カンラン 覧|←過|未→ |
嵐の前の静けさ。 私の右 親・人指し指・・・シールをはがす。貼る。 中・薬指・・・シールの台紙を押さえる役目。 小指・・・みんなを支える。 私の左 親・人指し指・・・封筒を一枚一枚つかんで送る。 全員・・・封筒押さえ。シールを貼り終えた封筒を机の隅っこに運ぶ。 別に命令したわけじゃないのに, 話し合いでもしたかのように役割分担して動いてる。働いてる。 まるでそれぞれが考える脳みそを持ってるみたい。 私たちみんな知らないけど。 (人間が理解できてないことだってあってもいいと思う。) こういう作業ってなんだか好きです。 これ以上長く眺めていると私の意識が せっかく生まれたリズムを壊してしまいそうだったので, 他のことをもわもわと考えることにしました。 ********************************************* 小さい頃住んでた家。 余計なものは一切置きたくないというお母さんが 料理したり,洗い物したりしてた こざっぱり片付いた台所。 流しに立つお母さんのすぐ後ろ, 砂糖のたくさん入ったつぼやセロテープ,アルミホイルなんかが置いてあった棚の一番低いところ。 収納のとびらがありました。 家族以外の人の目に触れることはないところだったけど, もしも誰かが見たとしたら, ひどく汚い,めちゃめちゃなとびら。 あの時私,何歳ぐらいだったんだろ。 幼稚園に通ってた頃か小学校入りたてか。 お父さんの仕事の手伝いでお母さんは一日中ほとんど家にいなくて, ご飯を作りにちょこっと帰ってきたお母さんに私はよく張りついてた。 そんな私に与えられたのがそのとびら。 「そのとびらだけはエスの好きなようにしていい。」って。 お母さんの後ろに座り込んで, 毎日毎日ぺたぺたぺたぺたシールを貼った。 ドラえもんカレンダーについてた大小よりどりみどりのシール。 買ってもらったお菓子のおまけシール。 いとこのお兄ちゃんにもらったゴジラのシール。 最初は「ほんとにいいの?」と 遠慮がちに隅っこの方から貼り始めてたものの, 日が経つにつれて, どんどんどんどん空きスペースが埋まっていって, 古いのをはがした上に貼りつけたり, はがした後の白く残ったところに覚えたての文字をマジックで書いてみたり, そんな風にして過ごしてたようです。 半分は私の記憶で, 半分はお母さんの記憶。 ******************************************* シールを指先につけたまま, いつの間にやら生まれたリズムを忘れてしまうなんて, もったいないことをしたなぁ,と思った。
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