ダメダメちゃむ日記
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2002年10月02日(水) 待っていた少年

 夕暮れの歩道橋の階段で、少年は待っていた。
 助けてくれる人を。
 誰かが自分を救ってくれるのを。
 そして、僕は彼を、裏切った。

 仕事の都合で、ダーは今日は休みを取ったので、娘の迎えは彼に頼んだ。時間を気にすることなく、気の合う先輩と語り込んでいた。マスコミやら歴史に対する世界観が広がった、有意義なおしゃべりだった。帰りに本屋に寄った。欲しい本は特になかった。がっくり(;-_-) =3 フゥ
 駐車場に向かおうと外に出ると、もう薄暗くなっていた。ふと見ると、歩道橋の階段に小学生の男の子が1人で座っていた。腕時計を見ると6時20分だった。
「彼は、待っている!」
 それはただの直感だった。彼は誰かが声を掛けてくれるのを待って、小学校の向かいの、人通りが多い書店の前の歩道橋の下から五段目で、わざわざ膝を抱えて座っているのだ。
 自転車に乗った高校生も、車に乗り込む客も、誰も彼に声を掛けなかった。少なくとも僕が居合わせたその時刻、その場所に、彼に話しかける人はいなかった。
「ど〜おしたの?」
 いつものように、砕けた調子で僕は彼に話し掛けた。「夕暮れ」時に、「わざわざ人目につく場所」で「誰か」を待っている彼に応える者は、今は僕しかいなかった。少年は少し顔を上げた。しかし、勿論返答はない。「どうして今ここにいるのか?」応える言葉を、恐らくは彼自身も知らない。
 5年生くらいかな? 密かに僕は彼を観察した。半袖半ズボンの彼の両手両足・顔には、傷は見られない。少なくとも、彼は身体的虐待児ではないと、とっさに判断がついた。外傷が見られるようなら、彼の担任が何らかの処置を施している「はず」だ。
「もう暗くなるよ?」
「暗くなったら、車とか、恐い人とか……。危ないよ」
 少年は微かに頷いた。そんなこと、彼はとっくに承知している。でも、彼は「帰りたくない」のだ。だから、わざわざこんなところに座り込んでいるのだ。
「いろいろ、あるよね?」
 少年は頷いた。彼には「事情」はある。ただ、彼を対等に扱ってくれる大人がいないだけなのだ。そして、「それ」を彼は待っていたのだと、改めて僕は確信した。しかし、「僕」に何ができるのだろう? 彼が抱えている事情と苦しみと哀しさを、果たして「今」の「僕」が請け止められるのだろうか? 家では愛する連れ合いと2人の子どもが、僕の帰宅を待っているはず。辺りは暗くなってきた。下唇を噛み締める少年に、僕は聞いた。
「お家の鍵は持ってる?」
 少年は首を振った。彼はランドセルを背負ってはいなかった。一度は帰宅したことが読み取れる。向かいの小学校は完全に消灯している。彼は小学校に残ることも許されなかったのだ。
「お家の鍵は開いてる? 閉まってる?」
「……わからない」
 彼が初めて発した言葉が、僕に突き刺さった。少年の家庭の崩壊が、見ず知らずの僕に突きつけられた。
「家に帰りたくないの?」
 少年は頷いた。
「でもね、やっぱり帰るところはお家しかないと思うんだよね」
 少年は立ち上がった。暗い表情でうつむいて、彼は帰途に就いた。
「人生いろいろあるさ。頑張れ!( ^ー゜)bサムズアップ」

 そうだ、僕は自分の時間と引き換えに、少年を突き放したのだ。
「苦しい時は誰かに『助けて!』って言っていいんだよ」
「何をどうしても頑張れない時は、無理に頑張らなくていいんだよ」
 それを彼に伝え忘れていた。彼には守られる権利がある。それなのに、僕は彼を家に突き帰したのだ。
 ごめんね。次にあった時は、僕は君にきっとそう言うよ。


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