短いのはお好き?
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中目黒の駅前で真希と待ち合わせしていた。 ぼくはギターのソフト・ケースを足元に置き、煙草を吸おうか吸うまいか迷っていた。 改札の上の丸時計に目を遣ると、約束の時間を10分ほど過ぎていた。
結局煙草を吸おうと思い、ライターを捜していると真希が現われた。 瞳に、はにかんだような笑みを湛えてこちらに歩み寄ってくる真希。
「ごめんなさい。遅くなちゃって」 いや、いまきたばかりだから、と言いかけたときケータイにリサから着信。 きのうのきょうで仕方ないから、真希に軽く会釈し、すぐ切るつもりで出る。
「ちょっとなによ、きのうは。デートすっぽかしてどこいってたのよ」 「ええっと、だってもう帰るっていうから……」 「あのね、女の子の『もう帰る』は、『早くして!』なの。そんなこともわからないの」 「ごめんごめん。……あの、それでさ、いまシリアスなドラマの進行中なんだ。きのうの埋め合わせはかならずするからさ」 「シリアス? なにそれ。どうせくだらない小説のなかでのお話でしょ。小説とあたしとどっちが大事なわけ?」 「ちがうって。いまマジに取り込み中なんだ。あとで絶対連絡するからさ」 「ふーん。どうせ、真希とかいう女(ひと)でしょ? 2年前に亡くなってるんだから、いい加減ひきずるのやめなさいよ」
更にリサはなにか言いかけたけれど、……切ってしまった。それどころじゃないからだ。
「真希、ごめん」 真希はううん、と首をふる。 「だいじょうぶなの? 無理しないでね」 「真希こそ身体の具合はだいじょうぶ?」 「うん。だいじょうぶ。でも、スタジオ行けなくてごめんね」 「いいってそんなこと。真希のとこ行けるなんてかえってラッキー!」
ぼくと真希は駅前のアーケードを連れ立って歩き出した。
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