lucky seventh
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「俺、お前が大好きだ。」
いつもの下校風景 桜の時、ふたりで並んで歩く。
「俺さ、転校するんだ」
ふいに昂巳(タカミ)は言った。 その目は遥か上空で咲き誇る薄紅色の花を見ていて、 そこよりどこか遠い場所を見ていた。
「春にもユキが降るんだぜ」
ふいに昂巳は呟いた。 さっき言った言葉を忘れたかのように、 瞳は今度はちゃんと薄紅色の花を見ていた。
「早咲きの桜なんだけど、本当にユキみたいなんだ」
振り向いて消えそうに微笑んだ。
「お前と見たかったなぁ」
知名(チナ)は顔を歪ませた。 哀しいのか、寂しいのか自分でも分からなかった。
「一緒にいるって約束したのに、ダメになっちまったな?」
声には自分を非難するような響きを含ませ、 彼は自嘲的に笑った。
(そんな顔が見たいんじゃない)
昂巳のそんな表情に知名の胸は痛んだ。
「笑ってよ」
「知名?」
知名の口から零れでて言葉に 昂巳は不思議そうに知名を見た。
「昂巳は笑ってて」
知名は笑っていた。 泣きながら哀しそうに笑っていた。
「私は大丈夫だよ」
大丈夫なはずない。 そう、思ったはずなのに昂巳は何も言えなかった。
「昂巳はたった一言、それを言ってくれれば私は大丈夫...」
彼女はほんの少し躊躇して、だけど言った。
「待ってて言って」
昂巳は泣きそうになるのを堪えて言った。
「待っててくれるのか?」
知名は心の底から嬉しそうに笑った。
「もちろんだよ」
ふたりの頭上からは色付いたユキが はらはら、はらはらと止むことはなく降り続けていた。
「俺、お前が大好きだ」
「私も昂巳が大好きだよ」
それは決して溶けることのないはるに降るユキ。 ------------- たった一言で、人は強くなる。 たった一言で、人は安心できる。 言葉は、約束は、もっとも脆弱で、人の夢のように儚い、 けれど、それ故に最悪、最強にして無敵の切り札(ジョーカー) と、なしえる。
ナナナ
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