映画に出といて飲酒運転(そして路駐)はあかん。あかん過ぎる。えーでもさ、でもさあ……。
予告編には普通に出てるじゃん! ポスターとパンフの扱いはなんなん! ゾーニングということであればwebでも観られる予告編に出してるのはおかしいし、観に来たひとの意志で購入するパンフレットに写真載せないのもおかしい。配給のアルバトロスの方針がわからない! てかパンフの写真、あんなん載せるくらいなら文字だけでもよかったじゃん……コントみたいだったよ! なんなん!
悪質なセクハラで裁判してた某ダルス氏なんて今や堂々と出てるのにな……『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』のプロモーションには全く参加してなかったけど、『THE WILD』なんてポスターにドーンと出ていたよ。こっちが気を遣ってSNSにポスター画像あげるときステッカー貼ったくらいだったよ。あの『イカゲーム』にも出てるんでしょ。全世界配信の作品じゃないか。
セクハラは犯罪の範疇じゃないってことなのかしら。でも性被害者のフラッシュバックに配慮するということならこっちの方がよっぽどゾーニングが必要じゃないのか。解せない。解せないわ(愚痴)。
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・消防士┃輝国山人の韓国映画 いつもお世話になっております。本国での動員数も載せてくれてていい資料、度重なる延期にも関わらず結構ヒットしたようでよかったよかった
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『小林建樹ワンマンライブ BLOSSOM 夜空に咲いた打ち上げ花火』@Com Cafe 音倉
7月に入ったばかりだけどもう納涼気分でした、はあいいライヴだった、団扇のお中元(?)つき
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Jul 6, 2025 at 0:46
いいたいことと思うこと、いっていいかなと躊躇していることがごちゃ混ぜで差し出される。しかし最終的に、それらは全て演奏と歌に集約される。不安、緊張に満ちたライヴ。そして最後には笑顔のライヴ。
かつて楽曲提供をした嵐の解散、米騒動、続く戦争。さまざまな世情に心を痛め、自分のために書いた曲とひとのために書いた曲の違いを考える。提供曲は「腑抜け」になっちゃうなんてなかなかドキッとすることを話しつつ、それでも小林さんのつくる曲には芯のようなものがある。
丁寧な演奏が印象に残った。勿論いつもそうなのだが、今回は特に。「ヌケ」や「引き算」を感じるライヴだった。休符を意識しているというか、リフが虫喰い的。そしてその虫喰い部分にリズムを加える。「進化」ではストンプのような「ダン!」という足音が加えられた。そして丁寧に演奏し唄いつつも、ひらめきはどんどん追加されていく。ひとつの楽曲の中に違う曲のフレーズが次々と入ってくる。今のはブリッジ? 次の曲に移行した? と思っているとそれは間奏だったりもする。
白眉は「ハート♡Radio」。架空のラジオ放送局のジングル、各局をチェックしていく様子が次々と展開されていく。まさに「音で絵を描く」。先日も書いたけど、ちいさい頃AMラジオを巡回していて朝鮮語の番組を受信し、「わあ、海を超えて外国の番組が届くんだ!」とワクワクしたことを思い出す。今はradiko等のアプリを介して聴くことが殆どなので、偶然電波をキャッチするなんてことは皆無に近い。ラジオってダイヤルをちょっとずつ廻して電波をピッタリ受信する過程も楽しかったんだよなあ。そんなワクワクした気分を思い出させてくれる、ラジオの魅力が詰め込まれている素敵な曲。
といえば「キナコ'87」のインパクトは何度聴いても薄れないな。こちらも夏の部活の情景が瑞々しく描写される楽曲なのですが、そんな、運動して汗かいて水飲んでそれで食べたいのがわらび餅!? と聴いててこちらの理解力がバグる(笑)。いや、疲れたから甘いものが食べたいのはわかる。わらび餅も本体はゼリーみたいでするりと食べられるのもわかる。でもキナコは……喉に詰まるじゃないか。あまりにも個性的なチョイスで、こういう曲って小林さんにしか書けないよなあともはや感動すらしている。
