in love with...
沙夜



 Everything

胸の奥が時折ヒリヒリと痛む。
なんだかとても久しぶりに味わう、懐かしい感覚。
この感覚は……


+++


急に決まった旅行だった。

神々しい山々。蛍。満天の星空。
湯の花が舞う、かけ流しの露天風呂。

どれもが素晴らしく、癒された。
多分今までで一番安価であった宿なのに、最高に贅沢な気分を味わうことが出来た。


明かりを落とし、露天風呂で二人、しばし夜空を見上げ続けた。
天の川を見るのはこれが二度目だ。
ただ、すごい、という言葉しか出ない。
前日までは雨が降り続いていたというから、この幸運に感謝しなければ。

「あ、また流れ星」
「ずるいな、沙夜ちゃんばっかり」
「でもお願い事は出来なかったわ」

きっと今の私には願い事がありすぎて、ひとつには絞れない。


宇宙を感じながら、このままここで眠れたらどんなに素敵だろう。
名残惜しかったが、いつまでも真っ裸でお風呂に突っ立っている訳にもいかない。


「あー、幸せ。このまま死んでもいい」

部屋に戻り、布団に身体を横たえながら彼が言う。

「そうだね……」

それが可能だったら、どんなにいいだろう。



チェックアウトぎりぎりの時間まで温泉を堪能した。
笑顔でお見送りするおカミさん達に彼は「また、来ます」と声をかけていた。

雪の季節に訪れることが出来たら最高だ。
道のりは恐ろしく大変だろうけど。


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帰り道、カーオーディオから流れるMISIAの "Everything" を聴きながら、
押さえ込んでいた感情が涙となって溢れ出した。






2006年07月23日(日)
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