ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ |
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2002年04月07日(日) | 浜辺にて。 |
海の見える丘でわたしたちは出合った。 彼女は長い髪を風になびかせ、人魚のようだ、と、わたしは思った。 随分と陳腐な発想だとわたしも思う。けれど小さい頃読んだアンデルセンの挿絵をわたしはありありと思い浮かべることができた。 「ごめんなさい、ちょっと、あなた、その双眼鏡、貸してくれる?」 わたしは首から双眼鏡をぶら下げていた。鳥をみに、この丘まできた。 わたしは彼女に双眼鏡を手渡した。 「海が、見えるね」 あたりまえだ。 「海に、泳いでいる、人がいる」 まだ三月だ。そんな人、いない。 あの人は、死んだ人よ、と、無感情に彼女は云った。 「そんなことないでしょう?」 いいえ、あれはわたし、と云って彼女は去って行った。 双眼鏡を手渡してから。 もう一度会いたい、とわたしは思った。 わたしは海まで降りていった。砂浜を歩くのは均衡がとれないようでいて、足のうらに確かな砂の感触を感じる。 彼女が、いた。 「ねぇ、なにしてるの?」 彼女は髪をさらさらとなびかせて振り向き、わたしの目をじっと見た。瞳の奥の網膜が刺激される。 「これから、帰らなくちゃ」 そう、残念、とわたしは云った。また会いたいから、とでも云っておこうか。 いやしかし、女同士のナンパなんて気色悪いし。 悩む私を彼女は見ると、またアンデルセンの挿絵のように笑って、海に入った。 え、なにするの、ちょっと、寒くないの、などとバカのように叫ぶわたしなどかえりみず、彼女は海の遠くの遠くまで泳いでいった。 夕日がゆらゆらとゆれて、わたしは何かの歌みたいだ、と思った。 |
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