夏といえば、のアルバムは『Rare』。小林さんのリスナーであれば周知のところだが、同時に「苦しみ抜いて作ったアルバム」だということも知っている。その話はライヴのMCで何度も聞いていることだが、今回そこに「多くのひとに助けてもらって作り上げることが出来た」という話が加わった。この日は私に小林さんを教えてくれたにゃむさんとライヴを観ていて、開演前や幕間に「2枚目(『Rare』)って大概のひとが産みの苦しみを味わうっていうものね」「2ndから知ったので私は大好きだし思い入れがあるんだけど本人には辛い思い出が強いみたいだね」なんて話していたのだった。今回初めて関わったひとたちへの感謝の言葉のようなものが聞けて、少しだけホッとしたのだった。窪田さん聞いてる!? なんて胸が熱くなったりして。窪田晴男が関わっていたのはデビュー前から2nd迄。そうそう、この日は『Rare』期の「花」もやってくれてうれしかったな。
といえば、私が初めて行った小林さんのライヴは大学(どこだったっけ…中央大だったかなー)の学祭で、窪田晴男とのデュオだったのだ。そのときの演奏に一聴惚れして今に至るのだが、ふたりともギターでの演奏だった。学祭だったため運搬しやすいギターしか持ち込まなかったのかも知れない。直後に観たリリースしたての「SPooN」MVでもギターを弾いていたので、しばらくは小林さんのことをギタリストだと認識していた。今ではやはりピアノマンだと思っているが、ギターの演奏も本当に個性的だし魅力的。今回「祈り」を演奏する前に、「この曲はもうどのくらい唄ったかわからないくらい唄っていて、試行錯誤もしてきた。ギターでやったこともあって」という話に「それ聴きたい!」と思ったけれど、それは近年定期的に演奏を聴ける環境になったからこその贅沢な望みかな。次のライヴ日程については告知されなかった。
定期的にライヴ活動を再開したのは2022年、ウクライナとロシアの戦争が始まったあとのこと。そのときからもう何回この曲は演奏されただろう。「全く同じことを続けて、全く同じクオリティの演奏をいつでも出来るのが理想」といった山下達郎の言葉を紹介し、「自分にそれが出来るとは限らないけど、いつでも丁寧に演奏することを心掛けている」と話したあとに演奏されたこの日の「祈り」は絶品だった。光を放つようなピアノ、抜け良く響く高音の歌声。この曲には、やはりピアノがよく似合う。また聴ける機会に居合わせることが出来ますようにと願う。
音楽は世に放たれた瞬間から聴き手の解釈に委ねられる。だからいろんなことに利用される。戦争にも、平和にも。聴き手は平和な世界に鳴り響く音楽を聴きたいと願っている。小林さんの「祈り」が、争いの続く世界へと届いてくれることを願っている。
(セットリストはツアー終了後転載予定)
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Setlist(オフィシャルサイトより)
01. カゲロウ(嵐への提供曲) 02. カナリヤ(『流れ星Tracks』) 03. 満月(『曖昧な引力』) 04. 進化(『Rare』) 05. Joy(『BLOSSOM』) 06. Sound Glider(『Golden Best』) 07. SPooN(『Rare』) 08. マボロシ(嵐への提供曲) 09. イノセント(『Music Man』) 10. ハート♡Radio(『BLOSSOM』) 11. キナコ'87(『BLOSSOM』) 12. 花(『Golden Best』) 13. 祈り(『Rare』) 14. it's OK(『Gift』) encore 15. Mystery(『Mystery』) 16. ヘキサムーン(『Music Man』)
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余談。
・山下達郎がそういっていることは知っていたが(確かB'zもだけど、基本MCも変えないそうですね。どの土地に住んでいるひとにも同じ内容のライヴを届けたいという思いがあるそう)、ですよ。という芸人さんのことは知らなかったので「あ〜い、とぅいまて〜ん!」というネタについてはライヴ後教えてもらった(笑)。いつでも同じ「あ〜い、とぅいまて〜ん!」をいえるように、毎日毎日練習しているそうです
・嵐のメンバーに会ったことがないというのには驚いた。楽曲提供者なのに会えないのかー。レコーディングにも立ち会わなかったってことですもんね。アイドルへの楽曲提供ってコンペのことも多いそうだし、いろんな意味で厳しい世界だわ
(20250722追記) ・2025・夏のワンマン無事終了♫ありがとうございました!┃小林建樹オフィシャルサイト 次回の告知があってホッとしている(…)
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