lucky seventh
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2004年06月10日(木) きみよ、光となれ








「うらやましいなぁ…」

肘をつきながら、感歎するように言う彼の仕種に私は笑った。
現在の時刻は日が真上にのぼりかけた午前11時過ぎ、
朝食の時間はとっくに過ぎているので、カフェにはブランチを楽しむ人影がまばらにあるだけだった。

「何、笑ってんだよ。」

私の話しに素直にそう言う人は珍しかった。
そんな風に言える彼に私は嬉しくて笑ってしまった。
ストローを口に加え、すねている彼はあの頃と変わらない少年のようで、
眩しいものを見るかのように私は目を細めた。

彼はヒカリなんだ。

「あぁ!またバカなこと考えてるんだろ!!」

さっきとうって変わって何だか照れたように彼は怒鳴った。
精神感応(テレパシー)の適合者である彼にとっては抑えているとはいえ、
長い付き合いもあって私の思っていることは大体分かるらしい。
ほんのり赤く染まった顔をかくすように、自分の髪をガシガシと彼はかき混ぜた。

「そんな羨ましいことばっかりでもないんだけどね。」

クスクスとこぼれる声を止めようともせず、私は笑いながら話しを元に戻した。
これ以上続けると本題からそれる上に、お願いしてもいないのに、
彼が1人でどつぼに入るのが目に見えていたからだ。

「聖なる証。って崇めたれられるのはまぁいいとして、
 だからって羨ましがられてもねぇ。けっこう痛いんだよコレ。」

そうやって、手の平を彼の方にズイっと押し出した。
それを見た途端、彼はウゲッと嫌そうに身を引いてイテっと小さく呻いた。
私の手のグロさと、見たことによって彼の力が無意識に働きかけ、
痛みがダイレクトに流れ込んできたんだろう。
ここまではっきりと態度に表わす人は珍しく、私はまた笑ってしまった。

「ってか、痛みが尋常じゃねぇだろ…」

笑う私に、彼は不機嫌そうに言った。
いっけん怒っても見えるその態度は、実は私を心配してのものだと知っている。
そう、たしかに尋常ではない痛みなのだ。
これはそれを持つものにしか分からない痛みと、そして重みを持っているのだ。
こちらをうかがうように見る彼を安心させるように微笑んで、私は言った。

「人が望むものは必ずしも誰かが望むものと限らないように、
 私が望むものも同じだとは限られない。」

「違いねぇ」

そういって納得したように頷く彼もまた、自らのその力でたくさん苦しんできたんのだろう。
その横顔は、どこか大人びていた。

「だが俺らは、望む望まないにしろ手に入れちまった。
 だからもう、否定しても何も始らないところにまで来ちまったんだ。」

私を見つめる瞳は強く、優しい。
彼はなんて強いのだろうかと私は改めて思った。
傷付いて、傷付いた分だけ彼は強くなる。
そのすべてをバネにして、まるでそれは弱くては生きていけなかったかのように、
悲しい強さを感じた。

「受け入れる、しかなかったのかもね。」

私の言葉にほんの少し悲しそうに彼は笑い、
けれどその悲しみを満面の笑みに変え、自信満々に彼は言う。

「あぁ。
 でも、それを選んだのは俺自身んだ。」

それはふきったような清清しいものだった。


「少なくとも、俺はそう思いたい。
 そう思うことは力になる。」










悪夢は終わらない。



この身をつらぬく光の刃

手の平にくいこむ幻視の痛み

さいなまれる


悲鳴をのみこむ

これは夢だ



されどさめない夢がないように
また、終わらぬ悪夢もないのだろう。




ナナナ

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