水野の図書室
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2001年11月29日(木) 鈴木光司著『紙おむつとレーサーレプリカ』

なんだか不思議なタイトルです。『紙おむつとレーサーレプリカ』
あとがきで、著者は、おむつの持つ柔らかさと暖かさ、レーサー用オートバイの
持つスピードとパワー。かたや女性性の、かたや男性性の象徴であるこのふたつ
を並列させることにより、母性と父性のバランスを表現したかった、・・と。
この短編集『生と死の幻想』のテーマでもある、・・なるほど。。

このお話、子育てエッセイでも知られる、鈴木光司さん御自身のことを書いた
のかと思ってしまうほどでした。
主人公は、30過ぎの男性です。図書館で働く妻に代わって、家事と育児をして
います。朝、妻が出かけたあと、十ヶ月の女の子に離乳食を食べさせ、保育園
に送って、洗濯。それから、スポーツジムでインストラクターのバイトをして
五時に保育園にお迎えに行き、仕事から戻る妻を待って、夕食後は家庭教師の
バイトへ。

・・大変そうです。保育園にお迎えに行った帰りは、女の子をおぶい紐で
胸にしばりつけてアパートへ・・すごい!6ページまでに、違うとこで感動を
してしまいました。鈴木さん、もしかして、こんなふうにきめこまやかに
赤ちゃんのお世話しながら、あの『リング』を書いていたのですか?

お話の男性が家庭教師をする中学生の雅弘は、勉強が嫌いで、約束の時間に
家に帰らなかったりしています。頭を下げるばかりの母親、いない弟に代わって
教科書を持って質問にくる高校生の兄、おきまりのように父親の影は見えず・・

兄から、雅弘が暴走族とつきあっていると聞いた“おれ”は、連れ戻しに
暴走族のたまり場になっている喫茶店へバイクで向かう途中、暴走族の車に
幅寄せされて転倒。暴走族に殺意を抱いたとき・・

バイクの転倒シーン、読んでいて身がすくみます。
その場に居合わせているかのような緊張と恐怖。
そして、何より、子どもの存在って、大きいんだなぁと感じました。
子どもがいると、自分の生死は自分のものだけではないんですね。

鈴木光司著『生と死の幻想』(幻冬舎文庫)収録の『紙おむつとレーサー
レプリカ』は34ページ。短い中にも、いろいろ考えさせられた11分。
愛する者を守るためには、強くなくてはいけない・・








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