ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

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2002年03月26日(火) 、そして三年後

 そして三年後、私たちがどうなっていたかを話そう。
 宗司、幸せだよ、とだけ言ってわたしは宗司のもとを離れたのだけれど、そう、宗司は今もまだ幸せだという。わたしは、不幸せだ。
「陶子、久しぶり」
 宗司が言った。本当に久しぶり。わたし、ずっと、宗司に会いたかった。
「元気にしてた、わけ、ないよなぁ。ごめんな。俺のせいだ」
「そんなことないよ、宗司、今でも大好きだよ。三年もあえなくて、さびしかった」
 宗司はわたしのほうを見た。三年前と同じ大きな目。みつめられるだけで、どきどきする。
「三年間、宗司は何してたの?」
 宗司は思い出を語るような遠い目で答えた。
「んー、陶子にあえなくなってから、ずっと独りだった。最初はなんだか人間全部が敵に見えた。俺、陶子に甘えてたんだ、よね。なんか周りの目とか気になって。でも、いろいろあって、今は言える。いきてきて、良かったって。陶子、ありがとう」
 宗司の真剣な言葉に、わたしは不覚にも目が潤んだ。
「宗司、ありがとう。ありがとう」
 宗司はわたしを抱きしめた。三年前と変わらない、力強い、腕。
 あぁ、これは愛なんじゃないか。


★★★

 ドアを開ける。
 薄暗い部屋で、宗司が一人で立っていた。腕は誰かと抱きしめあっているように、輪を描いている。バレリーナのポーズにも見える。
「宗司?なにやってるの?」
 宗司がこちらを向く。
「バカ、お前失礼だぞ。な、陶子?」
 宗司が誰もいない宗司の隣を、なでる。女の輪郭が、見える。宗司がパントマイムの名人だなんて、知らなかった。
「おい、千葉、お前出てけよ」
 宗司が、嗜めるように言う。
「どうして?」
「どうしてって、みりゃわかるだろ。俺と陶子、今、感動の再会してるんだから。三年もあえなかったんだぞ。恋人同士だっていうのに」
 あぁ、宗司は、まだ、真実をみつめていないんだ。
「ほらほら、向こう行けって。お前、妬くなよ、バカ」
 みている方が、つらくなる、宗司の笑顔。
「宗司、ねぇ、聞いて」
「なに?」
「陶子、もう、死んだんだよ、三年も前に。いい加減、みとめなよ」
「はぁ?お前なにバカなこと言ってんだよ。な、陶子」
 宗司が、陶子がいるらしき場所に向かって、微笑む。何もない場所に、口づけをする。
「ちがうよ。自殺、したんだよ、陶子は。忘れたの?」
「自殺?なに、お前、頭おかしいだろ。ほんと、ゆっくり休めよ」
「思い出して!三年前、あんたが陶子を裏切った。陶子はあんたを恨んだ。そして、そして、ビルの屋上から、屋上から、飛び降りたんだ!」
 宗司の大きな目が見開かれる。その目は、急に現実に引き戻され、澱んでいた瞳の色がクリアになる。涙が溢れ出でる。声にならない、宗司の声。
「陶子、陶子、陶子」
 わたしは肌身はなさず持っている、陶子の遺書のコピーを取り出した。
 陶子はわたしの親友だったから、わたしが持っている。
 わたしは陶子が大好きだった。美しくて、やさしくて、不安定で、悲しくて。
 でも、陶子はもう、いない。


「わたしは宗司を恨む。
 わたしは宗司のそばを永遠に離れない。
 それがわたしの呪い。
 それがわたしの愛。」

 宗司は泣き崩れ、そばにあったナイフで、その体を、刺そうとした。
 わたしはそれを奪った。
 相手は三年間部屋から外に出なかった男だ。難しいことじゃない。
 わたしは宗司が泣き止むまでそばにいようと思った。
 そして、泣き止んだのなら、その息の根を止めてあげようとも、思った。


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