ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

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2002年04月06日(土) 今日は雨でした。今日は奇跡が起きました
 雨が降っていた。
 嘘です。関東地方は今日も晴れ。良かったね、お百姓さん、良かったね、ファミリの人たち。

 もうすぐ春休みが終わります。

 終わらないと思っていたのに。
 終わらない、というのは、すこしだけ怖いね。

 揺花が笑う。君はいつもそうだね、と。たしかにそうなのかもしれない、とわたしは同意をするのだけれど、そう、というのがなんなのか実はよくわかっていない。指示語は難しい。
「国語のテストみたいに考えれば簡単な話だよ」 
 と、艶かしい赤のつやつやきらきらをぬりたくったまるで魅力の感じられない子供じみた唇をゆりかがはっきりと動かした。
 国語のテスト。それ、とか、そういう風、と在ったら、すぐ前を見なさい、ということ。「すこしだけ怖いね」が、正解だね、とわたしがあまり自信などないくせに面倒くさいものだからさも本当だと言う風に答えると揺花は笑って、
「ぶっぶー」
と、子供のように言った。いや、ここでは云った、というのが似合う気がする。なんとなく。
 わたしの部屋には両手を広げたぐらいの幅の本棚があって、高さはちょうど天井に届くぐらいなのだけれど、そこにぎっちりと入った本、あるいは、マンガを、わたしは国語のテストのときのように読め、と言われたら、きっとぶっぶーなのだろう。ぶっぶー、と、わたしは声に出してみた。声に出すと自分の考え、あるいは行動が不正解なのだという虚無感がよけいに募り、わたしは焦ったように心の中でぴんぽんぴんぽーん、と、何度も繰り返していった。揺花はそんなわたしをわらった。わたしの何がわかるのだ、と、すこし憤りを覚えたけれど、揺花は国語が得意だ、きっとわたしの分析などできているのだろう。
「なんでそんなに、黙ってるの?黙ってると思ったらぶっぶー、だなんていうし」
 さぁなんででしょう、とわたしは他人行儀に訊き返した。さぁなんででしょう。と揺花が云った。
「あ、私の真似などしないで下さい」
「あ、私の真似などしないで下さい」
「そんなことをしたらまたわたしは黙るだけですよ」
「そんなことをしたらまたわたしは黙るだけですよ」
「もう、腹が立つ。もう黙ります。手を三つ打ったらわたしは一生揺花の前では黙っている」
「もう、腹が立つ。もう黙ります。手を三つ打ったらわたしは一生揺花の前では黙っている」
 とん、とん、とん、と、やわらかい音を立ててわたしは手を叩いた。
 揺花もまねをした。けれど揺花の拍手は、ぱん、ぱん、ぱん、と、甲高い音がした。
 わたしは考えていた。今なったのは、左手か、右手か。
 いや、わたしなのか、空気なのか。
「バカなこと、考えてるね」
 揺花はわたしの考えをよんだのだろうか。エスパーと言う奴か。じゃぁこれから揺花のことはマミと呼ぼう。マミ、マミ、マミ。よし、これでいい。
 マミが云った。
「あんたは、いつもバカなことしか考えない」
 マミは憎たらしい奴だ。おい、マミ、お前、今から死んでしまえ。この歩道橋から飛び降りて死んでしまえ。マミ、お前はエスパーだろう。
 マミはにたにたと笑っている。
 マミ、マミ、マミ。
 あれ、マミ?それって、わたしじゃん。やだなぁ。バカみたい。
 わたしは下品に笑って揺花の肩を叩くと、歩道橋の上から車のたくさん通っている高速道路へとダイブした。


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