lucky seventh
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2004年06月11日(金) |
ふりほどいた手、いえなかった約束3(無色シリーズ) |
目を閉じて、すりぬけていく風に指を絡ませた。
あぁ、どうかこの思いが君を守り続けていますように
祈りは、 願いは、
それだけでは決して叶わないと知っていたのに…
どうしては人は、そう思わずにはおられないのだろうか?
・ふりほどいた手、いえなかった約束・
「何をしている」
丘の上で、風に吹かれている闇にむかって男は口をひらいた。 さらさらと美しい髪は声がかかると同時にほんの少し反応をしめし、揺れただけだった。
「何をしている」
根気強く、男は語りかけた。 元来口数の多い方ではないのだろうことは、出会って少しの間で男にはそれが分かった。 あの炎に包まれた村の時に喋って以来、闇は喋り過ぎたとばかりに口をとじていた。 そうして時折、ぽつりぽつりと溢れるように言葉をこぼす。 しゅうじゅうするように間をおいて、ソレは口をひらいた。
「聞いていた…」
「?」
「風に、今でも守られているか…と」
しかし、その言葉の大半は主語はぬけているようものだった。 表情の抜け落ちたような能面の顔にはなんの感情もうかがうことはできず、 その真意を計り知ることは、いかに男が並々ならぬ軍人でも不可能であった。 ただ、こうして語る言葉の端々には何かが込められているのだけは何となく感じ取れた。
「そうか」
風がふわりと慰めるように、ソレの髪をすいている。 黙ってソレは優しい風の手に身をあずけていた。 その瞳にはなんの感情も浮かばず、ただただ遠い何処かを見つめているだけで、 今にも消えてしまいそうなほどその存在感は希薄になっていた。 溶けて消えてしまうそううな闇に、男は手のを伸ばした。
「お前は…」
闇は微動だにしない、ただその瞳が如実に動揺をあらわにしていた。
「イ…ラァ…」
声にならない言葉で誰かの名前を呼ぶ。 男はその瞬間、細い腕を掴み自らの胸の中に闇をかき抱いた。 その強い力にソレは呻いた。
「お前は…誰を思っている」
すっと、耳によせられた唇によって呟かれた音に腕の中のソレは震えた。
「お前は誰を俺に重ねている」
見透かされたその言葉にさめたように闇は男を突き飛ばした。 すべて、捨て去るかのように。
「知らない」
闇は心の中で何度も愛おしい召喚主の名を呼ぶ。
「知らない」
かたくななソレの態度に、男は口付けた。
ナナナ
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